異世界復讐者〜二度目の人生を壊されたから転生者に復讐します〜

餅の米

第1話 終わりの始まり

「あー、疲れた」



日も落ち、スーツ姿のサラリーマン達が死んだ様な表情で揺られる電車の中に溶け込み携帯に目を落とす。


現在の時刻は19時、いつもより少し早く会社から解放され、気分はそれ程悪くは無かった。



「けどパチンコ打つには遅いな」



新台情報でも見ながら一人で呟く、男の名前は佐々木奏、27と結構良い年齢になって来たにも関わらず彼女すら居たことは無く、休日はパチ屋に行くか家でアニメを見る何処にでも居る普通のサラリーマンだ。



『次は岸部町』



アナウンスで降りる駅名が呼ばれる、退屈な毎日に嫌気を感じながらも人混みをくぐり抜け電車を降りる、突然通り魔が人を襲い、それを助けるなんて下らない妄想をしながら改札を抜ける、ふとSNSに投稿されて居た一文に目を惹かれた。



『生まれ変われたら絶対に成功できる』



いつどこでフォローしたのか分からないユーザーの一言、良くある生まれ変われたら……現状に後悔がある人が良く使う言葉だ。


かく言う俺も現状に後悔しか無い、勉学を嫌い、ろくに部活も頑張らず、お金を払えば行けるような大学へ行って、妥協に妥協を重ねた会社に入社、そして低賃金で働く毎日……だが生まれ変わっても同じ人生を歩む筈だった。


それに人生自体には疲れた訳では無い、気を許せる友達も居るし、家族関係も良好、それにアニメやパチンコと言った楽しみもある、死にたいとは思った事は無かった。



「飯でも買って、大人しく帰るか」



口笛を吹きながら携帯をポケットにしまい、行きつけの弁当屋へと向かう、いつもは夜にも関わらず大きな声で客引きをして居るのだが……今日はやけに静かだった。


中途半端にシャッターが閉まっている、だがいつもの事だった。



「店長、今日も買いに来てやったぜー」



シャッターを潜り店内に入る、だが返事は無い。


おかしいと思い視線を徐々に床から上げて行く、そして視界に入ったのは顔全体を覆う覆面姿の体格的に男、地面には縄で縛られた店主夫妻が横たわって居た。



「っ!?」



男は驚きながらもナイフを此方へ向ける、刃が大きい……刺されれば一溜りも無さそうだった。


ふと突然、強盗を前に昔、教師から言われた言葉を思い出した。



『奏くん、君は将来……あまり長生き出来ないタイプだよ』



今でも鮮明に覚えている一言、保健室で治療を受けながら教師が呆れながらも誇らしげに言っていた。


怪我の理由は確か6年生に友達がいじめられて居たからだった。


当時の俺は3年生、体格差なんて天と地ほどの差がある……だが俺は正義感が強かった。


昔から良くヒーロー物を見て居たと言う影響もあるが、それにしても正義感が強く、周りからは良く病気だと言われる程だった。


中学生の時はひったくり犯を捕まえた事もある、その時は警察から危険だと感謝と共にこっ酷く怒られたが……とにかく、俺の正義感は正直病気の域に達して居た。


究極のお人好し、それは今も治って居ない。



「誰だか知らねーけど、骨折れても文句言うなよ」



カバンを犯人目掛けて投げ付ける、それと同時にナイフを持つ手へと距離を詰める、刺される危険性なんて物は考えて居なかった。


単純にナイフを持っていれば此方が不利だから、だが天は俺に味方したのか、投げた鞄がたまたまナイフを持つ手に直撃し、犯人はナイフを落とした。



「今しかない!!」



喧嘩なんて中学生のひったくり犯とした以来、渾身の右ストレートを犯人の顔面に叩き込む、確かな感触と鈍い音で男は商品棚へと吹き飛んで行った。


すかさずナイフを店の外側へ蹴り出し、携帯で110番に電話を掛ける、犯人は先程の一撃でかなりダメージを負っている様子、連絡するなら今しか無かった。



「んーっ!んっー!!」



「少し待ってくれおっちゃん達!!」



ボタンを押す手が震える、正義感があるとは言え、恐怖がない訳では無い、ただその恐怖を上回る程の正義感があるだけ……必死に震える指を押さえながらボタンを押し、コールする……そして直ぐに警察は出た。



「すみません!田島弁当店に強盗が!!」



警察の声も聞かずにすかさず情報だけを告げる、その間も犯人から目は逸らして居ない、まだぐったりして居た。


だが、次の瞬間……背後から奏の身体に鋭い痛みと衝撃が走った。



「痛っっ!?」



何が起きたのか、犯人は確かに転がっている……背後を振り返ると覆面を被った男がもう一人立って居た。



「くっそ!この店なら客も来ねーから狙えるって言ったじゃねーかよ!!」



呆然と立ち尽くす奏を他所に、伸びているもう一人の仲間を無理矢理起こしてレジを壊そうとする、二人組だとは思って居なかった。


だが向こうは手負い、このまま逃さず捕らえることもできる筈……だが身体が動かなかった。


ふと地面を見ると血溜まりができて居た。



「ヤベェな……これ」



どうやら背中を刺された様だった、物凄く痛い……気分も悪くなって来た。



「早くしろ!警察が来るぞ!!」



二人組は慌てて此方に気が付いていない……俺ができる事は一つだけだった。



「……っっ!!?」



痛みを必死に押し殺しながらナイフを抜く、そして店主夫妻の縄を解くと店の外を指さした。



「今なら……逃げれます」



その言葉に店主達は一目散に外へ逃げる、それを見て奏はゆっくりシャッターに近づくと下まで下ろした。



「な、何閉めてんだ!!」



男が何かを言っている、だが意識を保つので精一杯の今、何も聴こえていなかった。


シャッターを下ろした理由は一つ、この店には裏口なんて無い、出入り口は全てこのシャッターがある場所からのみ……つまりこいつらは袋の鼠だった。



「おい!!退け!開けろ!!」



男達が必死にシャッターを叩く、恐らく彼らはこの後捕まる筈だった。



「へっ……ザマァみろ」



何かを言う二人を他所に意識は徐々に薄まって行く、先生の言っていた言葉はどうやら本当の様だった。


君は長生き出来ない……俺の病気的な正義感も社会の歯車となる事で周りは治ると思っていたらしいが、結局俺は病気のままだったらしい。


別に英雄になりたい訳では無い、感謝を求めている訳でも無い……ただ、俺が誇れる事がそれだけだった。


勉強もスポーツも人並みかそれ以下、長所と呼べる物も正義感を除けばどれだけ探しても出てこない。


正義感だけ有れば周りは良いと言う、だが俺が純粋に正義感を持っていたのは中学生のひったくり犯を捕まえた時までだ。


いつから……正義感が純粋な物じゃ無くなったのだろうか。


俺には正義感があると皆んなは口を揃えて言う、だが裏を返せば正義感しか無い。


そして社会人になっていた今、俺にはそれすら無くなろうとして居た。


だが……今日の出来事は間違いなく、純粋な正義感だった。


死なんて考えず、勝手に身体が動いた……いつからか、偽物と思っていたが……最後に本物の正義感だったと知れて良かった。


我が生涯に一片の悔いなし……とは行かないが、多少気持ちは楽になった。


そして奏の意識は闇の中へと消えて行った。

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