リリーの正体
フローラに会った翌日、私は各社の新聞をデータ購入し、ネットニュースを片っ端から読み漁っていた。
私が探していたのは昨日の死亡事故、殺人事件の報道記事だ。
治安があまり良いとは言えない――むしろ不景気に比例するように日々悪化している現在においてそういったものは多発しているがそれでも一日に百件も発生しているわけではないしもしリリーと思しき人物の事件があればそうだとわかるのではないかと思ったのだ。
願わくばそういった事件が見つかってほしくはないのだが――。
昨日起こった殺人事件は3件。
男子大学生が自宅に侵入してきた強盗に刺殺された強盗殺人事件。犯人は警察から逃亡中に自殺。
40代男性が介護を苦に父親を殺害してしまった事件。犯人は自首。
そして――元地下アイドルの女性が交際中の男性に刺され死亡した事件。犯人の男性もその後自殺。
――これか……。
私はフローラに記事のURLを記載したDMを送る。
すると5分で返事が戻ってきた。
【フローラ】
『直接話せませんか? 私はいつでも通話可能です』
私も今日は大学は休みだし、配信の告知も出していない。
適当に過去のゲームプレイの映像を編集しようと思っていただけで特に予定らしい予定はない。
『わかりました。では通話に切り替えましょう』
すぐに通話アプリを立ち上げる。
※
「もしもし」
「はい、フローラです」
「あの記事の方がそうではないでしょうか?」
「……そうかもしれないし、そうではないかもしれません」
「中野区に在住の20代の女性で地下アイドル卒業後はコンカフェで働いていたと書いてありますね。本人からそういう話は聞いたことないですか? Vとしての活動以外にこういう仕事をしてるとか、どこに住んでいるとか」
「いえ……リリーはあまりそういう話をしたがらないというか……そもそもアイドル活動以外のことはあまり口にしないタイプだったので。私とコーネリアは別に過去を隠しているわけではないですし、声も変えていないので売れたらいずれ過去の写真や映像は表に出ることの覚悟はしていました。むしろリアルのアイドルとしても売れたいと思っていたのでそれを心のどこかで望んでいたかもしれません」
私は彼女の発言に引っ掛かるものを感じた。
だが、その正体が何かはまだわからない。
「率直にこの記事を読んでフローラさんはリリーさんだと思いましたか?」
「わからないんです。そうだと言われればそんな気はします。違う……とは言えないです」
「ネットに彼女が働いていた店でのプロフィール写真が流れていました。この顔や表情にリリーらしさは感じますか?」
「わかりません」
――まぁ、そりゃそうだろうな。
リリーは身長50センチのフェアリー型のアバターだったのだ。全身の印象が強すぎる。実際に動いたり、話したりしている映像であればわかる人にはわかるだろう。
先日の呪井じゅじゅの事件はそうだった。いくら頑張ってもイントネーションや口癖、笑い方のすべてを完璧に変えることはできない。
だが、写真ではいかんともしがたい。
「すみません、わからないばかりで」
「いいえ、いいんですよ。彼女はVとしてかなり特殊なタイプでしたからね」
「…………」
「フローラさんはどうしたいですか? この記事の彼女がリリーだったということにしますか? それとも確かめたいですか?」
「確かめたい……です。この方がリリーの中の人だったとして、どうして殺されなければいけなかったのか知りたいです。私がもっと話を聞いてあげていればとか、信頼関係を築けていたら今みたいなことにはならなかったのかもしれないと思うと苦しくて……この依頼が私自身が救われたいがためのエゴだっていうことはわかってるんです。でも、本当のことがわからないとずっとリリーのことを考えてしまって、とてもアイドルなんてできそうになくて……」
「わかりました。調査を続行します。自分が救われるために真実を知りたい。良いじゃないですか。自分が幸せになるのに誰に遠慮する必要があるんですか。事務所が信用できない以上は探偵に頼るくらい何の問題もありませんよ。でも、このコンカフェ店員の方がリリーであったと断言はできませんし、もし違った場合は手詰まってしまうことにはなります。迷宮入りもありえますがそれでも許してくださいね」
「ありがとうございます。ニコちゃんが捜査してわからないならそれで納得できるので構いません」
私はただの大学生で本当は探偵なんかじゃない。探偵風キャラのVtuberだ。
それでも彼女のためにできることはしてあげたいと思った。
――とりあえず、VRとリアルの両方から情報を集めてみるかな。それである程度推理が固まったら……事務所に問い質して隠してることを白状してもらおう。
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