99 夏近し


 試験が終わった。

 うへぇとぐったりする。

 掛井君は余裕の表情。これまでの様子から彼は頭がいいのだとわかった。


 試験前に頭がよくなるスキルはないかとアリスに聞いた。


「あるぞ」

「本当⁉」

「でも、本当にそれでいいのか?」

「え?」

「我は別に構わんがな。必要なのは知識を活かす知恵だ」

「うっ」

「知識なんぞどういう方法だろうと頭に詰め込んだ者の勝ちだ。だが、それの使い方を手に入れる方法はそうない」

「うう……いいです」

「そうか」


 途中で魔眼・遠視を使えば! と気付いたけどそれも我慢した。

 欲望を制御するのって本当に大変だ。

 毎日試されてるし。


 とにかくそんな試験も終わった。

 大丈夫。

 ……たぶん、大丈夫。


 で、アリスはというと……。


「ん? 終わったか」

「終わったけど……」


 ひょこっと教室に顔を出してきた。

 そう、さっきまでいなかった。


「そうかそうか。ご苦労だったな」

「アリス、ついに最後まで試験受けなかったね」

「我には必要ないからな」


 そりゃあね。

 アリスって実は日本の戸籍を持っているわけじゃないし、この学校にだって魔法を使って潜入しているわけだし、記録がないんだから成績をつけようがなかったりするのかな?


 とはいえ、なんかずるいなぁ。


「もうすぐ夏休みだね」


 テストが終わり、後は帰るだけなんだけど今日は教室に残って掛井君とご飯を食べながらダラダラする。

 彼はこの後、部活だ。

 もちろんアリスもいる。


「琴夜君。夏休みって予定ある」

「予定? いや、特に……」

「だいたいこの辺りなんだけど」


 そう言ってスマホのカレンダーで八月の第二週を示す。


「うん、いまからならバイトも休めるし、大丈夫だと思うよ」

「よかった」

「なにかあるの?」

「親戚が別荘に誘ってくれるんだけど、友達もどうかって言ってて」

「……へ?」


 別荘?


「掛井! お前、私を抜きにしてなにをしている⁉」


 一色がいきなり入り込んできた。

 さっきまで教室にいなかったよね?


「私の場所もあるんだろうな?」

「あははは……もちろん」

「ならばよし」

「あ、そろそろ行かないと。ごめん、詳しい話はまた今度」

「あ、うん」


 掛井君が部活に向かっていく。

 なぜか、一色が残ってる。


「掛井君って、もしかしてお金持ち?」

「なんだ知らなかったのか?」

「え?」

「掛井産婦人科を知らないか?」

「あ」


 市内にある病院だ。


「そこの息子だぞ」

「ああ」


 なるほど、それなら別荘持ちの親戚がいてもおかしく……ない?


「ふむ。では、場合によってはアレが我の子を取り上げることもありえるのか」

「んなっ⁉」


 さっきまで興味なしという感じでヤマザキパンを食べていたのに、いきなりそんなことを言う。

 ああもう、一色が変な風に反応してる。


「あああああああああああアリス! なにを言うんだお前は⁉」

「なにを? 夫婦に子供ができるのは当然だろう?」

「まだわからないだろう!!」

「ふっ、無駄な足掻きを」

「うぎぎぎぎぎ!」

「ふっ、我の魅力の前にカナタはメロメロだからな。なっ! カナタ⁉」

「ええ……ここでそういう風に振る?」

「彼方! どうなんだ⁉」

「一色も悪ノリしないでよ」

「悪ノリではない!」

「そうだぞ、大事なことだぞ」

「ええ……」


 ああもう。


「そりゃあ……アリスの方だけど」

「ふはははははははははは!」

「ぐうううううううううう!」


 一色、お願いだから血の涙は止めてください。





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