第41話 二人の関係
「五之治優春……君は……生還者……」
返事がなくなった。
中からの異様な気配も感じ取れない。
……声の主は消えたのだろうか。
「ご主人は心を読める代わりに体力をすごく消耗するの、だからお話はここでおしまい。またいつでも遊びに来てね。まぁ来れるかわからないんだけど〜」
静かになった本殿の前で巫女が口を開いた。
「どういうことだ……?」
「
……?
すると巫女が近くにいた番匠の額に手をかざした。
「あれ……わたし……」
番匠は脱力するかのように石畳の上に倒れ込んだ。
目を閉じて意識を失っている様子。
「次はあなた……」
番匠と同じように水鳥も倒れてしまった。
「番匠と水鳥に何をした!?」
巫女は自分の手を夕日に合わせるように見つめている。
「睡眠欲を増加させただーけ。さぁ、残った君たち二人はこれからお姉さんと夕日が沈むまでお話をしようじゃないか……」
そう言って謎の能力を使う巫女は本殿の階段に腰をかけた。
君たち二人……?
思えば、いつもいの一番に口を開く花火が巫女が出て来てからは一言も発していない。あのお調子者で天真爛漫な仕切りたガールの花火がいつになく緊張しているのかと思っていたのだけれど、表情から察するに……緊張では無さそうだ。
「花火……?」
俺が花火の目を見ると俯いていた花火も俺に視線を合わせてくれた。
……どうやらいつもの花火だ。
「なに? 優春」
……すぐはる?
花火は今まで俺のことを先輩と呼んでいた。それに苗字の『五之治』すら今まで一言も呼んだ事がなかった。それ故に花火が俺のことを名前で呼んだことがすごく衝撃的で印象に残る。
俺のことを優春と呼ぶのは母親しかいない。
だからなのか、とても暖かく懐かしい感じすらある。
「お姉さんはね、ここで二人の関係をはっきりさせようと思う」
巫女は俺たち二人を階段からニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めている。
「それだけはやめて! ……お願い」
いつも強気な口調の花火がいつになく弱気だ。
……とてもやるせない表情を浮かべている。
「花火……? 俺たちの関係って何だ?」
「まだ言えないの……ごめん」
……ダメだ、思考が追いつかない。
初めて聞く言葉や衝撃的な事実が露呈したことで頭が回らない。ポンコツな脳みそだ、五之治優春め……。
……いや。
この思考回路は俺の思考だ。異世界から転生して来た勉強が嫌いな俺の思考回路。決して五之治優春の脳の回転ではない……見た目も声も身体能力も全てが五之治優春になっていたと感じていた、記憶だけでなく頭の回転も異世界から転移するなんてあり得るのか……。
身体能力が五之治優春なら頭の回転も五之治優春のはずなのでは……。
そして占い師の低い声が俺の脳裏を
『生還者』
つまり俺は異世界から転生したのではなく、この世界に戻って来た生還者なのか……?
「早く優春にも睡眠欲を付与してよ真夏さん!」
花火が声を荒げると共に巫女が俺に手をかざした。
「はいはいわかったよ〜。でもいいの? 本当に……」
その問いに対して頷く花火が視界に映った。
俺の視界に映り込む花火が少し寂しそうな表情を浮かべ、段々と視界が暗くなっていく俺を……見つめていた………ような……気が………。
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