王子と付き合いたい? 知らんがな

 私は色々と意味がわからなくて、頭が痛くなってきた。


「だから、今話したじゃん。エラ君とあたしの運命の出会いをさ」

「指名したホストに一目惚れしたってだけじゃん」

「向こうもあたしのこと好きだから!」

「まぁ、埒があかないから一旦そういうことでいいよ」


 絶対違うと思うけど! プロってホントにすごいのね。いや、リンちゃんがチョロ過ぎるのか? わっかんないなぁ。名探偵にもわからん。


 私はため息を吐きながら、冷めきった珈琲を飲む。マズい。

 学食の珈琲なんてそもそもでマズいのに、冷えるとなおマズい。


「で、そのエラ君ってのはどんな感じの人なの?」

「えっとね、本当に超美人な王子様って感じでね。白いスーツ着てた。背も高くてー、肩まで伸ばした髪がサラサラなの」

「ふーん」


 というか、この情報は聞かなくてもそのホストクラブのサイト見ればいいだけだった。


「他にはどんなこと話したの?」


 会話内容から何かわかるかもしれない。

 とりあえずリンちゃんのこのエピソードトークだけでは何もわからないということしかわからない。

 恋する乙女の尋常じゃないバイアスがかかっていて、どこからどこまでが本当なのかもさっぱりわからない。


「それがさー、あんまり覚えてないんだよね。頭真っ白になっちゃって」

「嘘でしょ……」

「気がついたら時間終わっちゃって、千円だけ払って帰ってきた」

「あぁ、初回客はそのくらいの金額なんだよね」


 行ったことはないが、小説を書くためにとにかく調べ物だけは沢山してきたのでこういう謎知識は頭のなかにいっぱい詰め込まれている。


「でもリンちゃんが行ったお店が高級店なんだとしたら、次は隣に座るだけで5万円とか取られると思うよ。さらにそこから10万円とか20万円とか高いのだと100万のシャンパン入れてってねだられるから」

「えー、エラ君はそんなこと言わないよー」

「言うんだよ! それが彼の仕事なの!」


 別にそれで彼だか彼女だかわからないがエラ君とやらに失望して諦めるならそれでもいい。

 でも今のリンちゃんは結構危険な状態かもしれない。

 言われるがままに高級ボトルを入れたり、貢いでしまったりする可能性もある。

 違法なビジネスに手を染めたり、借金を背負ったりしてしまうやも。

 あー、頭痛い。

 なんでこの子はこうなのだ。


 一瞬だけ洗脳されたのかと思ったけど、なんか違いそうだ。全然余裕で正気のまま、恋愛に脳を支配されているようにしか見えない。


「それでね、TJにお願いがあるって言っただしょ?」

「内容によるとも言ったけどね」


 もうお願いとやらは聞きたくない。

 というか聞かずともわかる。


「あたしね、エラ君とVRでもリアルでも付き合いたいの。なんとかして」

「だと思ったよ!」


 嫌だよ。

 嫌だけど放ってもおけないのよ。

 もー、友達って面倒くさいなぁ。


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