03

 パチパチと壺の中で燃える火を見つめる王。

「そろそろかの」

 晴れ空の下、しゃがみ込む王にひのきの棒が話しかける。

「なぁ、その壺って国宝の壺だよな」

「如何にも」

 壺に乗せられた網の隙間から煙が高く昇り、青空に溶ける。

「国宝に網乗せてバーベキューするなよ……」

 パチパチと炎に炙られる網の上に王は薄切りの野菜や肉を並べていく。焼ける音と共に肉汁が表面を跳ねて、じわじわと周囲に香ばしい臭いを漂わせる。

「ところでさ、王様」

「なんじゃ」

 ちりちりと焼けていく野菜を裏返すと焦げた端がぽろっと壺の底に落ちる。


「そろそろ冒険の旅に出る気になった?」

「これまでのどこにその要素があったのじゃ」

 うーん、とひのきの棒は言葉を伸ばす。

「歴史書を読んで過去の英雄に感銘を受けたあの時とか?」

「過去を改ざんせんでくれ」

 ほれ、とつまんだ肉をひのきの棒に差し出す。

「いや俺口ないから」

「そうか。残念じゃのう」

 そのままひょいと自身の口に運び、もにもにと噛む。

 少し冷たい風がやわらかな頬をかすめて灰色の髪をなびかせた。

「……なぁ、やっぱ王様ってさ」

「なんじゃ」

「歳、四十超えてるよな」

「ああ、そうじゃの」

 まるでそういう作業の様に網の上の野菜をつついてとる。

「もう察してると思うんだけどさ、それ勇者の加護なんだよな」

 片手でやりにくそうに地面の上の器に野菜を付ける王。

「やはりの。魔物の呪いかと思うておうたわ」

「呪い、ねぇ……ちなみに魔王倒せば解けるんだけど」

「行かぬぞ」

 てこでも動かねぇな、とひのきの棒はぼやく。


「大変です!」

 突然かきねの向こうから飛んできた女の声に王は即座に顔をあげた。

「な、なんじゃ」

「海岸にいた兵士の皆さんと、あとお城の偉い方が、大きな魔物に」

 女が言い切るよりも前に王はひのきの棒を握ったまま身に着けたローブを膝で蹴って駆け出した。地面におかれた小皿はひっくり返り、落ち葉に染みる。あ、火……とひどく困惑した様子ではあったが女は庭へ入り込み、壺へと近寄る。

 網をどかそうとした手を宙で留め、え、と女は王が走り去っていった方を振り返る。


「今の声……王様、だったよね」

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