第2話
そうこうしているうちに、沙織が用意したギターとベースがステージに立ってしまった。
「ほら、早く行ってきなさい」
私を突き飛ばすようにステージに追いやった。その勢いのあまり、私は盛大に転んでしまう。ステージから見えた状態だったので、それを全生徒に目撃されてしまい、笑い声がポツポツと響いた。
(は、恥ずかしい。なんでこんな目に)
私は俯きながら、スタンドマイクの前に立った。意を決して前を見る。
(っ……!?)
全生徒が、私を見ていた。先ほどのバンドで昂っている生徒たちが、怪訝な表情で私を見ている。
視線をこんなにもはっきりと実感するとは思わなかった。チクリチクリと、針が刺さるかのように痛い。
私が一向にパフォーマンスをしないものだから、館内が静まり返っている。
とてつもない緊張感であった。呼吸すらできない。冷汗が噴き出る。心臓が激しく脈打つ。
(そうだ。きらきら星)
歌えと言われたのを、私はようやく思い出した。恐る恐るマイクに口を近づける。
「ぁっ……」
私のか細い声が、私だけに届いた。マイクのスイッチが入っていなかった。私は慌ててスイッチを入れる。
「っ……」
変な電源の入り方をしてしまったのか、マイクが盛大にハウリングした。聞き苦しい音が館内をつんざく。
(まずい。どうしよう)
私は周囲を見る。生徒たちは先ほどよりも訝し気に私を見ていた。どよめきがこちらにも聞こえてくる。
「さっさとやれよーっ!」
煽る者まで現れた。
なんて勝手な奴らだろう。そもそも、生徒が二人死んでいるのに、どうして楽しもうとしているのか。
私は生徒たちを見る。みんな狂っている。こんな奴らのために、私が身体を張って楽しませる必要があるのか。
なんで私はここに立っているのだろう。環奈が死んで、解放されると思ったのに。
いじめは一旦は止まった。しかし環奈が死んで少し日数が経った後に、沙織と取り巻きが私へのいじめを再開した。リーダー格の環奈が死んだことで、いじめはなくなると思ったのに。
じろりと、睨むように私は生徒たちを見る。
なんでこいつらは、助けてくれなかったのだろう。私がいじめられていることは、みんな知っていたくせに。
私に何もしてくれなかった癖に、私に楽しませろと要求してくる。
「早くしろよ!」
怒号が響く。なんて図々しい。本当にむかつく。
(全部ぶち壊しちゃおうかしら)
そんな悪魔の囁きが、心の奥底から聞こえてきた。
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