ナナケンジャ2
シフィエス宅の裏庭に連れてこられると、サギカは僕に折れた木剣を放り投げた。
「ほら、ガキ。そいつでそれを切ってみろ」
サギカが顎で指す先にあるのは、シフィエスが大事に育てている、茎が太くしっかりとした花だった。
突っ込みどころは多数あるが、
「えっと、サギカ……様?これは木ではないですが」
まずは木ではないことを指摘した。
するとサギカはサラサラの前髪を掻き上げ
「手始めだ。最初から木が切れる訳がないだろ」
実際の所、僕は木を切り倒した事がある。それも昨日の話だ。その事実を知らないサギカが無理だと主張するのは無理のない事だ。
しかし、問題はそれ以外にもまだある。折れてしまった木剣では花の茎であったとしても、断ち切る事はできないだろう。
僕の後ろで、怪しく目を光らせるシフィエスも気になるが……
「刀身が無いから無理だと?それは言い訳だな」
「え、でも……」
僕の様子を見たサギカはイラつきを隠さない。舌打ちをしてから、僕に先程放り投げた木剣を奪還すると、右手で木剣を体の正面で構える。
そして、こう言い放った。
「おいガキ!一度しか手本は見せてやらないからな」
そしてサギカは腰を深く落とし深呼吸、小声で何かを呟く────すると、木剣の切断面から光の刀身がミルミルと伸びていく!
僕が使っていた木剣よりも長く、立派な刀身。
あれはなんだ?
「光の魔法の応用だ。今回はお前に合わせてこれにしてやったんだ感謝しろよ」
そう言うとサギカは、木剣、もとい光の剣をシフィエスの花に向かって振り抜いた。
同時にシフィエスの悲鳴が上がったがそちらを見ている余裕は無かった。
力感を全く感じさせず、無駄のない薙ぎ払い。
光が通り過ぎだ数秒後。斬られた事を思い出したかのように、茎と花がハラリと二つに分かれポトリと地面に落ちた。
声が出なかった。目の前で見せられた圧倒的光景に畏怖すら覚えた。
自分が今までやってきたお遊びとの差を、一瞬でわからさせられた。
「す、凄い」
後ろで大人しく顛末を見届けていたはずのマリエスも思わず声を漏らす。
「ここまでの事をやれとは言わない」
サギカは背中で語る。
そして、振り返りざまにもう一言。
「そうだな……刀身を出す事が出来たのなら、第一段階は合格にしてやる」
こちらに再度木剣の柄を放り投げると、サギカは一人、シフィエスの家へ戻っていく。
放心しながらもなんとか木剣を受け止め、まじまじと観察をしてみるも、怪しいところは一切ない。
「シフィエスさん!今のってどうやったんですか?」
シフィエスからの返答はないが、無惨にも切り落とされてしまった花を拾い上げ、悲しげに微笑んでいた。
……今は放っておこう。
それならこの場に居て、多少でも魔法の知識のある別の人に聞くのが手っ取り早い。
「マリエス。今の説明できる?」
マリエスはシフィエスの背中を優しく撫でていたが、それを中断して僕の方に振り返る。
「えっ?今の?多分、光の魔法……かな?」
「光の魔法か。マリエスには使える?」
マリエスは一度考えるように視線を泳がせてから答えた。
「光の魔法は得意じゃないけど、風の魔法をうまくすれば___できると思うよ」
「なるほど。だったら、僕に教えてくれない?」
「えっと……」
マリエスは再度、視線を泳がせてからたどたどしく答える。
「ロウエに風の魔法が使えるかどうかもわからないし。うーん、えっと……」
「使えたらラッキー。使えなかったらまた別の人に教えて貰うからさ!ねっ!?いいでしょ!?」
「うーん。……ロウエがそれでいいならいいけど。まだ、私もお勉強中だから、上手には教えられないよ?」
「ああそれで良い!」
「わかった。じゃあ、まずね────」
───────────────────────
「むむむむむ」
「ロウエ。一度休憩にしない?」
マリエスに風の魔法を習い始めてどれくらいの時間がたったかはわからないが、頭の天辺に恒星がやってくるくらいには時間が過ぎていた。
つまり、お昼が近いという事だ。
昼には一度は帰ってくるように母さんに言われているから、成果は全く上がっていないが、頃合いか。
「────そうだね」
そう言って立ち上がると、マリエスに手を差し出す。マリエスは僕の手を掴むと同時に、首をかしげながら聞いてきた。
「ねえロウエ、私も一緒に行ってもいい?」
なんでそんな事を言い出したのかと思案。現在のシフィエス邸の様子を思い浮かべて納得した。
きっと気まずい雰囲気になっているに違いない。
そうか。天真爛漫なマリエスでも、思うところがあるという所か。
それならば……
「いいよ。母さんも賑やかな方が喜ぶし」
「ありがとう」
すぐにマリエスを引き起し、木剣を拾い上げる事も忘れずに家に戻った。
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