決戦前夜

 私のママである姫咲カノン先生に質問を送り、寝る準備をする。

 もうすっかり深夜も深夜――どころかなんならもう朝だ。

 返事が来るのも明日だろう。


 ――今日はなんかやけに長い一日だったな。


 私は長時間寝るタイプだが、考え事をしていたり小説を書いていたり集中していると幾らでも起きていられる。

 だが、それは所詮元気の前借りでしかない。後で必ず皺寄せが来る。

 寝られるのであれば寝た方がいい。眠くなくてもだ。


     ※


 翌日、カノン先生からDMが届いていた。


「やっぱり……」


 その内容を見て私は自身の推理が間違っていなかったことを確信する。

 だが、これだけではまだ偶然だと言い張られる可能性がある。

 あともう一つ何か……言い逃れできないような証拠がほしい。

 現時点でこれまで引退に追い込まれたVのファン達には納得してもらえる解答を導き出せたとは思うのだが、じゅじゅが認めなければあくまで推論で終わる。


 私は再びリスナー達から提供してもらった動画を一つ一つ分析していく。


「どれもそんなに面白くはないんだよなぁ」


 できれば面白くあってほしい。観ているのがまぁまぁ苦痛だ。

 そしてその中で違和感がある動画が一つあることに気づく。


「何か……おかしい」


 動画それ自体に問題があるというより些細な違和感だ。

 どこかで観たことがあるような……。


 あぁ、わかった。そういうことか。

 彼女は一つ大きなミスを犯した。

 このたった一つのミスによって彼女はもはや言い逃れは不可能になってしまった。


「呪井じゅじゅ、化けの皮をはがしてあげますよ。Vだけにね」


 誰に向かって言っているわけでもないが、まぁなんとなく言っておいた方がいいような気がする。

 探偵ってなんかそういうとこある。


     ※


 私は呪井じゅじゅにV殺しの噂についてコラボ生配信でトークしたいという打診を送る。


--------

呪井じゅじゅです。コラボの件、承知しました。

ただ私とコラボしたら呪われてしまうかもしれませんが、それでもよろしければ……なんて脅しにもなりませんね。おそらく噂のことはある程度あなたの中では答えが出ているのでしょうし。

あなたの個人チャンネルで好き勝手に話されるよりも一緒にやった方がいいでしょう。

受けて立ちます。

--------


 千里眼オロチに続いて呪井じゅじゅも私の挑戦を受けてくれた。

 文面から察するに証拠は出てこないと踏んでいるようだ。

 たしかに事実として私の個人チャンネルで推理を一方的に公開されるより、その場で否定してしまう方が傷は浅くて済むのかもしれない。

 これは犯罪ではない。状況証拠がいくらあっても知らぬ存ぜぬを貫けば有耶無耶にできる可能性も十分にある。


 だがおそらく真実に辿り着いたであろう私の考えは少し違う。

 彼女もまたオロチ先生と同様に早く名探偵に真実を明らかにされたいと思っているのではないか、ずっと苦しんでいるのではないか、そんなふうに思えてならないのだ。


 生放送は明日の夜。

 私はコラボの告知文を書き、スズキさんに観てもらえるようDMを送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る