駆け出しV探偵・藤堂ニコ最初の事件

 コメントなんか殆ど来ない。

 昨日のゲームについての雑談配信なんて――。


[観てます]

[草]


 この二つだけだ。総再生数は99。誰かあと1回観てあげようという優しい人はいないのか。

 いや、それもなのだが、99回再生されていてコメント2ってどういうこと?

 あとの97人は? もしくは二人で99回再生してる? じゃあ、均等に50ずつにしなさいよ。


 作家デビューした際に作ったTwitterアカウントで宣伝してもまったく再生数が伸びやしない。

 どうやら私は作家としてもVとしても人気がないらしい。

 だが、ここでやめてしまうわけにもいかない。


 Vtuber活動の先行投資として印税とバイトで貯めてきた貯金を突っ込んでしまったのだ。

 ”ガワ”のデザイン代は格安にしてくれたが、動画編集、ゲームプレイに耐える高性能PCに、バーチャル空間でのアバター操作のためのVR機材は大学生の身の丈に合わないほど高額だった。

 せめてこの先行投資分だけでも回収しなければならない。


 一体、何が問題なのだろうか。

 動画自体は一般的な大学生程度には観てきたはずだし、ある程度技術的なところは小説を書くために調べていたのでナメていたところはあるかもしれない。


     ※


 そして私に転機が訪れる。

 KADOKAWAが運営する巨大VR空間『グリモワール』の中の自室――利用料無料のワンルーム――で読んだ本についての雑談配信をしていた際にとあるヒントが舞い降りた。

 

 [〈¥100〉もっとミステリー作家っぽいゲームしたらいいんじゃないですか? 人狼とか]


「それです! 私の推理力を存分にアピールしていけばもっと視聴者も増えるはずです。流石、私のファンの方。優れた洞察力です」


 その日から私――藤堂ニコの名探偵化計画が始まったのだった。


 私はオンライン人狼で勝って勝ってかちまくり、一定数のファンを獲得することに成功する。


[ニコちゃんエグい]

[全員の画面ゴースティングしてるんじゃないかと疑うレベル]


「私は名探偵ですからね」


 私のドヤ顔をしっかり画面上のバーチャルニコも再現する。

 VRヘッドマウントディスプレイ装着時は表情筋の動きまでかなり正確にトレースされるのであまり性格の悪そうな顔もできない。


 そして、しばらく経ち……いつの間にか人狼Vtuberという本来の目的から逸脱した活動を続けていた私はふと我にかえる。

 これ遠回り過ぎでは?

 こんなことをやっている場合ではないのでは?

 ファンは人狼のプレイを観に来ているのであって、ミステリ作家である私に一切の興味を持っていない。

 たしかにコツコツと人狼で投げ銭を稼いでいくというのもありかもしれないが、そういうことではないのだ。


 だが、この推理力自慢は決して無駄ではなかった。

 そう、とあるコメントによってさらなる転機が訪れることになるのだ。


【ナスビ48615】[〈¥50000〉藤堂さんは探偵なんですよね? 依頼があります。姉を助けてください]

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