不幸はこの順番でやって来る
ゲーム全体の仕組みはまだちゃんと理解してはいないけど、とりあえず増築に必要な5木材と2葦を集めることを目標に動いてみた。2木3木を伐採して、木材は調達完了。葦飯に2回通い、ひとまず2葦と最初の収穫の分のご飯も確保。2ラウンド目で早くも最初に立てた目標は達成された。あれ? なんかあっさり過ぎない?
石積君は手札からなんかよくわからないカードを出して並べてるし、甘菜ちゃんは木とか葦なんてそっちのけで畑を耕したり小麦の種を取ったりしてる。なんだか二人とも、全然私の参考にならない動きをしてるなぁ。この後どうすりゃいいんだろ。
「石積君がさっき出したこのカード何? どんな効果あるの?」
「あ、これは『芝結び』。増築や改築のときに葦の代わりに木を使える効果だね」
何それずっる。しかもよく読んだら、増築のときは葦2の代わりに木1で良いとか書いてあるんですけど。で、石積君の手元をよく見たら、もう6木材集まってるし。うーん、石積君もう増築できちゃうのか。あとでいいやと思ってたけど、今増築しておこう。
で、次のラウンドのことなんですけど。なんで葦が4つも溜まってんの。
「なんで葦が4つも溜まってんの」
うっかり、考えてることをそのまま口にしてしまった。
「いやー、珍しいね。こんなことってなかなかないよ」
「うう……欲しいけど、欲しいけど、私は小麦に行かなきゃなんだよぉ……」
石積君は葦の代わりに木が使えるからいらないし、甘菜ちゃんは独自路線を行ってるから、葦はボウボウ伸び放題ということらしい。うっかりこの4葦取っちゃったけど、これの使い道どうしよう……考えさせられる葦だね。なんか似たような言葉があったような気がするんだけど、なんだったっけ?
「収穫の時間でーす。皆さん4飯はお持ちですか? ご飯の足りない人はいませんね? ……私は1飯足りないので、収穫した小麦を生食いします……」
甘菜ちゃん、落ち込んでるようなフリしてるけど、これ絶対わざとやってるよね。私はアグリコラのことはよくわからないけれど、バドミントンの強い選手はスタンスに入ったときになんとなくそれとわかるように、甘菜ちゃんのこれまでの動き方も、何回も反復練習を繰り返したそれのように洗練されたものを感じた。だって、ほとんどノータイムで打ってたし。
きっと甘菜ちゃんもアグリコラが好きで好きで、何回も何回も試行錯誤した末に、やっと辿り着いた動きなんだろう。
……いいな、甘菜ちゃん。打ち込めるものがあって。
5ラウンド目。増員来い増員来い増員来い! そのためにさっきスタプレ取ったんだから! ……残念。えーと、これ改築? どうしよう……6木材とかあるけど、それ取ってたら石積君にスタプレ取られて先に増員されちゃうよね。うーん、仕方ない。スタプ連打するか。
もう一手は、私も何か職業カードを出してみようかなと思ったので、『養父母』とやらを出してみた。普通は増えた直後のワーカーは動けないんだけど、このカードを出しておけば、1飯を払ったら養子がすぐに働いてくれるらしい。なんか、こう……世知辛い世の中だね……。
6ラウンド目。石の累積スペース。増員が出なーい! もうここまで来たら後に引けないし、スタプレ取っちゃるわー! 出すカードは、持て余してる葦を払って『投げ縄』! 効果とかどうでもいいけど!
……って、あれ? 次のラウンドって、もう収穫? 飯まずくない? いや味がまずいって意味ではもちろんなくてね。
えーと、今1飯あるけど、これは養父母の効果で消えちゃうから……あ、羊さんが3匹溜まってる。羊さんて、大進歩の『かまど』か『調理場』があれば食べられるんだっけ。そうだ! 次のラウンドは養父母の効果で3回動けるから、増員した後に手持ちのレンガで大進歩のかまどを取って、溜まった羊さんを焼いちゃえばいいんじゃない? 羊さんは1匹2飯だから、次のラウンドには8飯分。甘菜ちゃんは小麦を焼いてるパン屋さんだし、石積君は増築したら空から飯が降ってくる怪しいカードとか、部屋があるのに子供がいなかったら何かが降って来る怪しいカードとかで食い繋いでるから、邪魔してこないでしょ。よしこれで行こう!
7ラウンド目。ふー、やっと増員出来た。1飯払って、養子には馬車馬のように働いてもらおう。
「じゃ、スタプレ取りまーす。出す小進歩は『寝室』! 増員のアクションスペースが占有されてても増員できまーす」
「へー。じゃあ甘菜ちゃんもこのラウンド増員できるんだ。って、なんかいかがわしいカードだね……」
「いかがわしいとか言わないでくださいよ!」
「うーん、やっぱり寝室持ってたか……仕方ないなー」
え? ちょっと待ってください、石積先生。その手に掴んでいるワーカーを、いったいどちらへ置こうとしていらっしゃるのかしら?
「大進歩で、あえて小進歩の『深い森』を出すよ。出せる条件は手元に5レンガ以上で、ちゃんと5レンガあるから。効果は、この先の偶数ラウンドで木が降って来る」
いや、条件とか効果は私にはどうでもいいんですけど。先生、質問が。
「あの……訊きたいんだけど」
「何、織木さん」
「大進歩がふさがってたら、そこ以外にかまどを取れるところって、ある……?」
「改築できれば、取れるけど……織木さん、3レンガしか持ってないから、資材足りないね……」
事態を察したのか。いや、おそらく初心者の私なんかよりもずっと早く事態を察知していた甘菜ちゃんが、口を挟んできた。
「お兄ちゃん、酷くない……? 織木さん、アグリコラ今日初めてなんだよ……?」
「でも僕、この後改築する予定だし、そこでレンガ使っちゃったらもう深い森出せなくなるし……」
「深い森なんて、そこまでして出すカードじゃないでしょ!? 今出したって、たかが8、10、12、14ラウンドの4木材……4木材……うーん、4木材……4木材、かぁ……」
お願い、甘菜ちゃん。私のハートと4木材を天秤にかけて、悩まないで。
「あの……私、たぶんご飯足りないと思うんだけど、あと2手で、物乞いを回避する方法ってある……?」
「えーと……漁に3飯と、日雇いの2飯で……織木さんは6飯必要だから……足りないね……」
「……そう……」
仕方なく漁に養子を送り出したときの私の目からは、たぶん光が消えていたと思う。
「私は、寝室の効果で増員します……織木さん、お邪魔します……」
「いいよいいよ、甘菜ちゃん。怖がらないで、お入り」
「あ、ついでに『パン焼き棒』出しておきますね。効果で1飯もらいます」
「僕は改築で。3レンガと1木払って、あと2レンガも払ってかまど取るよ」
あまり想像したくないんだけど……かまど取られたってことは、次のラウンド、溜まった羊さんも石積君にドナドナされるよね……?
もしかして石積君、私のこと好きでもなんでもないんじゃない……?
「酷いよ、お兄ちゃん……いくらなんでも、ここまでするなんてドン引きだよ……」
「あ、あと、『解体ハンマー』の効果で
「そういえばそんなの出してたね」
ひもじい。寒い。もう死にたい。不幸はこの順番でやって来るって、古いマンガにそんなセリフがあったような気がするよ。私はそんなことを考えながら、日雇いのアクションスペースに最後のワーカーを置いて、2飯を受け取った。
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