第2話

 深夜、死にかけの街灯がチカチカと点滅している。車はほとんど通らない。

「久しぶりの雨だな。俺にとっても、水姫にとっても嬉しいことだ」

「全く、本当」

 彼は水姫の父親だ。名前は、竜光という。だが、身長は水姫とはけた違いだ。体はヘビのように長く、肌は鱗に覆われている。馬のようなたてがみが生え、鋭い牙が生えている。そして、彼は神だ。

「ほら、乗れ。今からやるぞ」

「でも、私はまだいいとは言っていない」

「父親に従うのだ」

 竜光は青い鱗の背中に水姫を乗せた。


 ――青龍が飛んでいる。

 砂生が大空を悠々と飛ぶ龍を目撃したのは深夜二時頃だった。銀色の腹を見せて、青龍はどんどん空へ上がってく。

 ――もしや、水姫もいるんじゃないのか。

 あり得るかと思ったが、ありえないだろう。

 ――だが、水姫が今、いないのは確かだ。

 水姫がいないから、俺は飛び起きた。それで、青龍を見た。深夜だから、あまり車は通らないがごくたまに通る車も何も気にしていないようだ。そりゃあ、人間に妖怪が見えないのは当然のことだが。


 すぐに、大雨が降り始めた。青龍は水の神だから、当然だ。水姫と何か関係はあるのだろうか?

 すぐ近くに川があるが、氾濫しないかが心配でたまらなかった。

「・・・・・くそっ、水姫——」

 どうする、川を見に行くか。それとも、家にいるか。安全性を考えるとどっちも安全で、どっちも危険だった。

 川を見に行くときに、何かが起こって自分の体が溶けないとは限らない。

 だが、家にいると氾濫した時に一気に逝ってしまう。

「どうする・・・・・! 水姫・・・・・どうにかしてくれ」

 行くか、行かないか。そんなことはどっちでもよかったが、万が一がある。


 ――砂生は万が一の可能性は少ないのではないか、と思い家に残ることを決意した。


 水姫は龍神、竜光の背中の上で自分と砂生の家をじっと見つめていた。

「だから、あの砂生とかいうやつの何がいいんだ。瑞也みずや君の方が良かっただろう」

 瑞也とは、海にいたころの恋人だ。結局、砂生に惹かれてさよならも言わないまま別れたのだが。

「でも、彼は心遣いが良くて、面白くて・・・・・なんか惹かれるところがあるの」

「大丈夫か。はっきり言って、水と砂の相性が良くないことは水姫、お前も知っているだろう」

「知ってるっちゃぁ知ってるけど、そんなの関係ないじゃない。そんなの私の自由でしょう」

「珍しいな、お前がそんなに喋るなんて」

 確かに、無口な自分がこんなに喋るのはあまりないかもしれない。それほど砂生を愛しているということなのだろうか。それともどうだろう。


「もういいだろう、だって、会いに来てくれているのだから」

「え?誰が?」

 竜光の謎の言動に水姫は不信感を抱く。

「瑞也君がだよ」

「へ?」

 瑞也がここにいるって?でも、どこにもいないじゃないか。と、思うと竜光の鱗から大量の水が上がってきた。

「何々なに」

 そして、その水は形を成していく。

「ハロー」

 その水は魚の形になっていき、喋った。

 ちなみに、水姫ら水の妖怪は、パワーを使うと人間や魚、龍の姿になることができるのだ。

「久しぶりじゃないか、水姫。僕はまだ君のこと探していた。まあ、君が元気で何よりだよ」

「ええ」

「やっぱり、僕は君が良かった。君はどうだい?」

「ええ・・・・・瑞也君かな・・・・・?」

 元々の恋人の問いについついそう答えてしまった。

「よし、じゃあ決まりだ」

 瑞也はショータイムと言わんばかりに指パッチンをした。


 ――竜光は大量の雨を降らせ始めた。

 ――砂生と水姫の家は流されていった。

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