第一次大西洋海戦と第二次大西洋海戦
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──第一次大西洋海戦と第二次大西洋海戦
どちらが先に発砲したかは不明だが、少なくとも最初に損傷を受けたのが、合衆国海軍の重巡洋艦であることは分かっている。
合衆国海軍護衛艦隊はこの損傷に対し、一斉に砲撃。
この砲撃でキング・ジョージ5世が損傷を負う。
連合王国本国艦隊が何を考えたかは分からないが、この損傷ののちに戦艦2隻は海域を離脱し本国に戻った。
後は同じ戦力の殴り合いだった。
連合王国海軍本国艦隊の重巡洋艦2隻が合衆国海軍護衛艦隊の駆逐艦が放った魚雷を浴びて速力が低下する。
カウンターのように放たれた砲撃によって合衆国海軍護衛艦隊の駆逐艦2隻が上部構造を完全に吹き飛ばされる損害を負った。
両艦隊は距離を詰めていき、連合王国海軍本国艦隊の駆逐艦が一斉に雷撃を行う。
合衆国海軍の重巡洋艦1隻と駆逐艦1隻が被雷し、同時に輸送艦が3隻が被雷する。
それでも合衆国海軍は海軍国としての意地を見せ、輸送船団を逃がす引き換えに、全艦隊が連合王国海軍本国艦隊に向けて突撃した。
艦隊の殴り合いは6時間に及んで続き、最終的に連合王国海軍本国艦隊が重巡洋艦1隻と補助艦4隻を率いて海域を離脱した。
対する合衆国海軍護衛艦隊は大破した重巡洋艦1隻と駆逐艦2隻が残るのみだった。
合衆国海軍のこの宣戦布告なき攻撃に対する世論の熱気は盛り上がり、ついに合衆国議会と大統領は連合王国と帝国に対して宣戦布告した。
ついに合衆国が参戦したのだ。
合衆国はまずカナタ自治州の制圧作戦を開始。
太平洋、大西洋両方の港湾都市を装甲部隊を中核とした機動戦力で電撃的に奪取し、カナタ自治州を連合王国から切り離すと、残されたカナタ自治州軍と連合王国軍との本格的な交戦に突入した。
未だに歩兵のテンポでゆっくりと動くカナタ自治州軍と連合王国軍に対し、合衆国陸軍は共和国に劣らぬ機動戦を以てして包囲殲滅を行っていた。
カナタ自治州の州都トロントも陥落し、カナタ自治州軍は降伏。連合王国軍も本国からの増援が見込めないのにゲリラ戦に入り、合衆国による占領に抵抗した。
だが概ね当初の目的は果たされた。
合衆国はカナタ自治州の併合を宣言し、ゲリラ戦を繰り返す連合王国軍を兵糧攻めにして、寒さの迫る初冬の中、寒さで連合王国軍が降伏するのを待った。
連合王国軍は必死に戦ったが、包囲戦で重装備を喪失し、冬の寒さの中で耐えられないことが予想される中、降伏することを決定し、全軍が合衆国軍に投降し、武装解除され、収容所に収容された。
カナタ自治州での戦争が終わるといよいよ合衆国も本腰を入れて共和国救援に向けて動き始める。
大西洋艦隊には“
しかし、気を付けなければならないのは連合王国艦隊の思わぬ不意打ちだ。
共和国海軍が思っていた以上に対潜水艦作戦に力を入れていた合衆国艦隊は対潜迫撃砲という新兵器を導入していた。
爆雷はその威力のために後方にしか投射できない。
だが、対潜迫撃砲は前方や右舷、左舷に向けて自由に投射できる自由度を持っていた。これが連合王国海軍潜水艦艦隊にとっての脅威となる。
対潜迫撃砲の攻撃によって合衆国海軍大西洋艦隊は参戦開始日から7日間で4隻の連合王国海軍の潜水艦を仕留めた。
大西洋の航行の安全を目指して護衛船団が新型駆逐艦に守られて進み、商船改造の護衛空母が就役する。
連合王国海軍潜水艦隊の潜水艦乗りはこの程度のことではへこたれなかったものの、合衆国海軍大西洋艦隊の参戦によって植民地と切り離されたことで、深刻な石油不足に陥り始めていた。
それに拍車を掛けるかのように敷島皇国が参戦を表明。
彼らは電撃的な速度で東アジアの旧王国、連合王国の植民地に攻め入り、合衆国の支援を受けて連合王国オセアニア自治州を包囲する構えを見せた。
連合王国は太平洋に派遣していた空母2隻と戦艦2隻で応戦しようとしたが、空母のうち1隻はは出撃する前に潜水艦の雷撃を受けて浸水し、帰還。もう1隻の空母は合衆国の戦略爆撃機による低空水平爆撃によって同じく大破した。
戦艦2隻だけが出撃したものの、皇国はこの日のために刃を研いでいたようなものであり、大型空母2隻からの航空戦力による攻撃を受けて戦艦2隻は敢え無く沈没した。
エアカバーのない戦艦は戦闘行動中であろうと撃沈できるということを皇国は示し、急速に戦艦不要論が広まるのはのちの話。
合衆国は大西洋、太平洋の二正面作戦を強いられる結果となったが、幸いにして太平洋方面に関しては皇国が作戦を主導して行っている。
彼らの駆逐艦が帝国太平洋艦隊所属の潜水艦を駆逐するまではそう長くはかからず、皇国と合衆国の合同部隊がウラジヴァストークの包囲を完了するまでもそう時間はかからなかった。
だが、戦いの焦点は今は東アジアではなかった。
今は東大陸戦線──特に連合王国上陸作戦の可否が問われていた。
連合王国上陸作戦に向けての準備は着々と進んでいた。
共和国軍が一時的に軍政下においている旧王国領港湾都市ブレストには合衆国の輸送船が次々に入港する。
合衆国海軍も連合王国海軍本国艦隊に対し、共和国海軍北海艦隊と連携して乾坤一擲の大勝負に出ようとしていた。
既に連合王国空軍は見る影もなく、戦略爆撃機によって踏み荒らされた彼らの大地には戦闘機はもはやほんの僅かにしか残っていなかった。
燃料の備蓄も怪しくなり始め、艦隊に燃料を回すべきか、航空機に燃料を回すべきかで揉め事が起きる。
そんな中、合衆国大西洋艦隊が戦艦12隻と大型空母3隻、中型空母6隻を伴って大西洋に進出した。
護衛駆逐艦に守られた艦隊は真っすぐ連合王国海軍本国艦隊の母港を目指しているのが潜水艦によって打電された。
連合王国海軍本国艦隊はこれを迎撃せんと出撃。
奇しくも艦載機の運用に適さぬ荒れた天候の中、連合王国海軍本国艦隊は合衆国海軍大西洋艦隊との決戦に臨んだ。
合衆国海軍大西洋個艦隊の35.6センチ砲艦9隻と新造の41センチ砲艦3隻を含めた艦隊は連合王国海軍本国艦隊5.6センチ砲艦6隻と41センチ砲艦3隻との艦隊決戦に挑んだ。
初弾を命中させたのは合衆国海軍で、戦艦キング・ジョージ5世の第1砲塔を戦闘不応に追い込んだ。
だが、行き勇んで出撃した連合王国海軍本国艦隊だったものの、戦艦が3隻大破し、キング・ジョージ5世が完全な戦闘不能に追い込まれると、踵を返して母港に戻り始めた。
それを追撃しようとした合衆国海軍大西洋艦隊だったが、彼らは天候の回復を待って艦載機で攻撃を仕掛けるつもりだった。
だが、その前に共和国海軍北海艦隊が動いた。
今なら艦隊決戦において有利な状況となると踏んだ共和国海軍北海艦隊は旗艦『フォン・モルトケ』をを先頭に本国艦隊が母港に逃げ戻ろうとするところを襲撃した。
のちの戦史研究家に『戦艦の最後の活躍』と呼ばれる北海海戦の発生である。
共和国海軍北海艦隊旗艦『フォン・モルトケ』は46センチ砲という強力な砲を備えた世界で唯一の戦艦だ。
皇国海軍でも同様の計画はあったが、空母のリソースの方に回されてしまい、実現できなかった脅威の威力を持つ戦艦だ。
それが連合王国海軍本国艦隊に殴りかかった。
「これが共和国の未来を決める海戦だ」
「そうですな。フェルディナント・フォン・ホルツェンドルフ提督」
「まさか私もこういう時が来るとは思わなかったがな……」
北海艦隊旗艦『フォン・モルトケ』にて参謀と北海艦隊長官ホルツェンドルフ上級大将が言葉を交わす。
北海艦隊は連合王国海軍本国艦隊に側面を向け、全火力を敵に狙いを定めて放てるように機動する。
46センチ連装砲がゆっくりと鎌首をもたげ、敵に狙いを定めた。
ブザーが鳴り響き、防護されていない対空機銃などにいる乗員が艦内に退避する。
46センチ砲の砲撃の衝撃は凄まじく、防護された場所にいないと衝撃だけで人体に影響が及ぶ。
「敵艦隊、射程内です」
「よろしい。撃ち方始め」
「撃ち方始め!」
そして、46センチ連装砲が巨砲から砲弾を放った。
前大戦でのユトランド海戦の経験を踏まえて、水平防御も強化してきた連合王国海軍だったが、46センチ砲の前に等しく無力であった。
「プリンス・オブ・ウェールズに命中弾! ああ! なんてことだ! プリンス・オブ・ウェールズ大破!」
「神様よ……」
「ああ……。デューク・オブ・ヨーク轟沈です……」
砲弾は水平防御を食い破り、弾薬庫を引火させる。砲塔が火を噴いて吹き飛び、艦橋がなくなり、機関室が浸水を起こして速力が落ち、操舵不能に陥り、思い出したように副砲が吹き飛ぶ。
「流石は共和国、いや世界最強の戦艦ですな」
「この悪天候だからこその戦艦だ。空軍も空母の航空屋もこういう時には仕事はできまい。さあ、諸君。連合王国艦隊を鏖殺しろ」
「了解、長官」
ホルツェンドルフ上級大将と航空兵の仲が悪いのはもはや誰もが知っていた。
ホルツェンドルフ上級大将は根っからの大艦巨砲主義者で、共和国海軍は沿岸を守るのみなのだから、共和国空軍のエアカバーがあれば戦艦さえ作っていてもそれで十分と言っていたのだ。
だが、共和国海軍は急速に外洋艦隊に舵を切り始めていることを誰もが感じ始めていた。この『フォン・モルトケ』級戦艦にしたところで航続距離はかなりの長さなのだ。
だが、今は空軍も海軍航空隊も悪天候のために出撃できない。
悪天候の中、46センチ砲の圧倒的アウトレンジからの砲撃によって1隻、また1隻と連合王国海軍本国艦隊の戦艦が沈んでいく。
まさにそれは一方的な虐殺であった。
共和国海軍北海艦隊にとって優良な天気である曇天が晴れたとき連合王国海軍本国艦隊は自分たちの空母艦載機が支援しに来てくれることを祈った。
だが、やってきたのは合衆国海軍大西洋艦隊の空母艦載機であった。
「編隊長。大物は共和国海軍が食っちまったらしい」
『残り物で我慢しておくさ。バルバロイ・リードから全機、順次急降下し爆撃せよ』
「了解」
既に航空優勢を喪失していた連合王国海軍本国艦隊は合衆国海軍大西洋艦隊の猛攻撃を受けて相次いで艦を失い、壊滅に至った。
後世で業務に当たったサルベージ会社は連合王国海軍の戦艦のほとんどは『フォン・モルトケ』と『フォン・ビスマルク』が放った46センチ砲によって撃沈されていることを確かめたという。
こうして制海権を手にした合衆国海軍と共和国海軍はいよいよ連合王国本土上陸作戦に向けて駒を進めることになる。
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