7日目① どうしたの、じゃねーだろ

『昼食を食べたら、前に使ったこの階の空き教室に来て』


「ん」


 珍しく裕実が作ってくれたお弁当のウィンナーを食べていたら、花守からRINEのメッセージが来た。


「誰から?」


「んー?誰かから」


 目ざとく聞いてくる奏を軽く流しつつ、『OK!』とかわいく叫んでるあたうさスタンプを送信する。


 多分、昨日私がデイリーのこと忘れてぐーたら寝てたせいで真夜中に集まる羽目になったから、その教訓を活かして予め釘を刺しに来たんだと思われる。


 チラリと教室の左側を見れば、何人かのグループで机をくっつけて、喋りながら昼ごはんを食べている花守の姿。こちらに視線を向ける様子はない。


「おぉーっと。ちょっと野暮用が入ったので失礼するでござる」


 卵焼きを食べながら花守をボーっと見ていたら、ずっと熱心にスマホをさわっていた奏が突然立ち上がる。席を見れば、まだ食べかけのおにぎりが残っている。


「食いかけだけど。友達?」


「とっぷしーくれっとでござる」


 人差し指を口元に添えて、5点くらいの発音でドヤる奏。相変わらず腹立つなこいつ。


「どーせ取引相手だろ。情報売買の」


「はてさてなんのことやら」


 目を泳がせながら、わかりやすくとぼけた顔をする奏。


「前に高額でガセふきこんで刺されかけたのに懲りないよな〜、お前」


「そ、そんなことありましたかな〜?そ、それより人を待たせてるので早く行かなくては〜!」


 都合が悪くなったらしい奏は棒読みでそう言いながら、そそくさと逃げるように教室から出ていった。


 たまに奏は情報を売ったり買ったりするため、急にいなくなることがある。


 ここで言う情報というのは、普段奏が私に言うようなクソの役にも立たない情報ではなくて、取引相手Xにとって有益な情報のこと。


 わざわざスマホで連絡を取ってる上に急を要する場合、金銭絡みな上に高額取引である可能性が高い。


 そういう時の奏は割とちゃんと下調べをして情報を提供してるっぽいが、前にそれでガセ掴ませてガチギレした女子にコンパス片手に追いかけ回されていた。

 その時は何とか表沙汰にもならずどうにかなったっぽいけど、よく懲りずにやるよなーと思う。


 なんて呆れながらに感心していたら、いつの間にか弁当箱が空になっていた。


 「ごちそうさま」と心の中で呟いて弁当箱を包みで結び、花守の方をちらりと見やる。


「花守さんって、めっちゃ勉強できるのに運動神経までいいのヤバイよね〜!」


「そうそう!この前のバレーとか、普通に経験者と速攻とかやっててマジビビったんだけど!わたし中学までバレーやってたけど、いきなりとか無理だし!」


「いえ、あれは一緒のチームの経験者だったササキさんのセットが素晴らしかっただけで、すごいのはササキさんの方です。それより、イノウエさんの守備が上手くて助けられました。ありがとうございます」


「………女神様…っ!」


 いつも通りの光景だ。


 そういや昨日、バレーの授業で花守無双してたな。

 ほとんどやったことないはずなのにスパイクとかレシーブとか完璧にやってて、体育の先生兼バレー部の顧問にめっちゃ勧誘されてたし。


「あ、花守さん!さっきの数学で全然わかんないとこあってさー!教えて!!」


「もちろん、私に教えられる範囲なら」


 横から昼食を食べていたメンバーとは違うクラスメイトが入ってきて、花守は快く受け入れる言葉を返すが、その時、一瞬だけ目が合う。


 いつも通り、私を見る時だけ不機嫌そうな顔をしてるのは変わらないが、どこか苦しそうな、何か縋るような、よくわからない表情をしていた。


 目が合ったのは一瞬だけですぐに逸らされたが、私は突き動かされるように立ち上がっていた。


 花守の弁当はもう既に空っぽで、食べ終わったら空き教室に来るよう言ってきたのは向こうの方だ。あの様子だと放置してたら解放されるまで時間掛かりそうだし、向こうから先に約束を持ちかけて来たんだから、私を優先すべきだ。


「おい、花守」


 花守の席に近付いて少し声を張って話し掛ければ、花守だけじゃなくその周りにいたクラスメイトも反応して驚きに目を見開く。


「ど、どうしたのかしら?有馬さん」


「どうしたの、じゃねーだろ。早く来い」


 取り巻きたちがざわざわと小声で騒ぎ始める。


 まあ、仲良しグループの優等生に単身、全く関わりなかったはずのクラスのはぐれ者がいきなり声を掛ければそうもなるか。

 このグループには何人か小、中学で一緒だったやつがいるけど、その時の私めちゃくちゃ荒れてて嫌われ者だったから、多分私にいい印象はないと思うし。


「え、えっと、ごめんなさい、アオキさん。実は先約があって、用事が終わってからでも大丈夫でしょうか?」


「あ、えっと、うん!先約あったならしょうがないし!」


「ありがとう。時間がなくなってしまったら放課後か、無理そうなら時間がある時にでもまた必ず教えますね」


 花守はクラスメイトに完璧な対応をしてから立ち上がる。その際、アオキが小声で「花守さん、あいつ不良だからあんま関わらない方がいいよ」と花守に耳打ちをしてるのが聞こえた。

 反射的に睨みつけると、アオキは不機嫌そうな表情を浮かべて顔を背けた。


「それじゃあ有馬さん、早く行きましょうか」


 『早く』を強調しながら、怒ってるのを少しも隠す気のない笑顔を顔面に貼り付けてそう言った。


「ん。早く、な」


 ざわつくクラスメイトたちを置いて、私と花守は約束の空き教室へと向かった。

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