貞操逆転世界ではキモデブのおっさんでもラブコメ無双。美少女達が俺の遺伝子を狙っている。ハーレムどころの騒ぎじゃない。逆にモテすぎて困る。お前も俺を狙ってるのか!

子どもの終わり

1章 幼馴染と絶対にヤレるラブコメ。そして女子高生に拾われる。

第1話 目覚めたら貞操逆転世界

「学校に遅れちゃうよ。起きて」

 32歳の俺の体を揺さぶって起こそうとしているのは、近くにいるだけで緊張して死にそうなほど綺麗な女の子だった。

 俺が好きだったポカリのCMに出ていたアイドルに似ている。しかも巨乳である。細身の体で巨乳ってどういう仕組みなんだよ? 

 ショートの髪を彼女が耳にかけて俺の体を揺さぶる。


 彼女の名前は梶夏帆。19歳。愛称はカホタンである。緊張して一度も呼んだことがない。心の中で呼んでいるだけである。俺のお世話係をやっている。


「早く起きて」と彼女が俺の体を揺さぶった。

「起きてます」と俺は言った。

 さっきから、ずっと目はパッチリ開けた状態だった。

 俺は19歳の女の子に対して敬語を使っている。タメ口で馴れ馴れしく喋れないのだ。

「起きているんだったら、早く制服に着替えなさいよ」

「……本当に俺、高校生なんっすか?」

 俺は困惑しながら尋ねた。

 どう考えても俺は高校生じゃないのだ。

「コールドスリープから目覚めて混乱しているのよ」とカホタンは言う。

 コールドスリープというのは冷凍保存のことである。

 めちゃくちゃ32歳の頃の記憶があるんだけど……。 


「この世界おかしくないっすか?」

 と俺は寝転びながら尋ねた。ずっと考えていて眠れなかった。

「これが今の日本なのよ。太一がいた過去に比べて、多少はおかしなことはあると思う」

「……いないじゃないですか」

「なにがいないの?」

「男性」と俺は言った。

 コールドスリープから目覚めて三日間。まだ俺は自分以外の男性に会っていない。

「いるじゃない」

 とカホタンが俺を指差す。

「俺以外の男性がいないんですよ」

「そんな事を気にしていたの?」とカホタンは言って笑う。

「太一がいた過去の世界に貞操逆転世界ってネット小説があったの知ってる? 太一はコールドスリープして、その世界に来てしまったのよ。そう考えたらラッキーだと思わない?」

 思う。思うけど、……マジで日本はどうなってしまったんだよ? 俺がいた日本から何があって日本に男がいなくなったんだろうか?

 謎である。

 そして、その謎をごまかすように、カホタンはグニャッと愛らしく笑った。


「この世界を太一は楽しんだらいいのよ」

「……楽しむ」

 楽しんでいいのか? 

「早く、朝ご飯を食べよう」

 俺は100キロ以上もある巨漢の体を動かしてベッドから立ち上がった。

 


 コールドスリープする前の記憶は自分の部屋だった。

 18歳から部屋を出ていない。

 言わゆる勝ち組である。働いたら負け、という名言がある。あれは誰の名言だっけ? すごい偉人の言葉だったと思う。

 俺は勝っていた。宇宙の中で俺だけが尊い者だった。唯我独尊ゆいがどくそん。略してユイガーである。

 両親が事故で死んで……この辺りを思い出すと脳みそがバグりそう。俺の世界は両親の頑張りで成り立っていた。でもユイガーのまま32歳よ?

 働くこともできない俺の元へ政府の人間がコールドスリープの話を持ちかけてきた。 

 俺は結構あっさりとコールドスリープを選んだ。

 なぜコールドスリープするのか? それは日本人の備蓄である。日本人が絶滅しかけたら解凍されることになっていた。


 なぜ冷凍保存を選んだのか? 親という資金源が無くなってしまって俺は生きてはいけなかった。

 でも自殺するのはめちゃくちゃ怖いじゃん。つーかどうやって死ぬのよ? ビルの二階から飛び降りろって言うのかよ。

 ビルの二階なら骨折するぐらいで生きる気まんまんじゃん。

 それじゃあガスを部屋に充満させて死ねって言うのかよ。そんなことしたら、もし死ねなかった時にガス代めっちゃくるじゃん。無理無理。

 それじゃあ働け、っていうのかよ。働くのが嫌だから死にたい、と思っているのに? 

 コールドスリープは自分で死ぬよりはマシな手段のような気がしたのだ。

 そして起きたら男がいない世界よ。俺が解凍されたっていうことは日本の危機だと言うことはわかる。でも日本はどうなったのよ?

 


 カホタンが作ってくれた朝食を美味しくいただきました。ごちそう様でーす。めちゃくちゃ焼きジャケが美味しかったです。朝からご飯を5杯もお代わりしちゃった。実家にいた時は気を使って三杯ぐらいしか食べれなかったもんな。

「ちゃんと薬も飲んでね」

「何の薬っすか?」

「体調を整える薬よ」

「はい」と俺は言って薬を飲む。

「太一、お米が頬に付いてるんじゃん」

 そう言ってカホタンが俺の頬に付いていたお米を取る。

 そのお米どうするのよ? 普通は指でペンって弾いて時の彼方に飛ばすはずである。でもカホタンは、そのお米をお口の中にパクンと恥ずかしそうに入れた。

 あぁ、俺の、俺の頬米ほほこめ。ちゃんとカホタンはごっくんしてくれた。

 俺、考えていることめっちゃ気持ち悪い。自分で考えていることが気持ち悪いってわかったからノーカンね。逆に気持ち悪くない。


「どうしたの?」

「いや、なんでもねぇーです」

「それじゃあ、学校に行こうか?」

「今日は自分で行きます」

 アタイこれでも32歳よ。学校ぐらい自分で行けます。学校に行く32歳、それだけでおかしいんだけど。

「なに言ってるのよ」とカホタンが怒る。

「男の子が1人で外に出たら危ないでしょ。学校まで私が送って行くから」


 俺のお腹には唯我独尊ゆいがどくそんをやっていた頃の脂肪がこびりついている。まぁ角度によっては腹筋がシックスパックに割れているようにも見えないこともないが。

 そう言えばこの家に鏡がないからわからないけど、顔だってアダルトビデオに登場するブリーフ親父に似ているのだ。角度によってはイケメン俳優に見えないこともないが。

 そんな俺が1人で外を歩いていたら危ない?

 今の日本の治安はどうなってるんだよ。


「さぁ行きましょう」とカホタンが言う。

「どうしたの? 行きたくないの? 家にいる?」

 18歳から32歳までの5年間を……あっ、計算間違えた14年間を部屋に引きこもっていた。できれば俺はやり直したいのだ。

 そして、なぜかは知らんけど、今の俺は17歳らしい。マジかよ? もしかしたらマジで俺の記憶違いなのかも? いや、でもコールドスリープした時の俺は32歳だった。そんな俺が17歳からやり直せるのだ。

 俺しか男がいない、この世界で。

「行きます」と俺は言った。 

 この世界なら俺はやり直すことができるような気がした。

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