第9話
玄関のドアを開けたらはじめ先生が居た。
《えっ?何で?はじめ先生が、、あれ?そういえばさっき夕子がそろそろ来るとか、、、えっ?えーー!!》
思っても無かった人物の登場でドアを開けたポーズのまま動けずに居た。
私が何も言わず固まっていると
「、、、体調は、大丈夫なのか?」
とはじめ先生が心配そうに声をかけてくれた。
何故居るかはとりあえず置いとくとして、面と向かって話しかけられるのが久しぶり過ぎてどうしたらいいか分からず私は俯いた。
そして先程の夕子との会話を急激に思い出し顔が暑くなったり血の気が引いたりと大混乱。
やっと絞り出した台詞が
「大丈夫、じゃ、無さそうです。。」
だけだった。
自分の気持ちを自覚してから間もないと言うのに、、気まず過ぎる。心の準備が全くといって良いほど整っていない。逃げたいけどここは私の家だし。。。とぐるぐる考えていると、はじめ先生の焦ったような声が聞こえてきた。
「本郷!大丈夫じゃ無いなら寝ていろ!まだ制服のままじゃ無いか!着替えられないほどなのか?
熱は?顔赤いぞ!いや青い?!それよりも来客あったからって病人が出てくるな!」
と先生が着ていた上着を私にぐるぐる巻いてきた。更には
「病院、いや!救急車!!177!!!!っっじゃなく117!」
と電話をしようとしている。
私並み、いやそれ以上にパニック状態であった。
人間自分より取り乱している人を見ると冷静になると言うが、確かにその通りかもしれない。
そんな様子のはじめ先生を見てふっと声が漏れてしまった。
「はじめ先生、117は時報で正解は119です。でも救急車は全く必要ではありません。
体調面での不調は主に睡眠不足ですから、救急の事案では有りません。
えーっと先生、あと来客が来ても出るなって、来客者自身がそれを言っちゃダメですよ。ならインターホン鳴らさずに電話を掛けてくれれば済むことなんですから。」
私がそう言うとハッとした顔をして自身のテンパり具合に気付いたようだ。そして申し訳無さ溢れる顔で
「いや、、その、うるさくして悪かった。早退したと聞いた後に渡された足立からの封筒の中を読んだら、その、本郷が大病だと書いてあったもんだからつい、、。だが、睡眠不足なだけ、、?」
まだ混乱している先生をとりあえずリビングに通しソファーに座って貰った。
お茶を用意している間に帰り際の事を思い出す。
そういえば夕子はクラスメイトに封筒を渡していた様な気がする。あれに何と書かれていたのだろう。
お茶を出しながら夕子の手紙の内容をはじめ先生に聞いてみる。すると読んで良いと言う事だろうか、夕子の手紙を開いて渡してくれた。
それには箇条書きで
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ゆづ葉は大病を患っている。
昨今の医学では治らない不治の病。
このまま笑顔が見られなくなる可能性有り。
ゆづ葉の為に自宅に来られたし。
来なければ来ないで良し。
足立夕子
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と簡潔に書かれていた。
夕子どっち?!?
来た方がいいの?来ない方がいいの?
ってか医学じゃ治らない大病って『あれ』だよね。。うわぁ、夕子さん色々察しててのこれですよね。。親友は全て分かってたようです。
しかしながらこの手紙は無しだと思う。
なのではじめ先生に大病を抱えていない事を説明した。
「これは夕子が私が元気無いのを心配して、えーと大袈裟に書いただけです。
大病ではないので死ぬ事は有りません。ご迷惑を掛けてすみません。、、、(医者に治せない不治の病は否定しないけど。。)」
流石に後半部分は恥ずかしい為先生に聞き取れない様に小声で言った。
大病について完全に否定すると先生は、はぁーー。と息を吐き「良かった。」と呟き膝に手を置き頭を下げ力を抜いていた。
申し訳ないなと思いつつはじめ先生を見る。
額に薄ら汗が浮かんでいる事に気づく。この手紙を読んで慌てて家に来てくれたのだと分かった。
『来なければ来ないで良し』ってあるのに、私を心配して来てくれた。それだけでここ数日間のドン底だった心がフワフワ浮上してきた。
それと同時に気持ちを吐露したい衝動に駆られた。
夕子が折角作ってくれた機会だ。それを無駄にしないようさっき気付いた自分の
はじめ先生には既に最愛の人がいるのであろう。だから今から伝えようとしている言葉、気持ちは迷惑の何物でもないだろう。
それでもこれだけは伝えたい。伝えないと前に進めない気がする。
ダメ元だ。後で夕子に慰めて貰えば良いさ!自分を鼓舞して言葉を紡ぐ。
先生の真正面に座り、目を逸らさず真っ直ぐ素直な自分の心を。。。
「はじめ先生、いえ、はじめさん!あなたが好きです。」
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