真実を話すことは正しいことか

「リリーはプロ意識が高い子だった。自分が男性であることを知ったフローラとコーネリアがこれまで通りに接してくれるのかどうかを気にしていたようだ。このグループでの活動に全力で取り組んでいたからね。グループの輪を乱すことは避けたかったんだろう。あとフローラとコーネリアはもともとリアルでもアイドルだったというのは知っているかい?」

「えぇ」

「そこはやはりコンプレックスに思っていたようだよ。自分もできることならリアルのアイドル活動もやってみたかったと言っていたことがある」


 リリーの話を聞けば聞くほど私は彼女/彼のことが好きになっていく。だが、その強さも弱さももうアーカイブ動画でしか見ることができない。


「リリーが彼女たちに正体を隠していたのなら、隠し通してあげるのもプロデューサーの役目なのかな、とも思ってね。でもあとの二人の反応を見るに正しいことなのかどうかはまだ悩んでるんだ……」


 私には一つ知っていることがある。


「フローラは彼……いや、リリーのことをもっと知りたかった、わかってあげたかったと言っていました。自分が彼女の話を聞いて理解しようとしてこなかったことを後悔しているようです」

「そうか」

「私はコーネリアと話したことはありませんが、少なくともフローラはリリーが男性だったと知ってもそれを受け入れられる優しい子だと思いますよ」

「あぁ、そうだと思う。きっと僕自身もそれはわかっていたんだ。でも勇気が出なかった。リリーのため、残された二人のため、グループの未来のためと自分に言い訳ばかりしてしまっていたんだね」

「他人の秘密をバラすっていうのは罪悪感とは切っても切り離せないものです。その行為自体は悪とされてますからね。私が言うと説得力ありますよね。でもね、それを避けて通ることが善ではないんです。自身が善良でありたいと思うのであれば、ただ黙っているよりも良い選択が見えてくることもありますよ、たぶんね」

「なんだか、うまく丸め込まれたような気もするがその通りなんだろうね。残された二人もこのままだと先に進めないだろう。私から真実を話すよ」

「それがいいと思います」

「あと……君の配信だけどね」

「あぁ、ダメならダメでいいですよ」

「いや、逆だ。リリーの個人情報にだけ配慮してもらえばやってもらっていい。多分、君が捜査を始めたというだけで何かしら噂にはなってるだろう。それなら変な憶測が出回るよりはここで綺麗に炎上するならしてもらう方がいい。それに……君の推理ショーの再生回数を考えると良い宣伝にもなる」

「プロデューサーっていうのは商魂たくましいですねぇ」


     ※


 その後、フローラとコーネリアもライブハウスに呼び出し、今回の顛末を話すことになった。

 私も同席を頼まれたのでそのまま残ったが、口を挟むことなく賀來が二人に経緯を語り、頭を下げるのを見守った。


 二人は泣いていたが、どうやら"ふぁんたすてぃこ"は解散することなく、活動を継続していくようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る