決死の覚悟4
疲れ切ったマリエスをベッドに寝かせて布団をかけてやるとベットに腰を降ろした。
「よく頑張ってくれたよ」
言ってマリエスの頭を撫でると、手の動きに合わせてケモミミがぴょこぴょこと動いた。
マリエスとやり遂げた灰色の獣討伐。シフィエスにさっそく報告をしようとも思ったのだけど、あいにく、シフィエスもサギカも不在のようだった。
当の主役であるマリエスも眠っている事だし、明日改めてくれば良いよね。
きっと、眠っているマリエスには聞こえていないだろうが、一言断りを入れてからベッドから立ち上がる。
「じゃあ、また明日」
当然、マリエスから返事は返ってくることはない。
すやすやと眠る少女だけを残し、部屋を後にした。
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自宅へ戻る途中、奇妙な物を見た。
森や林に住むおびただしい数の鳥達が逃げ出すように飛び立って行ったのだ。
それは空を黒く埋め尽くす程の密度で、まだ夕方なのに一瞬周囲が暗くなった程だ。
注意深く耳を澄ませてみると、木々がざわついているような気もした。
普段となにが違うのかと問われたら詳しく説明することはできない。
しかし、そう感じたのだ。
森で、林で何かが起こっているのか?
──────まさか、考えすぎだとは思うけど、僕とマリエスとで倒してしまったあの灰色の獣と関係がある訳じゃないよな。
そんなに周囲に影響を与えてしまうほどの力があるようには思えなかったが……
白銀の獣を倒してしまったのなら、バランスが崩れて何かが起こるという事も考えられるが……
少し立ち止まって考え、そして結論に至る。
そうであったにしろ、そうでなかったにしろ今この場で僕にできることはない。
あまり遅くなっても母さんを心配させてしまうし、早く帰ろう。
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「ただいま」
「あーロウエおかえり。今からご飯作るから、ちょっと待ってくれ」
家に帰ると、出迎えてくれたのは父さんだけだった。
「母さんは?」
「あー、シフィエスに呼ばれてでかけていったんだ。今夜は帰れないかもだって。獣騒ぎで忙しいみたいでね」
慣れない手付きでナイフを握る父さん。ナイフを見て、母さん愛用の包丁を森に放置してきてしまった事を思い出した。母さんが居なくて良かったと安堵した。
頃合いを見計らって取りに行くしかないな。
「そんなに大変な事になっているんだ」
「そうなんだよ。どうもロウエが襲われた獣はこの辺りには元々は居ないみたいでね。対処しないと大変な事になってしまうかもしれないんだってよ」
「そうなんだ。でもシフィエスさん、サギカさんが居るから討伐するのは簡単なんじゃないの?」
シフィエスの戦闘力は折り紙付き、サギカだっておそらく強い。俺を助けてくれた時、獣に命中こそしなかったが、強力な光の魔法を放っていた。
シフィエスの師匠だと言うのだから、シフィエスよりは強いのだろう。
「それがね、そうでもないみたいなんだ」
「あの獣、そんなに強いの?」
「ああ。魔法を使えない僕やロウエじゃ到底敵わないだろうね。だけど、シフィエスやサギカ様、母さんなら対処できるだろう。三人でかかれば容易いはずだ」
「それならなにも問題ないんじゃない?」
「それがね、倒してしまうと、咆哮をあげて仲間を呼ぶらしいんだ。一頭や二頭ってレベルじゃなく、そこら中の森、うんと遠くの山までも響き渡るような」
咆哮────。
灰色の獣にトドメを刺した時、たしかに咆哮のような物を上げていた。
でも、今父さんと話しているのは白銀の話であって、僕とマリエスが関与した灰色の話しではない。
マリエスの進学の為に、白銀と偽る為に倒した、弱々しい灰色の獣のだった。
しかし、何故か胸騒ぎがした。
そもそも、最初に対峙していたはずの白銀はどこに消えたんだ?
深く考えなかったけど、あの状況で白銀が消えるなんてありえるのだろうか。
「ロウエ?どうかしたのかい」
ふと我に返ると、父さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「なんでもないよ」
なるべく自然な笑顔になるように答えた。
「なにかあるのなら、父さんに相談するんだよ」
「うん。ありがとう。でも大丈夫。なんでもないから」
「それならいいんだけどな」
そう言って眉を潜め、父さんはキッチンの方へ戻っていく。
そして、慣れない手付きで料理を再開した。
しばらくして完成した不格好な料理を食べ、この日はまま眠りについた。
その晩に事件は起こったんだ。
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