麻雀青春物語『カラスたちの戯れ』
光野彼方
第1話
麻雀青春物語【カラスたちの戯れ】
あらすじ
麻雀を打つやつは全員嘘つきだ。
牌が裏返しなのをいいことに何とかして騙してやろう、裏をかいてやろう。と思っている。
ツモあがりという自力決着を選ぶ時もあるが、アガリ率が高くなるにこした事ないのでたいしたロスなく騙せる手順があるならそちらを選ぶものだ。
これは、そんな騙し騙されの駆け引きに魅せられた魑魅魍魎たちの青春物語ーーー
【カラスたちの戯れ】
第一章~史上最強雀士コテツ編~
第二章~最善の敵アキラ編~
第三章~一日一度はメンタンピン編~
第一章~史上最強雀士コテツ編~
登場人物紹介
南上虎徹
なんじょうこてつ
通称コテツ
本編の主人公。裏をかく天才。高い集中力と歌記憶能力という特殊な力を使って格上の相手にも挑み続ける永遠の挑戦者。
西川晃
にしかわあきら
通称アキラ
麻雀業界では中々見ないくらい真面目な性格をした珍しいメンバー。主人公の生涯の友。コテツとは正反対な麻雀を打つ好敵手。地道に進むことを苦としないという才能の持ち主。天性の努力家。
白山詩織
はくざんしおり
通称シオリ
本編のヒロイン。女王位。高学歴理系女子。冷静沈着かつ慎重。期待値計算の申し子。
萬屋勝
よろずやまさる
通称マサル
雀荘富士2号店の店主。役職はマネージャー。柔軟な思考を持ち味とし普通より一歩先を見通す打ち手。自分にはない力を持つコテツを素直にリスペクトしている。
北山銀次
きたやまぎんじ
通称ジンギ
元天才詐欺師。タバコの銘柄はマルメンライト一択。アキラを自分の目標と定め敬意を表して先生と呼ぶ。
富士2号店
ふじにごうてん
通称富士2(フジツー)
コテツ達が働く雀荘。プライベートで女王が現れるということで噂になる。
佐藤卓
さとうすぐる
通称スグル
富士2号店の遅番責任者。
麻雀が大好き。いまいち科学的根拠に欠ける選択をしがちだが、上手くハマった時は手がつけられない強さを見せる。
髙橋幸太郎
たかはしこうたろう
通称メタ
富士2号店の遅番。
スグルに負けず劣らずの麻雀マニア。コテツをひそかにライバル視している。
メンタンピンのメタ。
菱木理香
ひしきりか
通称リカ
麻雀が打てる女子バイト。人気者でお客様からも愛される有能な清楚系女子。
鈴沼絵里
すずぬまえり
通称エリ
立番専門女子バイト。事務作業やパソコン業務に長けており、機械音痴の昭和店員たちの大きな助けになっているギャル系女子。
1話
◉卓上の名探偵
「コテツくんは数の概念を完全に理解してます」
小学1年生の1学期にコテツの母が最初に先生から言われた言葉である。それを言われた母は誇らしかったのか、その事をコテツに報告してきた。
コテツは遊んでばかりの子だったが算数はできた。特に図形は得意で、解法を習う前から自分なりの方法で答えに辿り着いたりすることもあって先生を驚かせた。
小学4年生になり図書委員になったコテツは委員の仕事は忙しくなかったのでほとんどの時間は読書をしていた。その時出会ったのが推理小説だった。ホームズのように一を聞いて十を知るような探偵に憧れて推理ごっこに夢中になる。
中学生になる頃には少年探偵団を作って学校で起こる小さな事件を推理した。
だが、当然の事ながらそんな都合良くポンポンと事件など起きたりしない。平和な中学生活が終わろうとする3年生の冬休みに運命の出会いをすることになる。
「麻雀出来る?」
初めての麻雀の誘いだった。全く分からない無知な状態だったので。
「いや、知らない」
と答えると。「そっかー、でも大丈夫だよ。むしろコテツには向いてる遊びだと思うな~」とのこと。
???
(どういうことかな)と思いながらも興味はあったので参加。誘ってくれた友人から遊び方を教えてもらう事にした。
「とりあえず同じの2枚揃えればいいよ。それが7つでアガリ。あとは19字牌全部集めたらアガリ」
「じはい?」じはいと言われても何のことか分からないからそれが何なのか聞いた。とりあえずその2種類のアガリだけ説明されてゲーム開始。あとはやりながら覚えることになった。無茶苦茶である。
「あっ、出来た!多分それで完成」
二二四四五五⑤⑤⑨⑨発発中
コテツはさっそくチートイツを完成させた。友人が「チートイツドラ2で4ハンだから満貫だ」と教えてくれる。点棒を言われるまま貰う。(どらにってなんだろう?)
「それ、アガリ」
三三四四八八2244556
友人が「今回はタンヤオになってるからザンクだね」と言う。たんやおってなんだ。
(後でわかることだが、この点数はふたつとも間違っている。最初のが6400点で2回目のが3200点が正解)
まだよく分からないけど28000点の2着で終わった。それが最初の麻雀だった。
(なんかまだ分からないけど楽しい!)
それからは時間があれば麻雀をやり集まらない時は1人で麻雀の勉強をした。それでルールを覚えた頃にやっと友人が最初に言った(向いてる遊び)と言われたその意味を理解した。
(…そうか、このゲームは推理ゲームなんだ。
リーチという事件が起きた時に捨て牌という現場を見てプロファイリングするということか。なるほど、そういうことなら向いている!)
コテツには特殊な能力があった。音楽を記憶する能力だ。1回聴いたらメロディーを記憶し2回聴いたら歌詞も記憶してしまう。
そんな能力があるのだが、だからどうだと言うんだと自分では思っていた。高校に入って最初に校歌を練習していた時に覚えたら後ろを向いて座る事と言われ2回目で座った時は学年主任が寄ってきたが3番まで完全に記憶していることを確認し狼狽させた。
カラオケでのレパートリーは豊富で困らないというだけの才能。かと思っていたのだが、この力が麻雀に役立つことになる。
相手が何を欲しくて何がいらないかを推測するヒントに手出しという情報がある。
手出しとは今引いた牌を収納して手の内の牌を出したということ。その情報を知っていると何が危険か分かりやすくなるのだが、はっきり言ってそれを全て見ることはちょっと難しい。ついつい目を離してしまう時があるものだ。
しかし、コテツは歌記憶能力があるので打牌音に耳を傾けているだけでいい。
タン..タン...タン
のリズムを丸ごと記憶して少し間隔があいた時に切った牌をヒントに読む。
手出しだろうとツモ切りだろうと考えた牌はヒント牌である。
その考えた牌は打牌音を音楽として捉えることで記憶可能なためこの才能はおおいに役立った。見てなくても聴いてればいい。
その能力のおかげか、はたまた勉強熱心なためか高校を卒業する頃にはコテツはいっぱしの雀士になっていた。特に読みに関しては人読み手順読み雰囲気読みと優れた能力を発揮していた。それ故にスレスレの所を読み切りすり抜ける麻雀を得意とした。
「この辺が危ないのかな?じゃあもうカンだ」
「なんでわかるの!」
「音で」と言った具合である。
そんな彼は友人達にこう呼ばれ…もとい呼ばせていた。
『卓上の名探偵』と。
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