第17話 モンスター現る?!


それは、リトちゃんとお出掛けした、翌日の事だった。


朝。いつものように、マリーカさんと訓練をしている最中、一人の女エルフが急にズカズカとやってきた。

その様は、まさに吹き荒れる突風……嵐のようだった。


「マリーカ!アンタ、この村を潰す気?!」


その人は、いきなり凄い剣幕だった。整っているんだろう顔をひどく歪めて、ヒステリックに怒鳴り散らしたのだ。

だけど、その言い放った言葉の意味は、よく分からない。


「ヴェル……。何の用です?

私は見ての通り、ユウナ様との訓練で忙しいのですが?」


対して、マリーカさんは、とても冷静だった。その美しい顔も、いつも通り美しい。

むしろ、運動で少し流れた汗が、日の光に照らされて、輝いてる。ああ、今日も素敵です。


「とぼけるんじゃないわよ!アンタのとこの化物よ!」


なおも、ヴェルと呼ばれた女性は、マリーカさんに詰め寄ります。

ですが、マリーカさんは、平静そのものです。もはや名工の創り出した彫刻なのでは?


「化物……?ナイが、何か?」


「昨日、ウチのヴィンダーを襲ったらしいじゃない!」


はぁはぁと荒く肩で息をしながら、興奮した様子で叫ぶヴェルさんは、リトちゃんをいじめていたヴィンダーくんのお母さんでした。


これは……噂に聞いたモン〇というやつでしょうか。

初めて見ました。


ナイが、襲った?とは、すごい事を言ってくるものです。

むしろ、リトちゃんに謝りに行くべきなのに!

これは、ちょっと許せませんね……。

とはいえ、私では上手く話せないかもです。

ここは、このままマリーカさんにお任せした方が、絶対にいいでしょう。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、マリーカさんは、一切顔色を変える事無く、ハキハキと答えます。


「ナイは、何事も無ければ、いきなり他人を襲う様な真似はしませんが?

それこそ、ユウナ様に危害を加えるなど、愚かしい真似でもしなければ、大人しく無害ですよ。

食事も必要ありませんからね、他の生物を襲う必要が無いのです。」


それに対して、ヴェルさんは、どんどん顔が真っ赤に染まっていきました。


「何をぬけぬけと……!ヴィンダーは怪我までしてるのよ!?」


「怪我ですか……。」


「そうよ!ヴィンダー!ヴィンダー?こっちに来なさい!」


どうやらヴィンダーくんも近くに来ていたようで、ヴェルさんに呼ばれて木の陰からひょこっと姿を見せました。隠れていたんですね。


そのヴィンダーくん。よくよく見れば、膝と肘を擦りむいてるみたいです。

確か……逃げ帰る時、何度か転んでたっけ。


「ほら、ヴィンダー?それ、化物にやられたのよね?」


「あ……ああ。」


ヴィンダーくんは、少し怯えた様な顔をして頷きました。

それを見たマリーカさんは、少し俯いて少しだけ口の端を上げて、耐え切れないという風に、笑い声を漏らしました。


「……ふふ。」


身体の前で軽く組んだ手に、ちょっと力が込められているようで、マリーカさんは、小刻みに震えています。


その様子を見て、ヴェルさんは、更にヒートアップしました。その顔色は、そろそろお湯が沸きそうです。

緑茶を淹れるにしたら、少し温度が高過ぎますね。カップ麺なら最適でしょうか。カップ麺、無いんですけど。


「マリーカ!!!何がおかしいのよ?!!」


その叫びは、村中に響き渡るんじゃないかという大音量でした。魂の叫びとでもいうのですかね。すごく、プライドの高い人みたいです。


ですが、マリーカさんには全く響かなかったようです。


「いえ。ナイにやられた割に、怪我の程度が軽過ぎますからね。

ナイは、ヴィヨンを単身で瞬殺出来るのですよ?

そのナイに襲われたというのなら、その程度で済む筈が無いでしょう。」


マリーカさんは、とても冷静で、理路整然としていて、反論する姿は凛として、すごくカッコ良くて。

できるオンナって感じです。いえ、実際そうなんですけどね。


「な……!ふ、ふざけた事を……!

分かったわ。そうまで言うなら、裁きよ!村の裁きにかけるわ!

みてなさい……!後悔させてやるから……!

ヴィンダー!帰るわよ!」


「あ、うん……。」


そう言い残して、二人は帰って行きました。

その後ろ姿は、まだお昼前だけど、そのバックには沈み行く夕陽が見えるかの様です。居ないけれど、カラスが鳴きながら飛んでいそうです。居ないけど。


……そういえば、村の裁き?ってなんだろ?

何だか響きは恐ろしい感じなんだけど……。


「マリーカさん。村の裁きって、何?」


「ユウナ様。何もご心配は要りません。

昨晩お風呂でお話下さった事を、裁きの場……皆の前で、もう一度お話下されば良いだけですので。

それで何の問題もありませんよ。」


そう言って、マリーカさんは優しく撫でてくれます。

マリーカさんの温かい手……。大好きです。

ついつい猫のように甘えてしまいたくなります。

いえ、実際よく甘えているんですけど。


こんな風だと、私、冒険とか行けるかなぁ……。

マリーカさんに付いて来てもらうのは、申し訳ないし……。

んんん~~!


先の事で悩んでも仕方ないので、今はこの大好きな人に精一杯甘えたいと思います!

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