第二章 王国崩壊

第1話 魔王城侵入

「へへっ。案外簡単だったな。侵入するのは」


 俺はクソク・ロゲ。しがない冒険者だ。


 そして、ここは魔王城。しかし、俺は人間。


 どうして入れたのかって言えば、こんなうわさ話を耳にしたことがきっかけだ。


 魔王城、その外に住んでいる魔物でも傷ついていれば中へ入れてくれる。


「まさか本当だったとはな。しかし、魔王城を囲む壁? との距離が少しづつ縮まってるって話は本当らしいな」


 敷地へ辿り着くまでの時間が以前よりも短くなっているらしいのだ。


 俺も冒険者だ。試しに魔王城の近くを通ったことはあったが、その時よりも確実に早かった。


 ま、そんなことはどうでもいい。


 俺みたいなへっぽこがどうして魔王城なんて場所に来ているのか、それは勇者の血が途絶え、パーティメンバーもいなくなったことが原因らしい。


 これもうわさだが、国が勇者たちを追放したらしい。ま、さすがにこれはただのうわさだろう。


「新しい勇者として俺みたいなのを選ばなきゃいけないなんて、何かの冗談に決まってる」


 俺は少し前のことを思い出していた。


 それは、王都の城門前に掲げられた一文。


「次世代の勇者たる自信のある者。王への謁見を許す?」


 なんだか上から目線な文言にイライラしながらも、俺はニヤリと笑みを浮かべた。


 こんな面白そうなことをやっているのに首を突っ込まないわけにはいかない。


 なにせ、勇者として選ばれたあかつきには、タダ飯にありつけると書いてある。


 冒険者なら誰でも志願するに決まっている。


 しかし、出てくる冒険者はみな暗い顔をして城から出てくる。


 俺は気になり、戦士風の冒険者に声をかけた。


「おい。どうしたんだ? ダメだったのか?」


 俺の言葉が追い討ちになったのか、ギロリとにらんで一人の冒険者は去っていった。


「なんだよ。態度悪いな。だから落ちるんだよ。バーカ」


 ま、俺は冒険者と言えど戦闘職ではない。


 そのため、ロングソードを背中に掲げた、いかにも戦士風の男には聞こえないような声で言う。


「さて。なあ、どうした? 浮かない顔して」


「ん? ああ」


 どうやら今回はうまくいったようだ。


 二人目の魔法使い風の男は俺を見て少し安心したような顔をしている。


 話す気になってくれたらしい。


「よかった。僕は生きてるんだね」


「大丈夫か? 何言ってるんだ?」


「いやね。ここの王様はなんだかおかしいんだ。僕たちへの期待が重すぎるって言うか。どうしたって勇者に敵うわけないじゃないか」


「まあ、そうだな」


「だから、君はやめておいた方がいい。ただただ暴言を吐かれるだけだよ。ああ、君にこれを伝えられてよかったよ。僕の経験も無駄じゃなかった」


 そうして、一仕事終えたように、男は俺の肩叩いてきた。


「なるほどな。期待が重いのか。参考にするよ」


「まさか。今の話を聞いて王様に会うと言うのかい?」


「その通りだ。何かおかしなこと言ってるか?」


「いや、僕は止めたんだが、なるほどな。君みたいな強い冒険者を王様は求めているのかもしれない。頑張れよ」


「おう」


 何がわかったのか俺にはわからないが、男は俺に手を振って去っていった。


「さて」


 期待が重いならそれに応えてやればいい。


 勇者と比較しているなら、それを超えてやればいい。


「なあに。言葉面だけかっこいいこと言ってやればいいさ。王様だって人間だ。都合の悪いことは聞きたくない。聞きたいことだけ聞きたいんだろ?」


 俺はそれだけ考えて王の前に立った。が、なるほど。今ならわかる。城から出てくる冒険者がどうしてあんなに疲れた様子だったのか。


 こいつは恐ろしい。鬼気迫る雰囲気だ。


「貴様は何ができる。貴様に何ができる。勇者がいないのだ。勇者以上でないなら去れ」


 圧倒的な声量で王は臣下さえも怯えさせている。


 俺の知る王様はこんなじゃなかったはずだが、人は変わるものなんだな。


 俺はそう冷静に頭を動かして、その場にひざまづいた。


「王よ。当たり前です。勇者がいない今、必要なのは新たな王の剣。この私が新しい勇者となりましょう!」


「そのような言葉は聞き飽きたわ! 貴様に何ができると聞いておるのだ」


「私は魔王城へと侵入し人類を脅威から救ってみせましょう」


「……!」


 黙っているが、確実に驚いている。


 俺の宣誓は効果は抜群だったようだ。


「できるのか?」


 ちょろい。


「やりましょう。王のご命令とあらば」


 こうして、俺は王様から金をだまくらかして魔王城までやってきたわけだ。


 俺が人類を救う? 脅威を排除? 無理無理。俺は非戦闘職だ。ふざけるなって話だ。


 ここに入れたのも、俺が人の目をあざむくスキルを持っているだけの話。


 今までだって、ずるいだの卑怯だのと言われようが、無視して目をあざむいて生き残ってきたのだ。


 なんと言われようと生き残った者が偉いのだ。否定される筋合いはない。


「にしても全然見張りがいないな。ま、自由にやらせてもらいますかね」


 入り口付近には強そうな人間がいたが、何かの実験体だろう。人間が魔王城にいるなんて俺くらいのものだ。


 捕虜の話はないし。


 だが、王様の焦りようは尋常じゃなかった。何か隠しているのかもしれないが、探りすぎてもよくない。


 俺がほしかったのはタダ飯だけだ。国をよくしたいなんて大層な話じゃない。


 しかし、人間の相手を勇者がしたのだと考えるとさぞ辛かったろうな。


「お、いいもんっぽいな」


 やっと見つかったお宝に俺は近くを見回して誰もいないことを確認してから手を伸ばした。


「重っ! ダメだ。持てん」


 俺は戦闘職じゃない。重武装は扱えない。


「もっと軽い貴金属とかないのかこの城は!」


 正直、魔王城や国がどうなろうと俺としては知ったことではない。俺は明日食う金をもらい、魔王城に来て、一生遊べる金になりそなものを探しているだけだ。


 なけりゃここを出てすっぽかせばいい。王直属の部下なんて俺のスキルの前には怖くもなんともないって。


「おー! あったあった。しっかし、宝物庫あんジャーン 隠してくれちゃってー。小賢しいなー。ヘヘッ! でもザル警備すぎんだろ!」


 俺はそのまま宝物庫へと足を進めた。


――――――――――――――――――――

【あとがき】

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新作を書きました。よろしければ読んでみてください。

「勇者にこの世から追放された俺は妹の自己犠牲で生き返る〜妹を蘇生するため、全力で魔王討伐を目指します〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817139557970191510/episodes/16817139558163285587

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