第2話 未来から来た

◇◇◇◇



 それは晴れた日の朝に起こった奇跡とでも言うような出来事だった。




 春の通学路。


 僕は木漏れ日の隙間を縫うように歩きながら学校へ向かっていた。


 魔が差したというのはこういう事を言うのだろうか。


 春の風に浮かれていた僕は、細い路地に気づいて近そうだなと普段しない様な冒険心に駆られて、そちらに足を向けて歩き出した。


「待って!」


 僕の手を取って待ったの声がかかる。


 その瞬間に細い路地の向こうから、けたたましい音と何かがぶつかっただろう破裂音が響いた。


 何があったのか状況が理解できなかった。直ぐに確認しに行こうと足を速めるが足が一向に進まない。


 原因は分かっている。


 んんーと僕の手を握り、目をつぶった同じ学校の制服を着ている女の人に掴まれているからだ。


 日影に生きている僕とは縁もないような美少女だなと思った。


「離して貰えますか?」


「貴方怪我してない?」


 目を開けた彼女は僕の問いを無視して僕の身体をペタペタと触りまくる。


「あっ! 大丈夫です」


 なぜ手を離してくれないのか。


「ごめん、この時代だとまだ会ってないんだった。馴れ馴れしかったよね」


 彼女は手を離さずにペコりと頭を下げて、今更ながらにモジモジとし始めた。


「私、え~と青じゃなくて緑山日向みどりやまひなた。私は未来から貴方の学園生活をエンジョイさせるために来たの! 来たのは語弊で、未来から過去の自分に記憶を飛ばしたって言えば分かるかな」


 めちゃくちゃ可愛いのに頭が痛い残念な子だった。


「よろしくね。青空日影あおぞらひかげ君」


 しかも僕の名前を知っているだと!


 高校生の新学期初日に頭の可笑しい子に目をつけられてしまった。


 これは傍から見ても奇跡に違いないだろう。今年に入ってお母さん以外の女子と喋ったのこれが初めてだからだ。お母さんいないけど。


 悲しくなったので僕は学校へ向かうのをやめることにした。


 やめることにしたいのは山々だったが、緑山さんに連れられて、路地の謎も解くことが出来ずに、僕は引きづられながら学校へ向かうことになってしまった。


 こんな体験奇跡でしかない。


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