第7話 男爵令嬢に虐められそうになってエルダに助けられました

皆の食器の中を見ると、主に私が話していたので、私だけが食べるのが遅くなったみたいで、慌てて食べだした。

でも、憧れのフィル様が隣りにいると思うとメチャクチャ食べづらい。


チラッとフィル様のお皿を見ると何故か人参だけが残っている。


「えっ、殿下って」

「フィル!」

私が話そうとしたらいきなりフィル様に突っ込まれた。本当に面倒くさい。


「あああ、判りました。フィルさんって、ひょっとして人参が嫌いなんですか?」

「いいや、そう言うわけでは」

「ぷっ」

言い訳しようとした殿下に残りの男3人が吹き出す。


「おいおい、どうする。女の子にまで指摘されてしまったぞ」

側近の一人のルーカス・ヘドルンド伯爵令息が囃し立てた。

側近たちは本当に仲がいいみたいで、ここでは完全に殿下に対してタメ口だった。


「いや、まあ、少し苦いのが苦手で」

殿下が嫌そうに言う。ゲームではそんな設定無かったんだけど、やはり現実は少し違うんだ。


「でん、いやフィルさん、好き嫌いはダメですよ。実は私も人参嫌いだったんです。人参の色が私の髪の色みたいじゃないですか。昔、近所の子らに人参って言われてからかわれていたんです」

「そうなの?、アンさんの髪はきれいだと思うけれど」

「はいはい、私のことはどうでもいいんですけど」

「えっ、事実なのに」

王子様がとんでもないことを言ってくれるんですけど、さすがに身分が上の方は違う。褒めるのがうまい。しかし、それは私に気があるのではないかと勘違いしそうになるので止めてほしい。


「で、どうやって克服したの?」

私が真っ赤になって固まってしまったので、続きをエルダが促してくれた。


「母さんに、言われたんです。好き嫌いしていると胸が小さいままだよって。だから必死に食べて・・・・」

言ってから私は真っ赤になってしまった。


「ごめんなさい。男の人には胸の大きさは関係なかったですよね。でも、男の人も好き嫌いしていたら出るとこでなくなると思うんです」

「出るとこって?」

アルフが意地悪に聞いてきた。


「えっ?」

私はその言葉に固まってしまった。そう言えば男の人の出るとこってどこだろう?

そこは無視してよ。私は言いたかった。


バートが腹を抱えて笑っている。ちょっと笑いすぎ。


「まあ、とにかく、好き嫌いは良くないんです」

私は強引に話を終わらせた。だって今度は皆が私の胸とエルダの胸を見比べて何か言いそうだし。

私もせっかく好き嫌いなくして必死に食べたのに、胸が小さいままって、絶対におかしいと神様に言いたかった。


「そうなんだって、フィル。女の子にそこまで言わせたんだから食べろよ」

バートが言う。


「わかったよ」

すねて人参を嫌そうに無理やり食べる殿下もとても可愛かった。可愛いいなんて、男が言われると嫌かもしれないけれど。

こんな真横でそんなフィル様を見られるなんて本当に眼福だった。


「アンさん。人参はちゃんと食べるから、人の事面白がってみていないで、さっさと食べて」

私の視線に気づいたのか殿下が文句を言ってきた。そうだった、私一人が遅いのだ。私は慌てて食べだした。


「なあ、アンは、ちゃんと好き嫌いしないで食べるようになったのに、出るとこ出てないんじゃないのか」

「しっ、それは禁句だ」

斜め前のアルフとバートの小声の会話がはっきり聞こえるんですけど。


「何か言った」

「いや、何も」

私がギロリと見ると二人は思わず明後日の方を向いてくれた。

ふんっ、私は地獄耳なんだから!




食事が終わると私とエルダは殿下らと分かれてお手洗いに行った。

そして、私はそのトイレの前で会いたくないと思っていた相手に捕まってしまったのだ。


「ちょっとアン、あんた、私に全然挨拶に来ないってどういう事?」

そこには私の家のある町を治めている男爵家の娘、カリーネ・アベニウスがいたのだ。


私と同じ歳で、この学園に今年から通うのも知っていたけど、私は出来るだけ、関わりたく無いと思っていた。折角同じAクラスに居なくてラッキーと思っていたのに、よりによってこんな所で捕まるなんて!

この令嬢はいろいろと口煩いのだ。文句も多いし、威張るし、ちょっと私より胸のサイズが大きいからと自慢するし、領地にいる時から出来るだけ避けていたのだけれど、遂に捕まってしまった。

色々うるさいこの領主令嬢は母のお客様だったけれど、はっきり言って私は嫌いだった。


「お久しぶりです。カリーネ様」

私は仕方なしにお辞儀をした。


「あんた、挨拶くるのが遅いわよ。ネイなんて、その日のうちに挨拶に来たのに」

横にはカリーネのおべっか使い、領地一の大きさの商人の娘ネイがいた。

「そうよ。普通は学園の寮に入ったらすぐに領主様のご令嬢のカリーネ様に挨拶に来るべきよ」

ネイが言った。


私はため息を付きたくなった。

こいつら馬鹿だから、学園に入れないんじゃないかと一抹の希望を持っていたのだが、さすがにお貴族様が不合格になることはないみたいだった。取り巻きは5人いてこのネイ一人しか受からなかったらしい。それは良かった。こんなのが6人もいたらもう私の青春も終わりだ。


「今まで何やっていたのよ。聞くところによると、あなた、わがまま公爵ご令嬢の取り巻きになったんだって」

なんか情報が歪んで伝わっているみたいなんだけど。私はわがまま公爵令嬢と言われたエルダの方を見ると、ムッとしていた。


「あんたなんてすぐに捨てられるに決まっているからこちらに帰ってきなさいよ」

「そうよ。あなたは礼儀作法もなっていないし、要領も悪いんだから。それに、あそこのご令嬢は怒らすとすぐに手が出るそうよ。ヨンソン様がおっしゃっていらっしゃったわ」

ネイが更に加えて言ってくれた。

ええええ! エルダって怒ると手が出るの?

エルダは首を振っているけど、どうなんだろう。


「それと、あなたの母親の作った衣装。折角買ってやったのに、この王都じゃあ流行遅れも甚だしいじゃない。恥ずかしいったらありゃしなかったわ」

何をとち狂ったのか、領主の娘が私の母のことを貶してきたのだ。私をいくらけなされても文句はないが、母をけなされては黙ってはいられない。


「すみません。母の作った衣装を悪く言うのは止めて頂けませんか」

「そうよ、アンが王都に着て来た私服はとてもセンスが良かったわ。あんた目が悪いんじゃないの」

私の怒り声にエルダが援護してくれた。


「はあああ! あんたアンの何なのよ」

「何って友達よ。センスのない男爵の令嬢さん」

エルダが言い返す。

「はああああ! あんた達、貴族令嬢の私にそんな口聞いていいと思っているの?」

「そうよ。ここにいらっしゃるのはアベニウスの街を治めていらっしゃる男爵様のご令嬢なのよ」

カリーネの声にネイも乗っかって言う。


「いや、カリーネ様」

「何言っているのよ。あなた、学園で身分持ち出すのはいけないって知らないの。世間知らずはこれだから困るわ」

真実を告げようとした私を制してエルダが言ってくれた。


「な、何ですって」

カリーネは怒ってこちらを睨みつけた。いや、止めて、カリーネ様、公爵令嬢様に逆らうと、うちのちっぽけな領地なんて一瞬で吹き飛ぶから。私は必死に言いたかった。


「カリーネ様。周りの目が」

いつの間にかトイレの周りの生徒たちの白い目がカリーネに突き刺さっていた。


「えっ。まあ良いわ。あんた達覚えていなさいよ。それとアンのところの母親なんて二度と使わないんだから」

カリーネ様は捨てセリフを残すと去って行ったのだった。


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