解決しない編 探偵 vs VRの王子様(中編)
「そういえば、今日の私っていつもと違うアバターですけど、よくわかりましたね」
「ニコちゃんマーク2けっこう売れてるみたいですね。今日も何人か見かけました」
「その中から本物見つけられるのすごいですよ」
「そんなことないです。ワタシにはホンモノのニコちゃんは他の子と全然違って見えます」
ぴーちゃんはにっこり笑って言った。
無表情キャラが私にだけ向ける笑顔。たまらないぜ。
「ワタシのニコちゃんへの愛がなせるワザですかね」
「なんと! 嬉しいことを言ってくれるじゃないですか!」
でも……。
そこで素直に受け取ることができないのが天才探偵の辛いところである。
「嬉しいんですけど、カラーが一般販売されてるのとちょっと違うからわかったんですよね?」
「バレましたか。カラーバリエーションにブルーブラックありませんからね。ニコちゃん本人が使ってるんだなってわかりました」
「他の人からは見分けつかないでしょうけど、やっぱり高性能AIにはバレちゃいますね」
「えへへ」
ぴーちゃんは頭をかくモーションをとる。こうして見ると中に人がいないなんて信じられない。
可愛い。
「ともかく声かけてくれてよかったです。一人だとちょっと勇気が出なかったところです。イマジナリーマッチョと一緒にホストクラブに行くという狂気の沙汰にもほどがある潜入調査になるところでした」
『俺たちの筋肉はいつも君と共に……』
『がんばれよ、ニコ! ふん!』(腹筋を見せつけてくる)
そしてイマジナリーマッチョたちの存在が薄くなっていく。
まだおったんかい!
うるせーうるせー、早く消えろ。ぴーちゃんが来てくれたらお前らはもう用無しじゃい!
「どうしたんです?」
「いえ、こっち(脳内)の話です。お気にならさず」
私は去っていくマッチョたちに小さく手を振る。
その背筋、海よりも広く、万物を包み込むよう。その背筋を見た者はすべてその母なる海へと還りたくなるでしょう。
……はぁ?
「ともかく行きましょう!」
「はい」
私(2Pカラー)と片腕がメカアームのセーラー服美少女は並んで、ホストクラブへと向かう。
「わー、お城だー」
「思ったよりちゃんとお城でしたね」
ホストクラブ『レディプリンス』はネオンがギラつくカブキシティに面しているということを除けばかなりちゃんと西洋のお城だった。
こぢんまりとはしているが、中はかなり広いのだろう。
私たちは扉の前の紐付きベルを鳴らすと、話に聞いていた爺やが出迎えてくれる。
「姫、おかえりなさいませ」
私は真っ赤な絨毯を歩きながら爺やに早速希望を伝える。
「エラ君という王子に会いたいんですけども」
「姫様、お目が高い。ちょうどエラ王子がこちらにいらっしゃったところですぞ」
私たちは豪奢なシャンデリアが光り輝くフロアの端にあるソファ席に通される。
実に居心地が悪い。
世の乙女たちはお姫様になったような気分でウキウキできるのだろうが、こちとら探偵とサイボーグである。
「ワタシの知っているホストクラブとは少し違うようです」
「だいぶ違いそうですけどねぇ。ここはけっこうマニア向けらしいですよ」
「なるほど。学習しました」
とかなんとかやっていると……。
「やぁ、待たせたね」
女性のような中性的な顔立ちで、まさに男装の麗人いった感じの王子様がやってきた。
手足なげー。
でも筋肉ぜんぜんないから褒めるポイントもないー。
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本作『探偵系VTuberの成り上がり』ですが、小説家になろうの方にも転載を始めました。
本作をきっかけに4月にKADOKAWA文芸単行本で発売予定の『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』を知ってもらえたらいいなと思ってのことです。
もしなろうのアカウントをお持ちの方がいらっしゃいましたら、こちらも是非ご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n7326ia/
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