第5話 自己紹介で王太子に名前を覚えてもらいました
私は驚きのあまり固まってしまった。だって、このゲームの人気第一位のフィリップ王太子殿下が私の真横だったのだ。ゲームでは何回もやったし、王太子殿下は何回も攻略したけれど、いや、殿下は何も考えずに、普通にやるだけで、攻略できたのだ。SNSとか見ると攻略が大変だったとか書いてあったのもあったけれど。私には簡単だった。そのフィリップ殿下が私の隣なんてあり得なかった。
「どうかした?」
そのゲームで何度も見た絵姿ではない本物の殿下がこちらを不思議そうに見た。私は生フィリップ殿下をガン見していたことを思い出した。
「す、すみません!」
私は真っ赤になって慌てて前を見た。
なま、フィリップが私に話しかけてくれた。もう垂涎者だった。良かった、このゲームに転生できて。私は初めて神様に感謝した。まあ、転生したのはモブだけど、でも、フィリップ殿下の横に座れるなんて!
夢のようだった。
「では、まず、自己紹介からしてもらいましょう。アルフ君からお願いするわ」
ルンド先生が言ってきた。
えっ、いきなり自己紹介? 夢見がちだった私はいきなり現実に戻された。
えっ、でも、自己紹介なんてどうしよう? 私が、憧れのフィリップ殿下の横で自己紹介するの?
そんなのいきなり無理。私は前日から自己紹介を考えていなかったことを後悔した。だって自分はEクラスだと思っていたし、平民相手なら、多少お貴族様が混じっていても、いつものままで問題ないと思っていたのだ。でも、殿下の前ではもっとちゃんとしたやつにしないと。私は必死に考えようとした。
「はい。アルフ・シェルマンです。親は騎士をやっています。この1年間宜しくお願いします」
アルフはあっさり終えてしまった。ちょっと待ってよ。まだ心の準備が・・・・。
「はい、次はアンさん」
「はい」
私は立ち上がった。頭の中が真っ白になった。殿下が横から私を見ている。嘘ーーーー! ゲームの最推しに見られて、私は更に慌ててしまった。
王太子殿下の前の席のエルダが笑ってこちらを見ている。ええい、もう、ヤケだ。いつもので行こう!
「私の名前は、末尾にeがつくアンで、姓はシャーリーです」
「えっ、アンさん。名簿にはANNになっていますが」
先生がつっこんでくれた。
いや、そこ突っ込まなくていいですから。いつもの癖で言っただけだから。
「そこは気分です」
「気分と言われても、最後がeだとアンネになるんじゃないからしら」
先生の真面目な返答に私は緊張と恥ずかしさから固まってしまった。
「アン」
斜め前からエルダが声をかけてくれる。そうだ。なんか話さないと。
「す、すいません。雲の上の存在の殿下の隣で頭が真っ白になってしまって・・・・」
私は何を話しているんだろう。
「えええ! 公爵令嬢の私の事は全く気にせずに呼び捨てなのに?」
ちょっ、ちょっとエルダ余計なこと言わないでよ。
「はい。アンさん、落ち着いて、って言っても無理ね。判ったわ。座って良いですよ。皆に名前は売れたみたいですから」
更にパニックになる私に先生が助け舟を出してくれた。でも、最後の言葉は気になるんですけれど。
「いきなり、殿下の隣では緊張もするわよね。でも、徐々に慣れていってね」
「はい」
私は素直に頷いたのだ。やはり私はまだまだなのだ。このクラスでは平民の私は静かにしていようと決心したのに。
「僕はバート・スンドグレーンです。この学園では色んな人と友だちになれたら良いと思います」
私の次も少し緊張していたけれど、スラスラ話していた。
あれ、次から次に話していくんだけど、話聞く限り、親の爵位が出てこないんだけど、皆、平民なの?
「末尾がeのアンさんの斜め前のエルダ・オールソンです」
とエルダに遊ばれて、私は頭を抱えていた。
「私、この学園に来るまではとても憂鬱でした。でも、昨日、生まれて初めて、お互いを呼び捨てに出来る友だちが出来たんです」
そう言うとエルダは私を見た。いや、もう止めてほしい。胃が痛い。先生の顔が少し怖いのは気のせいだろうか?
「それで、今はとても楽しいんです。殿下が最初におっしゃられてたように、この学園に身分の差はありません。出来たらもっとたくさんの友達を作ってこの学園生活を楽しめたらと思います」
そう言うとエルダは座った。
次は殿下だ。どんなふうな挨拶されるんだろう。私はフィリップ殿下を見上げた。下から見ても麗しい。そう思った私は次の瞬間頭を抱えていた。余計なことを言わねばよかったと本当に後悔した。
「後ろにeがつくアンさんの隣で、彼女を緊張させた張本人のフィリップです」
と、殿下にまで言われてしまって、私はもう真っ赤だった。
「エルダさんの言われるように、私のこともフィリップと呼び捨てにしてもらえば有り難いです。無理なら、フィルで」
そう言うと何故か殿下の視線が私に向いた気がするんだけど、何でだ。もう、絶対に同じミスはしない。そんなの真面目に聞いてその通りに呼んだら、それこそ貴族ご令嬢たちから殺される。
私でもそれくらい判るんだから!
それからも次々に挨拶していく。あまりにも次々で殆ど覚えられなかった。後でエルダに誰が貴族か聞いておこうと私は思った。
「皆さん。ありがとうございました。友だちの名前は少しは覚えられましたか。早く皆の顔と名前を覚えて仲良くなってください。
ただし、皆さん。親しき中にも礼儀ありですからね」
最後に先生が言われた。これは釘を差したんだ。程々にしろって。それも目は私を睨んでいたように思う。
そうだ。皆平等は絶対に建前なんだから!
私は気をつけようと心に決めたのだ。でも、皆がそれを許してくれなかった。特にエルダが・・・・。
エルダの馬鹿・・・・
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