第36話 ライバルの存在
その日、渦巻は体調が良くなった事もあり、一人で帰ることになった。
俺が家まで送ろうかと優しくかけた言葉に対して「遠慮〜」と一蹴りするあたり、水鳥と同じく渦巻も難攻不落の要塞のようだ。
翌日
いつも通りの教室に渦巻の姿はなかった。後ろに渦巻が居るのは少し嫌な気分なのだが居ないのは少し寂しいと思う。
俺は渦巻との約束を思い出し、隣の席の水鳥に声をかける事にした。
「水鳥、ちょっといいか? 大事な話があるんだ」
「……もしかして告白、かしら?」
吸い込まれるような青い瞳がいつにもなく澄んで見える。
「告白と言えば告白……?」
と疑問風に言うとポーカーフェイスの水鳥の顔面に少し赤みが帯びた。
なるべく人気が少ない場所がいい。
それが大前提の思考で辿り着いた場所は天文部の部室だった。
というより俺はそこしか知らなかった。
水鳥と二人で天文部の部室に入りドアを閉めた。
なにやらモジモジ落ち着かない様子の水鳥。
もしかして違う告白と勘違いしているのか? だとしたらこっちが恥ずかしくなる。
「あのさ、渦巻の事なんだけど……」
『渦巻』という単語を聞いた瞬間、さっきまでの恥じらいを隠しきれていないような水鳥の赤面がどこかへ消え去りいつものポーカーフェイスが蘇った。
……はぁ。
「渦巻さんがどうかしたの?」
落ち着いたいつもの表情で水鳥が問う。
「前に天体観測した時に言ってたじゃないか、渦巻は悪魔だって……」
「えぇ確かにそう言ったわね。……それがどうかしたの?」
「渦巻は今、その悪魔の呪いに殺されそうになっているんだ……」
「……そう」
渦巻は棚の上の望遠鏡を手に取り、手入れを始めた。
「俺は渦巻を助けたい、でもそれには水鳥の力が必要なんだ。手伝ってくれないか?」
「別にダメとは言ってないじゃない。……で、私は何をすればいいの?」
「手伝ってくれるのか?」
「五之治くんには恩があるからね、それに……助けない理由なんて無いじゃない」
水鳥のその言葉に安堵し肩の荷が少しばかり軽くなった気がした。
もともとこの二人にライバルとしての認識はあっても敵としての認識は無かったのだ。
やっぱり水鳥は強い。そしてしっかりしている。これもあの両親の教育の賜物なのだろう……。
そう思ったが一概にそうでは無いと思った。
……ライバルの存在。
水鳥が強いのは両親の教育も一理あるが同じ土俵で戦える存在が更なる高みへと導いてくれたのかもしれない。
だとしたら水鳥は渦巻に感謝すらしている。
「ありがとう水鳥。本当に頼りになるよ」
水鳥の頬に赤みが蘇った。
「そ、それで私は何をすればいいの?」
「わからない。それも踏まえて今日の昼休み、みんなに話そうと思う……」
水鳥が何かを考えるように下を向いて望遠鏡を机にゆっくりと置いた。
「番匠さんならまだわかるけど引持さんに話す必要あるの? あの子は無関係でしょ、それにこういう話って極力他人には漏らさない方がいいと思うのだけれど……」
ごもっともな意見だ。
確かに協力してもらうのも情報を共有するのも少数に越したことは無い。
でも花火がいないとダメな気がする。
確証はない、だが少しずつ蘇りつつある俺の記憶がそう告げている。
引持花火とはいったい何者なのだろう……。
「花火にも聞いてもらう。そして協力してもらう」
「ふーん。やっぱり五之治くんって見た目より随分と大人っぽいのね。頼りにしてるわ」
それから休み時間が終わり何気ない授業をぶっきらぼうな顔で過ごし美徳先生に叱られつつ昼休みを迎えた。授業中に考えていた渦巻を救う作戦会議、名付けて【渦巻救出作戦会議】と一人で考えていた。
今思えばそのままだ。
これからその作戦名を発表するのだが滑らないだろうか……それだけが不安要素だった。
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