6-9


 僕は空中にヒラヒラする号外をつかもうと手を伸ばした。


 しかし、飛行機は次々に発射はっしゃされる黒い球を避けるために右へ行ったり、左へ行ったりして、僕は一枚も号外をすくえなかった。


 運転手のソックスは、大粒おおつぶあせきながら黒い球から逃れるのに必死ひっしで、号外を追って欲しいとは言えない状況じょうきょうだった。


 その時。

 バコォオン! という音と共に、飛行機の右側面みぎそくめんが打たれて大揺れを起こした。


「にゃああ!」

「うわああ!」


 視界がガクン、と90度変わって、僕らは一気に地面へ急落下する。


「そ、ソックス、ソックス、ソックスー!!」


 僕は手すりに捕まって、親友の名前を連呼れんこした。この手を離したら、兵隊さんのうずさかさまだ。

 しかし、まだ親友はあきらめていなかった。

 ハンドルを引っ張り、上昇させようと必死だった。


「くそっ! 戻れ、戻れ、戻れ!!」


 また飛行機が大揺れした。


 今度は僕の真後ろの飛行機の尻尾部分しっぽぶぶんが打たれた。

 黒い球は落下する僕らを容赦ようしゃなくねらい、とどめをそうとする。


「頼む、動け、動いてくれ! ジーニアスソックス号!!」


「動いてぇー!! ソックスのジーチャン号!!」


 奇跡きせきは起こる。


 黒い球が打たれたのと同時に、飛行機は90度に折れて、そのまま真っすぐ加速かそくしたのだ。


「おおおおおおっ!!」

奇跡きせきにゃああ!!」


 でも、飛行機の高度こうどはどんどんと低くなり、僕らは兵隊さん達の頭上ずじょうギリギリを飛んでいた。

 しかし結果としてこれがラッキーで。

 僕らが低くなりすぎて、黒い球が打てなくなってしまったのだ。


 超低空飛行ちょうていくうひこうする僕らは兵隊さん達をき分ける様に進み――やがて、国王様が居ると思われる、大きな神輿みこしの数十メートル前で飛行機は地に着いた。




 不時着ふじちゃくした僕らは、すぐに兵隊さんにつかまった。

 両手を捕まれて、身動きが取れなくなる。


 そこへ、天蓋てんがいが掛かった神輿みこしがこちらへとユラユラとやって来た。


 神輿みこしの赤い天蓋てんがいがすすすっと開き、真白の毛並に青い目をした小柄のおじさん猫が現れた。立派な赤いマントに、立派な勲章くんしょうや宝石を身に着けて、頭には立派な金の王冠おうかんが乗っていた。


 国王様だ!

 国王様は僕とソックスを見下して、すごーくいや~な目をした。

 王様のとなりに居る、キラキラ光る赤いジャケットを着たおじさんが、咳払いをすると、はてな語をしゃべった。


「アタシ、大臣。コイツ、王様ヨ。オメーラ、姫、どこ?」


「コマリはとかい島には、帰らないにゃ!!」


 僕がそう言うと、大臣はビックリして、隣に居る王様にコショコショと通訳つうやくした。すると、王様の顔が見る見ると赤くなる。


「✕✕✕!!」


「オメーラ、ワルイ、ネコ。ハヤク、姫、ダサナイト、ヒドイ、コト、シチャウヨ!!」


「悪いのはどっちだ!! コマリが嫌がる事ばっかりして!!」


 大臣はまたまたビックリしたが、今度は王様に通訳つうやくしなかった。

 通訳せずに、大臣の意見を言った。


「デモネ、姫、イナイト、ゴミ、フエテ、ミンナ、ノド、イタイヨ。ビョウキ、ナルヨ」


「なんでよ!! ゴミが原因なら、みんなで拾えば良いじゃんか! みんなで川の掃除そうじすればいいじゃんか!! みんなでやれば、全部解決するよ!!」


「それだけの文明と知識があるならば、汚染おせんを出さずに製品を作る技術も出来るんじゃないの? その努力義務どりょくぎむおこたって、何のつみもない一匹の女の子に責任せきにんを押し付けるって、ひどすぎない?」


「ウッサイ、ウッサイ、ウッサイ!! 姫、イレバ、ラクチン、カイケツ、ダヨー!」


「……ダメだ。俺たちが何言っても、聞いちゃくれないよ」


 ソックスはあきらめている。


「せめて、新聞があればな。コマリの事を信じてくれると思うんだけど……」


 新聞は僕のミスで全部無くなった。

 この辺りにいる兵隊さん達は、コマリの気持ちを知らない猫ばかりだ。


 そして、いつまで経っても口を割らない僕らに王様は言ったのだ。


「✕✕✕✕!」

「ヒドイ、コト、シチャエー!」


 なんと、筋肉ムキムキの兵隊猫さんが、木の棒を持って現れた。

 もう、僕でも予想つく。


 この棒で、僕らをめちゃんこにたたくつもりなんだ!!

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