第3話 公爵令嬢が私の友だちになりました

翌朝、朝食の前に部屋にエルダが迎えに来てくれた。エルダの部屋は上のフロアだそうだ。学園は全寮制で、1学年40名で1クラス、計5クラス200名、3学年で600名が生活していた。男子の方が多くて女子寮は1つだけで150名程が生活していた。平民の私の部屋は2階の階段脇だった。エルダは上の階層だそうだ。そういえばお貴族様もいらっしゃるんだった。確か上の階層じゃないかと思うんだけど。でも制服着ていると誰がお貴族様かも全く判らない。


私はエルダと連れ立って食堂に向かった。今日は早めに起きたのだ。何しろ入学式の前にクラス発表があるのだ。平民の私は当然Eクラスだと思っていたが、それでも気になった。


朝食はバイキング形式だ。

全て学費の中に含まれているのだ。それが全て無料って本当に恵まれている。

私はパンとか野菜とか、フルーツとか山盛りにした。


「アン、あなたはこんなに食べるの?」

エルダの食器の中はお嬢様らしく、慎ましやかだ。でも、平民の私は朝が命なのだ。

「だって、朝はきちんと食べないと、これからの活動に支障をきたすわ」

それにただだしね。おそらく学費を支払っているエルダには言えないけれど。無料ならたくさん食べないと損なのだ。


「頑張って食べて、胸も大きくしたいし」

私はそう言うと目の前に既に大きくなっているエルダの胸を見た。


「あれ? でも、食べる量と胸の大きさは関係ないのかな」

思わずお上品なエルダが吹き出しそうになった。


「ちょっとエルダ、大丈夫? 何も笑うところじゃないじゃない」

私がぶすっとして言うと、半分むせて泣きながら。

「あなたって本当に面白いわね」

エルダが言ってくれるんだけど、そんなに変だろうか?


エルダがトイレにいくと言うので、その前で待っていると、5名くらいの女生徒に囲まれてしまった。ええええ! これは何? ひょっとしてこれがかの有名な可愛がりか? 私はドキドキした。

何しろ前世では引きこもりで、学校にも殆ど行っていないのだ。こんな事を経験したことは当然無かった。



「ちょっと、あなた、何、オールソン様にタメ口で話しているのよ」

「そうよ。あなた不敬じゃない?」

「オールソン様?」

誰のことだろう。そういえばエルダの苗字を聞いていなかった事を思い出していた。

オールソン、オールソン、どこかで聞いたことのある名前だった。


「そうよ。あなた、平民の分際で、公爵家のご令嬢にタメ口で話すってどういう事?」

私はさああああっと血の気が引いて言った。


ええええ! エルダって公爵家のご令嬢だったの?


そういえば昨日立っていたのが、御者さんの言う通り生徒会長だったら、彼をお兄様と呼んでいた。生徒会長はそういえば公爵家だったような気がする。それに、確かオールソン公爵令嬢はモブとしてゲームにも出ていた。たしか、聖女の友達の一人だったはずだ。悪役令嬢から聖女が虐められるのを庇っていたように思う。悪役令嬢のキャラが強すぎて、忘れていたのだ。


どうしよう。公爵家のご令嬢にタメ口を聞いていた・・・・。


「どうしたのよ。あなたもしかして知らなかったの?」

お怒りモードのご令嬢達が驚いた顔をした。

私はかくかく頷いた。

母さんからはできる限りお貴族様からは離れるように言われていたのだ。どうしよう、お貴族様の中でも最上位の方にいきなりタメ口で話していた・・・・


「ちょっと、ドーソンさん。あなた、私の友達のアンに何を話しているのよ」

そこに怒ったエルダが帰ってきた。


「えっ、オールソン様。私はこの礼儀知らずの小娘に、貴族の作法を」

「おだまりなさい。ここは王立学園よ。公爵令嬢も平民もないわ」

「それは建前では」

「私が呼び捨てでいいと言ったのよ。なにか文句あるの?」

えっ、いや、そんな事は言われていない。私が勝手に彼女が平民だと勘違いして、いつもの感覚で呼び捨てにしただけだ。

私の頭はパニックっていた。


「いえ、申し訳ありません」

ドーソンらは謝ってきた。


「判って頂ければいいのよ。さあ、アン、行きましょう」

私はその場をエルダに手を引かれて歩き出した。



「え、エルダ様。申し訳ありませんでした」

私は少し歩いてエルダが手を離してくれたところで、エルダに頭を下げた。


「何言っているのアン。さっきも言ったと思うけど、この学園は平等なのよ。私のことはエルダと呼び捨てにして」

「し、しかし、公爵家のご令嬢を呼び捨てになんか出来ません」

「えええ! 今までしていたじゃない」

「それは私が無知にも知らなかっただけで」

私はもう冷や汗もので、ぶんぶん首を振る。


「判った。じゃあ、これは命令よ。エルダって呼び捨てにしなさい。なら呼び捨てにできるわよね」

「えっ、いえ、そんな」

私がそんな事、命令だと言われても出来るわけ無いではないか。


「私、この学園に来るまではとても憂鬱だったの。今まで殆どを領地で過ごしていて、お嬢様っお嬢様って持ち上げられていたけど、本当の友達なんていなくて。貴族の令嬢なんて私を持ち上げるだけじゃない。それに今年は王太子殿下がいらっしゃるから、殿下を巡ってのドロドロした女の戦いになるのは確実だし。

だから、出来たら来たくなかったのよね。でも、あなたに会えて、初めて私を呼び捨てにしてくれる女友だちが出来て、本当に嬉しかったの。それに、あなたは話をしているだけで、面白いし」

なんか酷い言われような気もするのだが、それは公爵令嬢様にタメ口きくなんて身の程知らずは、誰が貴族かわからない、怖いもの知らずの私くらいしかいないけど・・・・


「これ以上言うと、昨日の遅刻のこと、お兄様にもっとちゃんと怒ってもらうから。お兄様怒ると本当に1時間以上怒るのよ。昨日は本当に怒っていたんだから。

『公爵家の俺をこれほど待たせるなんて許せんって』、私、学園に身分は関係ないでしょってあなたを庇ってあげたのよ」

「でも」

「でもも糞ももないわ」

なんか公爵令嬢がとんでもない言葉を吐いたような気がしたんだけど


「あなた、私に敬語で話したら、本音で話してくれないでしょ。わたし、せっかく生まれて初めて、身分を気にしない本当の友達が出来たって喜んでいるのに。あなたには私から友達を、いいえ、青春を取り上げる権利はないわ」

な、なんでそうなる? 世間知らずの私が不敬で呼び捨てにする事と青春が一緒なわけないじゃない!


「でも」

「デモは禁止」

「そんな」

「そんなも禁止よ」

「えっ?」

「いい、アン、私はただのエルダよ。はい、言ってみて」

「エルダ・・・・様」

「様はいらない。はい、もう一度」

エルダは本当に容赦がない。


「エルダ・・・・」

「そうよ。良かった。これであなたが敬語使うようになったら、さっきのあの女どもと絶交にするところだったのよね」

「ちょっと、エルダ、それはやり過ぎじゃ」

「やりすぎじゃないわよ。私はそれだけあなたを気に入ったんだから。これから一生涯よろしくね」

「えっ、まあ、学園にいる間だけなら」

「まあ、取り敢えず、今はそれでいいわ」

エルダは不敵な笑みを浮かべた。うーん何かとんでも無いことに片足突っ込んだような気がする。

エルダ・オールソン。平民の私に公爵家の友達が出来た瞬間だった。



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