††美名城遥††

　エテルカーネ姫は気丈な人物だった。

「ありがとうございますハルカ様！」

　目を輝かせて感謝されると遥だって罪悪感を覚える。

「今回のことは奇跡のようなものです。それに、姫様にとっては決してよろしい結果だったとは言えないのではないでしょうか？」

「ああ……子供が生めない体になりましたわね」

　ドレスで着飾った姫はなんでもないことのように言って自分の腹を撫でた。

「でも、たいした問題ではありません」

「そ、そうですか」

「むしろ、そのおかげで政略結婚がなかったことになるでしょうからこれほどうれしいことはありません。それよりもお姉様！」

　オネエサマ？

「な、なんでしょう？」

「私、このままこの神殿でお世話になることになりました！」

「は？」

「この体のおかげで神聖魔法と回復魔法の適正が生まれたそうなのです。どうぞ、これからもよろしくお願いします！」

　なんだろう？

　なにか身の危険を感じる。

「は、はは……よろしくね」

　でも。

　彼女は明るい。

　それはきっと、彼にとって救いになるに違いない。

　そう思って、透明になって肩にいるもののことを思った。

††聖女長††

「やれやれ……」

　聖女長は自分の執務室でため息を吐いた。

　バザール司祭の件だ。

　向上心と出世欲の強すぎる人物だ。

　実力はあるのだが、その性格が神殿向きではなかった。だが、神聖魔法や回復魔法の適正と神殿のあり方は必ずしも一致するわけではないために、彼のような人物は昔からいくらかはおり、バザール司祭はその一派を取りまとめるようになってしまった。

　そんな人物であれば神殿以外で成り上がる方法もあっただろうが、彼の地元にはとある伝説があり、彼はそれを妄信していた。神殿に入ったのも自身の適正とその妄信故であった。

　その伝説というのがとある聖女に関するもの。

　世間では『裏切りの聖女』『魔王』と呼ばれているその聖女は世間を大いに混乱に陥れた。

　だが、彼女の貢献によって、過剰に発展した魔導文化によって起きていた世界の魔力不足を解消させてもいる。

　だが、そのために起きた様々な被害が大きすぎて、彼女を恨む者、憎む者が多い。

　故に『魔王』と呼ばれる。

　特に彼の聖女がそうなった原因とも言われているフェールメール王国をひどく恨んでいる。

　聖女信仰とハルメニア教はいまだに世界で強い影響力を持ってはいるが、それでいながら聖女を始めとした教団で修行する者たちの実力は彼の聖女がいた頃よりも落ちているのは彼の聖女のような人物が再び現れるのではと諸外国から警戒されていたからでもある。

　バザール司祭は欲深い人間であるが、同時にハルメニア教を愛し、彼の聖女を崇拝し、その地位を取り戻したいという欲望に燃えている人物であった。

　それは、困った信仰心だと聖女長は思っている。

「ありがとうございます」

　執務室で例の姫が神殿に残るというので報告書や手紙などをしたためていた聖女長は、おもむろに頭を上げると机のなにもない場所に向けて頭を下げた。

「あれでバザール司祭が変わるかどうかはわかりませんが……少なくともハルカさんを敵視することは、もうないでしょう」

　バザール司祭も無能ではない。

　あの時、ハルカの高まる魔力の中に複数の神聖を帯びた魔力があったことに気付いていただろう。

　彼女の背後で助力していた聖女候補たちでさえ気付き、その威光に目を奪われていた。

　二つ、あった。

　一つは小さい。もう片方に似ているけれどわずかに違い、まるで大樹に宿った若芽のような初々しさを感じた。

　もう一つが、すごい。

　まるでハルカの背中に巨大な翼が生えたかのように魔力を放っていた。

　部屋を覆い、さらに飛び越えて神殿そのものを包んでいたのではないだろうか。

　それほどに強大な魔力は、伝説となっている彼の聖女だとしか思えない。

　ハルカは彼の聖女に認められたのだ。

　その事実を目の当たりにしたバザール司祭は涙を流し五体投地のごとく身を投げ出した。

「全て、あなた様のおかげです。ふがいない後進のために、申し訳ありません」

「…………」

　そこにいるものはなにも答えない。

　だが、聖女長はそれに不満を覚えることはなかった。

　また、そこにいるという確信が揺らぐこともなかった。

　聖女長はずっと頭を下げ続け、やがて気配が去ったと感じて頭を上げた。

●彼方最新話ステータス

【ステータス】

●カナタ・コトヨ　男

●生命力　70／70

●生命装甲　3000／3000

●個人魔力　3350／3350（+3000）

●スキル：魔眼lv30（霊視lv05・魔力喰いlv10・遠視lv05・解析lv10）／個人情報閲覧／総合制御lv30／運動能力強化lv10／仮想生命装甲lv30／魔力最大値増加lv30／生活魔法lv20／空間魔法lv10／基礎魔法lv30／魔法応用lv30／神聖魔法lv30／変身（スライム時限定）／万能翻訳／魔法陣学lv30／透明化／気配遮断lv30／恐怖耐性lv07／並列思考lv15／戦士lv15／剣術lv15／盾術lv15／回復魔法lv30／魔力操作lv30／呪術lv10

●貯蓄魔力値：166100

●加護：福神の加護・序