第30話
夕子と常に一緒に行動する様になって一週間がたった。
相変わらず金森先生からの視線は続いていたが、直接コンタクトを取るといった行為は一切なく意外にも平穏に過ごせている。
はじめさんも金森先生の調査を進めているが以前勤めていた学校でも特に何かあったと言う事もなく、私との繋がりも見えてこなかったそうだ。
そんな全く動かない現状、そして自身が動けないもどかしさにため息が漏れる。
「ゆづ葉、疲れてる~?」
心配そうに顔を覗き込む夕子に、大丈夫と伝える為頬に手を添え笑顔で答える。
「実害はないから問題ないんだけどね。
ただ、夕子やはじめさんに迷惑を掛けていることだけが心苦しいかな。」
そう今は二人に申し訳なく思う方が強い。
「私は別にいいよ~。ゆづ葉と常に一緒に居られるなんて役得じゃ~ん。
ーーーただ
夕子の眼差しが一気に冷たくなる。夕子の視線を追うと金森先生がいた。
「女子の体操服姿見てニヤニヤしている変態教師として今すぐにでも上に突き出したいんだけど~。」
私達は今体育の授業で校庭にいる。校庭にいるのは女子のみだ。男子は体育館でバスケをしている。
金森先生はというと化学実験室からクラスメイトの一部に声を掛けられ窓から顔を出し、彼女達のリクエストに応え手を振っている。
ニヤニヤしているかは別としてこの状況で上に突き出すのは無理な話しだろう。
「爽やかな笑顔が人気らしいよ。」
クラスメイトに聞いた話をそのまますれば
「あの胡散臭い顔の何を見てそう評価してるんだか~。」
そう言って夕子は苦々しい顔をした。
それを聞いて私も同じ表情になってしまう。
一見優しい面差しを浮かべているがその笑顔はいつもでもどんな時もブレず
始業式の時、、、金森先生の笑顔に違和感を感じたのはその作り物めいた顔に対してだったようだ。
そしてそれはテストの時に出した裏の一面を垣間見て確信した。
違和感の理由は解けたけれどその他に気になる事があった。
それはこの顔を何処かで見た事があるのだ。
最初は全く記憶にヒットしなかったのだが、裏の一面を見た時何かが引っかかった。
そうーー誰かと重なるその表情、、、記憶を一つずつ辿っていく。
何かを思い出しそうになった時、、、横から声が掛かる。
「そうそうゆづ葉~。ごめんけど昼食の後職員室に呼ばれちゃってるから、少し離れる事になるの~。
だから教室で待っててくれる~?」
そう言われ記憶の波から浮上する。
夕子の方を向くと申し訳無さそうな顔をしている。
だが用事の方が優先に決まっている。
「うん、わかったよ。大丈夫ちゃんと大人しく教室に居るから。」
そう了承したものの、職員室に呼ばれた内容が少し気になった。
今までの傾向から考えると、、、ついジト目で夕子を見てしまう。
それに気付いた夕子は慌てて弁明する。
「いやっ、テストに赤点は無かったからね!!ゆづ葉にちゃんと見せたでしょ。
本っ当~に違うの!
成績についての呼び出しじゃないから~。」
確かに、今回は赤点もなく全教科平均点辺りにあったので安心はしていた。
だが大丈夫と分かってはいるものの不安になる。
「もう疑り深いな~、呼ばれたのは進路関係!」
そう言って膨れっ面になる夕子。
拗ねてしまった夕子の頭を撫でて、疑ったことを謝った。
「もう、いいよ~。
ってそれより、ゆづ葉は約束の三教科満点は達成したんでしょ?
いや、三教科と言わずヤバいくらい100が並んだテスト用紙の束見たけど。。
奴って、、、はじめさんのコトだよね、扱い悪いなぁ。
夕子に″ご褒美″について聞かれたが、会う機会が完全に閉ざされた状態の今では到底無理な事。
「まだ、何も言ってないよ。点数についてはもう分かってる事ではあるけど、
「あぁ、、まぁそうなるか~。
じゃあこれが終わったらた~っぷり″お願い″を聞いて貰いなよ~。
ーーー私の指導が入らない程度に、ね?」
そうニヤついた顔で揶揄ってきた夕子。
《あのにやけ顔、、、これは私が夕子を
と、その背後に周り腕を回す。
「じゃあそれまでは夕子が、、全身全霊で私の相手をしてくれるよね?
ーーー″天誅ー!″」
と腕に力を入れれば、「いやー!」と逃げようともがく素振りをしながらも、甘んじて受け入れていた。
《ふふっ可愛い。》
なんだか最近の鬱屈した気持ちが和らいだ気がする。
夕子はすごいな。
「「「「「はぁ~~。。」」」」」
そしてそんな私達のやり取りに周りからは大きなため息が漏れていた。
《あれ?えーと、何か不味かったかな、、なんかすいません。》
と心の中で謝っておいた。
お昼休みになり夕子は予告通り職員室へと向かった。
私はというと夕子に言った通り大人しく席に着き次の授業の予習をしていた。
それなりに時間が経ち、なかなか戻って来ない夕子を心配していた。
予鈴が鳴り、更に本鈴が鳴るその直前にやっと夕子が戻ってきた。
その顔色は若干悪い、ような、、、?
気になり授業中、夕子を見る。
先程までの顔色の悪さは無いが何か考えるように一点を見つめている。
職員室で何かあったのか?
聞きたいが今は授業中の為我慢するしかない。
もどかしく思いながら授業が終わるのを待った。そして終了のチャイムがなりすかさず夕子の元へ行く。
「夕子何かあったの?職員室へ行ってから様子がおかしいよ。」
そう直接的に聞けば、いつもと変わらない口調で
「う~ん?あぁ、なんか放課後また職員室に来る様に言われちゃってさ~。
ちょっと顔出してくるからゆづ葉は、、、いつもの花壇で待っててくれないかな~?」
そう答えた。
何か悪い話しなのかと問えば「そんなんじゃ無いんだけどね~」と言葉をを濁していた。
気にはなったが話したくないならこれ以上は聞いてはいけないと思い、問いただすのは控えた。
ただ僅かに苦しそうな表情が心に引っかかっていた。
そして放課後、夕子と別れ周りに注意しつつ校舎裏の花壇へ向かう。
ベンチに座り本を読んでいると足音が近づいて来た。
やけに早く終わったなと本から顔を上げればそこには夕子ではなく、笑顔のーーー金森先生が佇んでいた。
ベンチから立ち上がり警戒の体を取る。
するとそんな私に気にする事なく話しかけてきた。
「へぇ~、こんな場所あったなんて知らなかったなぁ。
ずっと本郷さんと話したかったんだけど、いつも足立さんだっけ?彼女が居たからさぁ、でもやっと一人になってくれたね。」
そう言いながら近づいて来たのでゆっくり距離を取る。
「ん?どうしたの?そんな怖い顔しちゃって。
本郷さんここにいる時は柔らかい表情してるじゃん。ーーー
その名前を口にすると同時にスマホ画面を向けらる。
そこには私と、、、はじめさんが映っていた。
そうあの時の、テスト最終日の光景が動画として収められていた。
頭が真っ白になり言葉が出てこない。
「ははっ、ビックリした??ドッキリ大成功だね。
いや~、あの時は良い物見せてもらったよ。
本郷さんと山田先生の逢引きってやつ?
ほらっ、綺麗に撮れてるだろ?」
どんどん音量を上げていき校舎に反響して音声が響渡る。
咄嗟にスマホに手を伸ばすとバッと隠された。
「っと、勝手に触らないでもらえるかな?
それにしてもこれは驚きだよね!野獣教師と美人優等生の秘められた愛!!
くぅー感動モノだね!
これは是非とも周りに知ってもらいたいストーリーじゃないか?ん?ん?」
煽るように語る金森先生はいつもの『みんに好かれる優しい先生』の顔ではなく、いつかのあのーーある人物と重なった。そう、あれは夏休みの動物園、、。
「ーーーあなた、リクさんですよね?」
自分でも驚く程低い声が出る。
「こっわーー!それが本性??見た目に騙されちゃイケナイネー。
くっくっくっ、ーーーでも大正解!!
いやー良く分かったね!俺、上手く化けてたと思うけどぉ?」
そう言うと横に流していた髪をくしゃっと乱雑に解き、笑顔の仮面を外した。
そしてあの日、夏の動物園で出会ったミカさんの元彼、リクさんがそこに現れたのだった。
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