君との方程式

蒼桐 光

第1話 それが始まり

「雁宮君!付き合って欲しいの」

驚いて振り向く

俺のシャツの裾をつかんで

真剣な眼差しで

そこに居たのは

いつも教室の片隅で

静かに本を読んでいた

密かに

気になっていた

あの

菊咲麻美(キクザキアサミ)だ。

窓辺、揺れるカーテン

長いまつ毛

パッチリとした二重

真剣に本を読む表情

風に吹かれて

揺れるちょっとクセっ毛の

ふわっとした髪

赤面した

高鳴る胸の鼓動

嬉しさに心が躍る自分がいた

夢か現実か?

返事をしようとしたタイミングで

「ちょっとまったぁー!!!」

現れたのは菊咲の友人の元気娘

二上真那(ニカミマナ)だ

「麻美、違うでしょ?」

「あ!」

「雁宮!ごめん、麻美はちょっと天然だから」

二上がバツが悪そうに弁解する

そうなのか?

初めて知った新事実

「ごめん、雁宮君!」

「数学、得意でしょ?勉強に付き合って欲しいの」

………

………

なぁ〜〜〜んだ

安堵したのと同時に非常に残念な気持ちだった


目の前に広げられた過去の数学のテスト

39点、45点、35点、42点…

29点!?

「数学だけは苦手なの!」

一旦広げて見せた答案をかき集めて

申し訳なさそうに上目遣いで俺を見る

菊咲がいた

「お願いします。どうか、、、」

そう言って深々と頭を下げた

菊咲は、頭のいい印象があった

実際に他の教科は80点位が平均で

数学が彼女の平均点を下げていた

今年は受験生だ

大学進学を目指す菊咲はかなり焦りを感じている様子だ

俺も復習になるし、菊咲との勉強会をスタートさせる事にした

勉強は、俺の塾の無い火曜日と金曜日に

図書館で行う事になった


「雁宮君、手出して」

菊咲は、おもむろにポケットから小さな瓶を取り出すと俺の掌に三粒オレンジとピンクとシロのツブツブした物体を転がした

こんぺい糖だ

自分の口にも放り込むと

口元に人差し指を当てて

内緒の仕草

図書館は、飲食禁止だ

「これ、お母さんが好きだったんだよね」

菊咲がポツリとつぶやく

だった?過去形?

その時はあまり疑問に思わなかった

「雁宮君って、勉強する時だけメガネかけるんだね?」

「あー実は、目が悪いんだ、あまり好きじゃ無いから、普段はかけないけど」

「そう?似合ってるよ?頭を良さそうに見えるし」

今のは?果たして褒められたのだろうか?

まずは菊咲の持っていた過去のテストの解けなかった問題から説明した

しばらく説明すると

「解る!!解るよ!!雁宮君!!」

「教え方上手!!先生になれるかも」

大袈裟に、感動した様子で、菊咲が喜んだ

恥ずかしくもあり、嬉しくもあった

もともと、菊咲が飲み込みが早いだけだとも思うが

"先生"か、、、

そういう選択肢は、俺の中にはそれまで無くてただ、大学進学を目指していた


必死に勉強して

3か月

菊咲が嬉しそうにテストの答案を見せつけてきた

ジャーン!!

期末テストは72点だった

「すげーじゃん!!」

さりげなく、菊咲の頭に触れて見た

ふわふわの髪を撫でてみる

特に変わった反応は見られず

でも、テストの点数に

満面の笑みが見れた

神様、ありがとう!!

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