第44話 頼れる存在
「「花火ってだれ??」」
俺は水鳥と番匠の言葉に自分の耳を疑った。
気のせいだろうと。
「天文部の花火だよ」
「部員は私たち3人だけよ……?」
水鳥が首を傾げながら言った。
確かに部員は3人だけだが、番匠は美術部員だ。決して天文部ではない。
「そうだ番匠、『もっち』って呼んでたじゃないか」
番匠は眉間に皺を寄せながら問い返した。
「もっち? 何それ…美味しいの?」
……ダメだ。
こんな時にまでふざけるような二人でないことは分かっている。むしろこんな時でもふざけるのは花火の役目だ。
つまりこの二人は本当に花火のことを覚えていない。
もしくは真夏という名の巫女に記憶を改竄させられた……? そういえば少し記憶をどうとか言っていた気がする。
花火と俺の関係以前に花火と巫女の関係も気になるが、物事には優先順位というものがある。
今は渦巻の命の方が大事だ。
「なあ水鳥、渦巻の住所って知ってるか?」
「私はあなたと違ってストーカーじゃないのよ? わかるわけ無いじゃない……」
「ぐっ……」
古傷を
「えっ…五之治くんて水鳥さんのストーカーだったの? なんだか複雑だね…うん」
なぜこうも責められ続けるんだ。前向きな考えを全て跳ね返され心に突き刺してくる。水鳥のカウンター
……まいったな。
「五之治くんは渦巻さんの連絡先とか知らないの?」
「そこまで仲良く無かったからな……」
「じゃあ私の家の住所を特定した方法を使えばいいじゃない……?」
「あーー。そうだな……」
俺はポケットからスマホを取り出して慣れたような手つきで担任の美徳先生に電話をかけた。
思えば扱いに慣れるまで時間がかかっていたスマホの操作も記憶が戻りつつある今では、とても楽勝だ。
よそ見しながらでも操作できる。
しないけど。
どうでもいいことを考えていると電話が繋がった。
『あ、もしもし
「俺だけど、今電話しても大丈夫?」
と久しぶりに聞く美徳先生の暖かな声に癒されながら本題に入ろうとした時。
『オレオレ詐欺は犯罪だからねっ! …………』
勢いよく電話が切られた。
……は?
「五之治くんってやっぱりバカ……?」
「番匠さん今頃気付いたの? 彼は天然の原石なのよ。クラスでは天然記念石なんて呼ばれてるの……。それより五之治くん、自分が名乗らないと怪しいと思われるに決まってるじゃない」
褒めてるような言い回しだけど、絶対バカにしてやがる水鳥のやつ。
何が天然記念石だ……。
少し面白いじゃねぇか。
そして諦めることなく2回目の電話をかけた。
『もう! 着信拒否にしますよ!?』
「あ、美徳先生、五之治だけど……」
『あ、五之治くんか……どこかの童貞がイタズラ電話してるのかと思っちゃったよ、えへへ……それよりどうしたのこんな時間に……? もしかして先生の声が聞きたくなっちゃった?』
……美徳先生までもが心の傷を
「ごめん、先生とはそんなラブコメ展開をまったく期待していなかった」
『そぅ……。じゃ切るね』
「ちょっと待って先生! ……ふぅ、落ち着いて聞いてくれ渦巻の事なんだ」
『どういう事? 渦巻さんに何かあったの?』
「……あとでなんでも言う事を聞くから渦巻の住所を教えてくれないか?」
『わかったよ。って教えると思う? それって個人情報だよ? この前の水鳥さんの件は仕方なかったけど、ダメなものはダメなの』
先ほどとは打って変わって真剣な口調で話す美徳先生。
「もうすぐ、渦巻が死ぬかもしれないんだ」
『えっ? どういうこと? 詳しく説明してよ、てか今どこにいるの?』
俺は周囲を見渡して視界に入った公園の名前を答えた。
「つばき公園……」
『ちょっと待ってて! そこなら10分で行けるから。それと『なんでも言う事聞く』って言った事、忘れないでよね』
電話越しの美徳先生の雰囲気が変わり電話が切られた。
生徒のことになると真剣になる先生はいつの時代もカッコいいもんだ。俺の年齢や見た目が28歳のままだったら美徳先生に惚れていたのかもしれない。
「五之治くん、誰と電話していたの?」
水鳥と番匠が不思議そうに俺を見つめる。
「頼りになる人だよ。もうすぐここに来る」
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