第四話 多忙の日々
教師が黒板に紙を張り、図を説明する。
「魔力を吸収し、放出する宝石、
鐘の音が響き渡る。
「む、時間か。今日の授業はここまで。次回の授業までにこの続きを予習してくるように」
「起立、礼!」
俺が魔法学園中等部一年Aクラスに編入されてから
この星での
でも一年で一月分の差だからなあ、十二年で一年の差はでかいかもしれん。
そんなことを考えつつ、男子学生寮へ一人で歩く。
この一か月何をしていたのかというと、主だった教師、クラスの生徒たちの顔と名前、各教科の内容の暗記と予習と復習と、体育の体力
俺には学生寮の一室が与えられた。何でも、学習内容についていけなくなっただの、問題行動を起こしただので退学になった生徒の空き室があったのだとか。
相部屋なのだが、勇者との個人的な交流を優先的に進められても困る、といった生徒たちの申し出らしく、俺一人だけとなった。
正確には一人だけではない。
『お帰りなさいませ、ノリオ様。夕食までまだ時間がございます。
自室に戻るなり、部屋の中で俺にお辞儀しながら
間髪入れずに答える。
「先に風呂に入る。ついて来てくれ」
『かしこまりました。……あ~ん、いけずぅ』
ローナ・フュシィアと名乗るメイドが
この一か月、彼女にはほとほと手を焼かされたが、この頃は言動に慣れてきたため、
『いつも通り部屋のお掃除しておきました。もちろん、
「ああ、ありがとう。ってか、やけに強調するな。何か変な物捨てたっけ?」
教科書などが入った
『年を取られても勇者様も男ですね~。ちり
「……いや、その、……ああ、俺も男だよ。それが何か?」
躱すこともできるようになったが、全てではない。
少しどもったものの開き直る。
堂々としていればからかわれないだろう。
そう判断して黙らせようとしたのだが、彼女は
『おかずにしたの、誰ですか?』
「っ、
『えー教えてくださいよー誰にも言いませんからー』
「人の口に戸は立てられぬ、って知ってるか?」
『私、幽霊です。人じゃありませんから大丈夫ですよー』
「なら、何で俺が隠しておいた
ちょっとした夜食用として菓子をため込んでいたのだが、遊びに来た同級生に発見され、幾らか食べられてしまったのだ。
『寮の規則ですので』
「ほら信用できねえ。
『内緒にしますからー』
「言わない」
精神的に疲労する会話をこなしながら風呂に行くための着替えをローナから受け取る。
このようにお金持ちか王国から奨学金が貰えていれば、男子にも女子にも部屋に一人幽霊メイドが付く。
基本的にこの学園に入る生徒たちの大半は貴族であり、実家でもメイドが住み込みで働いている事が多い。
また、夫がメイドに手を出して
多い、というだけで、全部がそうではない。
男の
これでも、周辺国と比べれば随分とましな状態だそうだ。
あくまで
他の生徒たちと共に受けた授業では、どの国も
魔王が現れるまでは。
事の
が、魔王軍はあっさり要塞線を完全破壊したようだ。カルアンデ王国の調査では大規模魔法での破壊は無理があり、どうやら魔王は勇者を召喚したらしいと結論付けた。でないと説明がつかないそうだ。
魔王軍は
外国まで逃げ出した生き残りの民の訴えに危機感を覚えた諸国家は同盟を結び、魔王軍が占領した旧軍事国家の領地を取り返さんと攻め込んだが、数に劣る魔王軍は何倍もの同盟国軍を押し返し、戦争は
学園長に各国で召喚された勇者たちを一か所にまとめ、力を合わせて魔王討伐すれば楽勝ではないかと意見したところ、どの国も自国が召喚した勇者の情報をなるべく他国に知られるのを嫌がり、それぞれが独自で魔王に挑む取り決めをしたそうだ。
夕方の浴場は利用者が少なく、がらんとしていた。
貸し切りみたいで落ち着くなあ。……何で他の生徒たちはこの時間に来ないんだか。
洗い場でローナに背中を流してもらった後、ゆっくりと風呂に
世界の危機ってわけじゃねえのか? こんな時まで腹の探り合いかよ。敵国に突撃する方の身にもなってみろ。
心の中で
大丈夫かこの世界。
そもそも滅ぼされた軍事国家に疑問がある。
魔王領に攻め込まずに防衛線を構築したという点だ。
俺がその国の独裁者なら、魔族領が
それにも関わらず、滅ぼされたのは魔王を見くびっていたのではないのか。
滅ぼされた軍事国家は比較的強大な国で、おいそれと攻め込まれるような弱い国ではなかったと聞いている。
それが滅ぼされたということはよほど魔王が召喚した勇者が強かったのか、それとも噂だけで軍事国家が弱かったのか。
「ところでローナ」
『はい、何でしょうか』
「……くっつくのやめてくんない?」
ちなみに、ローナが全裸で俺の隣で湯に浸かっている。しかも体を傾けて頭を俺に寄せている状態だ。しかもご丁寧に柔らかい感触があるのが憎らしい。
『良いではないですか、減るもんじゃなし』
「一応俺だって男だ。理性を
『
「こ
明らかに俺をからかっている。
調子に乗る彼女に
幽霊だから。
そのくせ彼女たちからは自発的に物体に
学術的に幽霊族は基本は裸なのだそうなのだが、半透明とは言え、女性の裸体がもろに見える状態でうろつかれると
それまで人間界に関わってこなかった幽霊族は人間が着る服に興味を持ち、彼女らの間で流行するようになったとか。
ちなみに、自分の意思で好きな服を形作ることができるらしい。
貴族たちや学園内で働く彼女たちはメイド服を着ているが、同一では面白くないと思ったらしく、衣装が細部で異なっていたりする。
彼女たちが独自に工夫した衣装が
ただ、人間側から干渉できないわけではない。
ずばり、魔法だ。
というか、普段温厚な彼女たちを怒らせると怖い目に
ポルターガイスト現象を起こして
学園で生活を始めてから一か月たつが、専門科の教師から学んだ魔法はちょっとずつではあるが、使用できるようになった。
今回使うのは闇属性の精神干渉魔法だ。対象に直接触れる事で効果を発揮する。
相性が良いので無詠唱で発動できるのが最大の強み。
「いい加減に、しろっ」
『うきゃっ!?』
手でローナの顔面を掴み、指先に魔力を集中させ指をゆっくりと曲げていくと、彼女が俺の手を
『あだだだだだ、痛い痛い、ごめんなさい調子に乗りました許してくださいだだだだ』
「
ため息をつきながら手を離すと、ローナは顔をさする。
『ああ、痛かった。……ん? ノリオ様、今童貞って言いませんでしたか?』
「言った。それが何か?」
ローナは信じられないという表情で俺を見る。
『その年になっても童貞なんですか?』
「どうした急に真顔になって」
『恥ずかしくないよう、娼館に行かれて捨てて来てはどうでしょうか』
「嫌だよ、性病怖いから」
『え、そんなことで?』
「お前は幽霊だからそんなのとは無縁なんだろうが、中には不治の病もあるんだぞ。気楽に行けるか」
思い起こせば学生時代、同級生が当時治療方法が分からなかったエイズをうつされて死んだことがあった。
極端な例かもしれないが病気は病気だ。可能性を少しでも減らすなら、性風俗で遊ぶのは避けた方が良いと考える。
急に無言になったローナを不審に思いつつ、静かになったのなら良いかと判断し、丁度良い湯加減を堪能する。
『あのー、ノリオ様』
「……ん? 何だ」
『そのー』
ローナはもぞもぞと、いや、もじもじし始めたと言えば良いか。とにかく今まで目にしたことのない不穏な動作をする。
じれったいな。
このような態度をとるのは初めてだと思いつつ彼女の発言を待つ。
彼女は言おうかどうか迷っていたみたいだったが、おずおずと口にする。
『もし、よろしければ、わ、私が、お相手をつとめさせていただきましょうか?』
予想外にくだらない意見だったので却下する。
「いらん」
『即答!? な、何でですか?』
「無理強いするわけにはいかんだろう。お前にだって好きな男の幽霊がいるだろうに」
『は? いえ、いませんよ』
「どのくらい長く生きているかは知らんが、人間と同じように思考する生き物なら、そういう感情を持ったことがあるはずだ」
『ですから、そういうわけではなく、私たちには男が存在しないんです』
「……何? じゃあどうやって一族を増やしているんだ」
『ええと、これは私たちの間で秘密なんですけど、……やっぱり教えられません』
「深入りするつもりはないし、言いたくないならそれでいい」
彼女は向かい合って何か言いたそうにしているが、幽霊族にも
闇属性の魔法がかかった手で彼女の頭を
「別に秘密を打ち明けなくても、お前たちを嫌うことはないから安心しろ」
『ごめんなさい。……ありがとう』
急にしんみりした空気の中、彼女は顔を上げて言う。
『でしたら、私と結婚してください!』
「却下」
『何故にっ!?』
衝撃を受けるローナに諭すように告げる。
「いずれ俺は故郷に帰るが、そこには幽霊族が一人もいない。一人ぼっちになるうえ、最悪の場合、国からお前を取り上げられ、見世物にされるだろう。連れ帰るわけにはいかないんだ。分かってくれ」
『うう~、そんなのあんまりです……!』
涙目の彼女の頭をよしよしと撫でた。
風呂から上がった俺は今日の復習と明日の授業の予習をする。
一刻も早く家に帰りたいという気持ちもあるが、この一か月休んだ記憶がない。
たまには一日中、この部屋でごろごろと寝ていたい。
元社畜だった俺はこのくらいどうってことないとは思いつつ、時折、同級生が遊びに誘ってくる度、故郷に帰る為と断るのも忍びなくなってきた。
いい加減、学業以外でも彼らと交流しないといけないと思うようになったのだ。
お互い信頼関係が築かれていない中で、いざ敵に向けて出発する際、誰もついてきてくれなかった時の事を考えるとさすがにまずい。
さらに誰かを誘うのも考えものだ。
特定の人々にのみ誘ってばかりいると残された人に目の敵にされる。
かといって八方美人に付き合っているとそれはそれでどうかと思われるだろう。
うんうん悩んでいて気づいた。
あれ、これ昔俺が読んでいた小説で登場した貴族たちと生活形態が一緒じゃないかと。
貴族からの手紙が毎回ひっきりなしに届くようになった以上、無視するわけにはいかない。
魔法をかけられて良かった言語理解。
早速ローナが用意してくれた返信用の手紙にちまちまと書きこんでいく。
『あの、本当にそれでいいんですか?』
机に向かっている俺に対して、脇で様子を
「何かまずいことでも?」
『ノリオ様、男同士の恋愛に興味があったんですね』
手紙を書いていたペンを止め、彼女を
「……なぜそうなる」
『その手紙に描かれている花なんですが、送られた相手から見ると、あなたを愛していますという意味でして』
それを聞いて俺はため息をついた。
「……男同士の友情を求めるような意味合いにしたいんだが。というか、何でこんな変なものが混じってるんだ?」
『貴族の学生同士の恋愛の始まりは手紙からなんですよ。皆様将来がかかってますし』
彼らはお城での仕事以外、基本は領地経営だ。逆を言えば貴族同士の付き合いが
「なるほど、貴族も大変だな。……いや、待て。だからなぜ愛しているという
『学園の購買部で仕入れた物なのですが……、察するに、貴族様達が勇者様にこの地に根ざして欲しいからではないでしょうか』
「俺は、故郷に、帰るんだ」
『私としてはこちらに残って欲しいのですが』
「年老いた両親が心配なんだ」
『そうですか、残念です』
ローナは気落ちした様子で顔を
主だった人に手紙を書き終えた俺は夕食を食堂でとり、何事もなく就寝した。
◆ ◆ ◆
翌日、昼食の時間に俺は同級生に声をかける。
「ようやく時間が取れた。良ければ今日の放課後どこか遊びに行かないか?」
「本当かい? 嬉しいな、他の同級生も誘っていいかい?」
「もちろんいいとも。ただこの学園の周辺はほとんど知らないんだ。おすすめの店に案内してくれないか?」
「喜んで」
こうして俺は三人の同級生と共にちょっとお
店内を
同級生三人の中に女子が一人いるのは、男子だけでは気まずいからかな。
一人勝手に納得しながら彼らに案内されて、空いているテーブルに
「ここのサンドイッチとコーヒーが絶品なんだ」
「じゃあそれを頼もうかな」
彼らに
一応、国からそれなりのお金が月々俺の手元に届くことになっているので、限度はあるがこうして飲み食いするだけの
戦時中だからあまり
同級生たちは店員にそれぞれ希望の品を注文すると、自己紹介を始めた。
「出会った最初に自己紹介したはずだけど、僕らの名前、
念のためか尋ねられたけど、この一か月は勉強ばかりだったので自信が無かった。
「すまない、名乗ってもらえると助かる」
「では改めて。僕はウェブル・ケイ」
「マリー・ゼスト。よろしくね」
「ルモール・テイラーだ。今度こそ憶えてくれよ」
眼鏡をかけた茶色の目と長髪の少年がウェブル、同学年と比べるとちょっと小柄で金髪で青い目の少女がマリー、黒の短髪で中等部かと疑うくらいガタイの大きいのがルモール、と。
「……うん、何とか憶えた。
「じゃあノリオと。そもそもどうしてクラスで最初に僕に声をかけたんだい?」
「この一か月でウェブルがまとめ役として動いているのが分かったからさ。クラスの顔役に挨拶しておこうと思ってね」
「なるほど、確かに僕は相談役としてあれこれ動いているけれど、貴族としての家柄は下から数えた方が早いよ? コネを作るならもっと良い人を紹介するけど……」
ウェブルの
「そんなものに関心は無い。ただ単に友人として仲良くやっていきたいというだけだ」
俺の返事にきょとんとしていた三人が
「……ありがとう」
ウェブルの礼に俺は頭を下げた。
「こちらこそすまない。学園の生活に慣れるまで時間がかかってしまった」
「構わないさ、君が授業の後、教師に熱心に質問している姿を見てたから」
それを聞いたマリーとルモールが話に加わる。
「そうそう。あれ見て思い出したわ、あたしたちも小さいときはああやって教師を質問攻めにしていたよね」
「さんざん先生たちを困らせてたよな」
三人で笑う光景を見た俺は
どうやら、住む星は違えど人の
店員が運んできたサンドイッチに
学園の授業で遅れているところはないか、何か手伝える事はないか等、色々質問された。
勇者だから毎度声をかけてきていたのかと思っていたが、純粋に心配してくれているらしい。
「色々気にかけてくれてありがとうな」
俺が三人に礼を言うと、ウェブルが肩をすくめて答える。
「何、これも相談役としての勤めさ。……ところで、魔王を倒す算段は着いたのかい?」
彼は話を本題に変えてきた。勇者としての力が気になるようだ。
だが、俺は戦争を知らない身。見栄を張るより正直に答えた方が良いだろう。
「いや、それがさっぱり。俺の能力が発展途上だからまだ
「まあそればっかりは仕方がないさ。実戦を経験した教官たちに
ウェブルがコーヒーを飲みながら答える。
へえ、教官たちは経験者なのか。それは心強い。
そういった豆知識は今後必要になるだろう。ちなみに座学を担当するのが教師で、剣術や魔法の実技は教官と呼んでいる。
それにしても、
学園の教育体制の評価を上方修正していると、マリーに話しかけられる。
「魔法の勉強はどのくらい進んでいるの?」
「そうだな、初級に指定されている魔法ならどの属性でも無詠唱で発動できるようになった。それ以上になると呪文を唱える必要がある上に、属性の適性が無い魔法だと魔力を結構持っていかれるんだよ」
まあ、相性の良い属性なら定型文的な文章の音読ではなく、短縮した呪文で発動できるから十分便利なのだけれど。
ウェブルがその考えを読んだのか俺を
「いやいや、普通は適性の無い属性魔法を使うのは発動自体が無理なんだ。魔力の
「言語理解の魔法のおかげさ」
「あーあれね」
俺が肩をすくめて答えると、ウェブルが苦笑し、マリーが同情するような目つきで引いている。
「きついでしょ」
「おや、マリーも経験したのか」
「まだ幼い頃にね。……物凄く痛かったことだけは覚えてるわ」
「俺も受けたぞ、どうってことなかった」
それまで沈黙していたルモールが声を上げ、マリーの表情が固まり、ウェブルが彼を驚愕の眼差しで見る。
「……マジ?」
「おう、マジだとも」
「よく無事だったわね」
ルモールの返事に二人は
廃人になる確率は低いとも言うけれど、実際に受けてみるまでは分からないからな。
引かれているルモールが
「危険はつきものだけれども、それをもって余りある利益が得られたよ。悪いことだけじゃない」
「君がそう思うのならそれでいいけど」
ウェブルは浮かない表情で言った。
この話題は避けた方が良さそうだ。話を魔王について戻すことにした。
「それで魔王のことについてなんだが、短期間に一つの国を攻め滅ぼしたその力は一体何なんだ?」
俺の問いにウェブルが乗った。
「さあ? 僕の実家は家格がそれほど高くないから、そこまでの情報は入ってきてないね。ちなみに今の王国での噂をまとめると、魔王の国にも色んな種族がいて、その中の誰かが物凄い力を持っていたとか、魔王直々に勇者を召喚したと考えられているようだ」
彼の答えに国はまだ十分な情報を得られていないことが察せられた。と思いきや、ルモールが別の情報を持ってくる。
「俺の親戚が前線にいるんだけどさ、聞いた話によると、敵は巨人族を多数投入して攻撃してきたらしい。恐ろしく
俺は首を傾げた。ウェブルほどの人物でも知らない情報があるのか。
三人寄らば
友達は多い方が良いという典型だろう。
「魔法はどうなんだ?」
「中級火属性のファイアーボールで焦げ目しかつかないらしい上、痛みにも強いらしくて、怯む様子が無いとか」
ファイアーボールとは、文字通り火の玉を空中で形成して、敵陣ど真ん中で
今の俺でも魔力を多めに消費すれば使えるけど、それが効かないのは厄介だな。
魔力を消耗すれば精神的疲労が増える。分かりやすく言うとその場に横になって眠りたいという感情が強くなる。
そんな葛藤を抱えながら行動するのだ。きついなんてものじゃない。
俺は打開策はなかったのかとルモールに訊いてみる。
「罠を張って倒すとかしなかったのか? 例えば、落とし穴とか」
「知性があるから引っ掛かりにくい。その上、巨人族の周りに
「その追い返したってのは、どういう方法で?」
「魔術師を集中運用しての火力投射だとか聞いたな」
俺たちの話を聞いていたマリーが、カップから口を離して言う。
「何だ、いけるじゃない」
「その代わり、他の場所が
「駄目かあ」
ルモールが挙げた欠点にマリーが顔を伏せた。
もしかすると、王様が言っていた決戦兵器は巨人の事なのか?
そのやり取りを見ていたウェブルが首を
「そんなに強いなら、とっくに戦線を突破されてこの国に侵攻されてそうなんだけど、どうして僕たちはこうして
「そういやそうだ」
ウェブルの疑問に同意した俺も
敵の戦力は圧倒的なのに攻め込んでこないのはおかしい。
「それなんだけどさ」
ルモールが身を乗り出して周囲を伺うように小声で言う。
何だ、あまり世間に知られたくない情報なのか?
俺たちは不審に思いつつ、彼の言葉を待つ。
「どうも奴らはこっちに攻め込むつもりがないらしい」
彼からもたらされたのは
「え? 軍事国家をあっという間に攻め滅ぼしたんだから、その勢いで次を狙うでしょ?」
「そこなんだよ。こっちから攻め込もうとすると追い返されて、向こうは動かない」
「不気味な話だ。奴らは何を企んでいるんだろう?」
マリーの誰もが考えそうな思考に、ルモールが事実を提示し、ウェブルが腕を組んで考える。
「魔王との話し合いで戦を終わらせるわけにはいかないのか?」
外交は戦争も含まれるがそれは手段の一つであって、話し合いによる交渉が大半だ。
俺の思いつきの意見にウェブルが首を横に振る。
「それこそ駄目だ。奴らは魔族でこちらとは
見ず知らずの赤の他人に勝手に話を決められてしまうのは困るという理由が透けて見えた。
「うーん、魔王が旧軍事国家の領土を確保したい、という意思の表れを感じはするけれど、本当にこちらに攻め込んでこないのかしら?」
「圧倒的な力を有していてそれをしないというのも不自然だね。……もしかして短期的決戦でしか役に立たないとか?」
マリーとウェブルの疑問をルモールは流す。
「ウェブルたちがどう判断するかは任せる。俺から伝えられる情報はこれで以上だ。あとは実際に戦場へ行った時に確認するほかないだろうな」
「分かった、ありがとう」
世間に秘密にしているであろう情報を教えてくれたルモールに礼を言った。
あとは細々とした雑談をした後、カフェでの会話はこうして終わりを迎えた。
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