9日目① 嫌われてるとかどーでもいいよ

「あれ、そういえば今日花守いなくね?」


「いおりん今頃気付いたでござるか?今日ずっと、花守氏が学校を休んだのが珍しいって話題がクラスのトレンドでありましたのに」


「……全然気付かなかった」


 そういえばいつもより朝が騒がしかったような覚えがあるけど、朝は眠すぎて気にも止めてなかった。


 なるほど、いなかったから花守の席が気にならなかったのか、今日は。


「風邪ですかな。最近いろいろと厄介なのが流行ってるので、我々も気を付けないといけないですな〜」


「ですなー」


 奏の適当トークを適当に流しつつ、スマホのRINEを起動する。花守からメッセージは届いていない。

 もし風邪を引いていて今も寝ているなら自然なことだけど、花守ならどんなに体調が悪くても、意地でもデイリーを遂行する気がする。花守はそういうところ、変に頑固なイメージがある。


 『元気があったら連絡ぷりーず』と、例によってあたうさの適当なスタンプを送り、アプリを落とす。


 まあ、放課後になっても無反応だったら一回通話してみるか。


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、どこかざわつく心を、スマホとともにバッグへしまった。





「花守さんのプリント、家まで誰か送り届けた方がいいんじゃね?明日から休日だし、困るっしょ」


「でも花守様の住所わたし知らないし、重要そうなやつだけRINEで送るでも良さそうじゃない?」


「じゃあオレ行くわ!女神様の家上がりたいって前から思ってたし!!プリント家まで持ってってそのまま流れであんなことやこんなことをぶぎゃべっ!?」


 放課後になって、いつも花守を囲んで昼飯を食べているグループの話す声が聞こえてくる。

 ロクでもないことを口走った男子がタコ殴りにされてるのを眺めながら、RINEを起動した。


 返信はない。


 バッグを背負って立ち上がり、真っ直ぐ花守の席へと近付く。


「どけよ。プリント、私が持ってくから」


 一言で、花守の席に集まって騒いでいたやつらが一斉に視線を向けてくる。

 しかし特に抗議の声もなくそれぞれ目を見合わせて、言われた通り花守の席から離れていく。


 いきなり割り込んで崩れた空気も気にせず、花守の席の上にまとめられていたプリントをバッグに入れていたら。


「有馬さん、不良は卒業してストーカーになったんだ」


「……は?」


 見れば、一昨日もさり気なくウザかったアオキだった。


 睨みつけると、アオキはヘラヘラした笑みを浮かべながら敵意はないとばかりに両手を揺らす。


「あ、ごめんね。別に怒らせたいわけじゃないんだけどさー、なんか最近花守さんに付き纏ってるじゃん?だからキャラ変しちゃったのかなーって、素直に疑問?みたいな?ほら、花守さん困ってる感じだったし、ね?みんなもそう思わない?」


 アオキは花守グループたちに目配せして、『自分の方が正しい票』を募る。取り巻きたちは私の顔色を見て躊躇いながらも、周りに合わせて頷いて、賛同を獲得したアオキは強気な視線を向けてくる。


「で、なにが言いたいんだよ」


「え。わざわざ言わないようにしてあげたのに、言わないとわかんないか。それ、やめた方がいいんじゃない?って思ってさ。しつこくしてたら、余計に嫌われちゃうよ?花守さんに」


 口では『怒らせたいわけじゃない』とか言って、そのつもりしかないだろ、こいつ。


 でも、他のやつらよりかは花守のことわかってそうだな。ちゃんと花守が私のことが嫌いだって気付いてるし。


「それとも、嫌われ慣れちゃって気付いてない?だったらアドバイスだけどさ、有馬さん、花守さんに嫌われてると思うよ?昨日も有馬さんの話題出したら気不味そうにしてたし」


 そう私を煽りながら、アオキはちらりと黒板の方へ視線を向けた。その先には、まだ教壇で作業をしている先生の姿。


 あぁ。なんとなく、こいつの思惑がわかった。


 要は私を怒らせて、敵に仕立て上げたいんだな。理由は大方、花守グループと仲間意識を築くため、花守にとって邪魔な私を退けて借りを作るため、花守により近付くため、とかか。


 万が一危害を加えられそうになってもいいよう先生という保険までかけて、周到なことで。


 強気なようで、その実私を恐れて逸らしたそうなアオキの目に、思わず笑いそうになる。


「嫌われてるとかどーでもいいよ。プリント持ってくのもついでだし」


 バッグのファスナーを閉じながら応えると、アオキはここぞと言わんばかりに口角を上げた。


「今『ついで』って言ったけど、なんのついで?昨日イノウエさんとかと話してたんだけど、もしかして、もしかしてだから怒らないで欲しいんだけどさ。有馬さん、花守さんの弱みにつけこんで強請ったりしてるんじゃないかなー…って」


 アオキはさっきよりも私の方へ一歩近付き、私の耳元で、周りに聞こえないような小声で煽ってくる。


 大体合ってるな。

 でも言い方的に、鋭いだけで私と花守の本当の関係は知らなさそうだ。


「あれ、黙っちゃった。あのさ、有馬さんってさ、小学生の頃からそうだったけど、やめた方がいいと思うよ?カッコつけてるのかわからないけど、平気で暴言吐いたり、空気読めなかったり、そういうの」


 花守との関係、奏には言うつもりだけど、こいつに言うのはなんか嫌だな。

 でも、「お前には関係ないから」って逃げるのはもっと嫌だ。


「大人になった時絶対困ると思うから、今の内に直しといた方がいいと思うなー。協調性とか自制心とか、あるじゃん?ないと浮いちゃうよ?あ、ごめん。もう浮いてるよね」


 だったら、花守とのデイリー以外に私が花守に会うための理由を、今考えないといけない。


「え、もしかしてホントに花守さんのこと強請ってるの?不良だから感覚わかんないのかもしれないから言っとくけど、普通にヤバいことだからやめた方がいいと思うなー」


「………うるせーな」


 思い切り睨みつけるとアオキはびくりと一歩後退るが、後ろに味方が多いからか強気な視線を返してくる。


「そういう風に睨むのもやめた方がいいと思うよ?有馬さんのこと知らない人からしたら、怒ってると思われちゃうし。あ、それとももしかして、ホントに怒っちゃった?」


 アオキこいつ、ホントに私のことが嫌いなんだろうな。


 人に嫌われ慣れてるからわかるけど、他のやつらより段ちで嫌いオーラ出てるし。それこそ花守くらい………あれ。そもそもなんで自分のことをあんな嫌ってるやつのとこにわざわざプリントを持ってこうとしてんだっけ、私は。


 アオキのことを改めてよく見てみるが、別にこいつのことは嫌いじゃないけど、こいつが休んで私がこいつにどんな用事があったとしても、わざわざプリントを届ける気は微塵も起きない。当然だ。花守と違ってこいつに興味がないから。


 興味があるから、私は花守のことが知りたい。


 知って、私はどうしたい。


「とにかくさ、プリントはわたしが届けるから、早くバッグから出して―――」


「友達になるついでだよ」


「――――は?……なんて?」


「だから、花守と友達になるついでにプリントを持ってくんだよ」


 バッグを肩に掛け直して、体の向きを教室の出入り口の方へ向ける。


「ハハ。えーと、ごめんね。何の冗談?だって有馬さん、花守さんに嫌われてるってわかってるんだよね?なのに友達になりたいとかさ」


「さっきも言ったけど、どーでもいいんだよ、嫌われてることくらい。嫌われてるイコール何もしない理由にはならないだろ」


「だからさ、そういう無神経で空気読まない所直した方が―――」


「大体、私は花守から嫌われてるかもしんないけど、お前とよりかは仲良いよ、あいつと」


「………何言ってるか全然意味わかんないんだけど。じゃあもういいよ、勝手にプリント持っていけばいいんじゃない?それで後悔すればいいよ」


「あーそう。わざわざどーも」


 ようやく私を怒らせることを諦めてくれたアオキの方を向けば、心底不気味そうな顔をしたアオキが私を見ていた。

 そんなアオキに吹き出しそうになりながら教室を出て、靴箱で履き替えながら、思い切り溜め息を吐いた。


「あーーー……ガチでウザかった」


 でも、感謝しないとな。

 おかげで私が花守とどうなりたいのか、一つの答えが出た。

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