ぴーちゃん、かく語りき

 私とマッキーが向かい合って座っていたので、フローラはマッキーの隣――私の斜め向かいに腰掛けた。


「新メンバーの二人のチェキ列がなかなか途切れなくて時間かかっちゃいました」

「他のグループのファンの方が新人の応援のために並んでくれたんですか?」

「それもありますし、古参のふぁんたすてぃこファンがミミとソフィアに早く認知もらおうとチェキ券枯れるまでループしたというのもありますね」


 それを聞いてマッキーが「あー」と私の顔を見ながら言う。


「なんの、『あー』ですか?」

「ニコちゃんは認知もらうために必死になったことなんてないからわかんないだろうなって」

「あー」


 フローラも「あー」である。

 たしかに私は認知をもらうために何か特別なことをしたとかはない。


「ニコちゃんはそもそも有名人だから、他のオタクとはスタート地点が違うよね。ソフィアも喜んでたでしょ?」

「まぁ、そうですね。私のことは知ってたみたいです。でもマッキーもどこの現場でも認知されてるじゃないですか」

「お金の力でね。まぁでも見た目も中身も女の子は認知されやすいのはあるよね」

「そんなもんですか」

「そんなもんだよ」

「ともかくちょっと時間かかった理由はわかりました。ふぁんたすてぃこが売れそうなのは良いことです」


 私がそういうとフローラはどことなく昏い笑みを浮かべた。


「グループとしては喜ばしいですが、きっとこれで私は不人気メンバー扱いです」


 危うく最悪の「あー」を発するところであった。

 だが、彼女の危惧はわからないでもない。


「人気に差は出る可能性はありますが、仮にグループで4番人気だとしてもそれはグループの中で4番目に人気者なのであって、不人気というわけではありません。フローラが不人気だなんて自虐的なことを言うのは推してくれるファンにも新メンバーにももう誰にも推してもらえないリリーにも失礼です……確かに私はぴーちゃん最推しですけど、フローラのことも好きですよ」

「ありがとうございます。ニコちゃんは無神経なところもありますけど、そういうことを言えるから人が離れないんですよ」

「人たらしとも言うね」マッキーが最後にまたいらんことを言った。


「ちょっと喜ばしいことをネガティブに捉えて暗くなってしまいました。すみません。さて……ぴーちゃんのことお話しします」

「よろしくお願いします」


 そして、フローラはぴーちゃんのことを話し始めた。


     *


「あれは先週の対バンの時のことでした。楽屋が大部屋だったんですが、いつも部屋の隅っこで一人でじっとしているぴーちゃんが私のところに来て話しかけてきたんです」


「すみません、フローラさん。少しお話ししてもいいですか?」


     *


「あの……すみません、話の腰折っちゃうんですけど」


 私は言わずにはいられなかった。


「あ、はい。ニコちゃん。なんですか?」

「ぴーちゃんって普段そういう話し方なんですか?」

「そうですね。あのカタコトはキャラ付けなので楽屋では普通に喋ってますね」

「マジですかー」

「いや、今はそこいいだろ。続けてください」


 ちょっとショックを受ける私を制して、フローラに話の続きを促すマッキー。


     *


「で、ぴーちゃんが珍しく私に話しかけてきてくれたんです」


「すみません、フローラさん。少しお話してもいいですか?」(2回目)

「えぇ、なんでしょう?」


 大部屋の端の方にある小さな丸テーブルで向かいあって、話を続ける二人。


「ワタシ、実はちょっと悩んでることがありまして。ただ何をどう悩んでいるのか自分でもわからないんです」

「はい。そういうことありますよね」

「なんというか違和感……とかこのままでいいのかな、みたいな感じで。色々考えて藤堂ニコさんに相談してみようと思ってるんですけど……こんな変なお願い、嫌がられないかなと不安になってきて、ニコさんと仲良しのフローラさんに訊いてみたいなって」

「良いじゃないですか。ニコちゃんならきっとなんとかしてくれますよ。ニコちゃんってぴーちゃんのファンじゃないですか。推しのお願いなら聞いてくれると思いますよ」

「そうですか。でもアイドルとファンの関係性を崩すようなことしてもいいのかなって」

「推しに悩みごとを相談されたくらいでファンじゃなくなるような人じゃないですよ」

「そうですね。そう言っていただいて安心しました。じゃあ、勇気出して依頼してみます。あと一つ……ワタシ、しばらくアイドルお休みするかと思うんですが、もしニコさんに何かワタシのこと訊かれたら全部答えてもらって大丈夫です」

「全部?」

「ワタシが普通に喋れることとか、この相談してることとか」

「はい……わかりました」


     *


「という感じです」

「なるほど……ありがとうございます」


 わかったようなわからないような話だ。

 しかし、一つわかったことがある。

 楽屋で普通に喋っていたことを知って、ちょっとビックリはしたのだが、私は彼女の力になりたいという気持ちが強くなったということだ。

 きっとここから先。どんな些細なヒントも見逃さずに最短距離でぴーちゃんの悩みに到達することができるだろう。

 探偵モードの私の推理力はどのVtuberにも負けないのだ。

 

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