4-6


 さっきと立場が変わって。

 今度は僕が背中を押されて、キャットタワーに押し進められた。


 イヤイヤと泣きじゃくる僕と、好奇心のかたまりでルンルンのソックス。

 その異様いような僕らに掃除の手を止めて、ギョッとするタイツさん。


「な、なんだなんだ。ソックス、お前がワシの所へ来るなんて、めずらしい」

「じいちゃん、俺、改心かいしんしたよ……」


 急に垂れ目をうるうるさせて、おじいちゃんを見つめるソックス。

 気持ち悪いにゃ。


「――は?」

「俺、このキャットタワーが神様が乗って来た船で、神聖な物だって言う話……ずっと馬鹿ばかにしていたけれど、信じる事にしたんだ」

「にゃっ……どういう風の吹き回しだ?」

「記念祭の事を色々と調べていたら、じいちゃんの言っていた事が本当だって気が付いただけさ。悪かったな、じいちゃん。今まで生意気なまいき言って……」


 科学だけを信じるソックスに、古き伝承でんしょうを信じるタイツさん。


 りが合わなかったのは、昔から知っていた。そんな孫が急におじいちゃんの言う事が正しかった、なんて言われたら、そりゃあ嬉しくもなるだろう。


 顔はふん! ってしているけれど、尻尾しっぽをパタパタさせて喜ぶタイツさん。


 もう一息で、タイツさんはほだされそうだ。

 そして、とどめとばかりにソックスはうるうるした目で手を組んでお願いポーズをして、


「それでさ、キャットタワーの中を見せろや」


 いきなり、本題をぶっこんで来た!


 話、下手くそにゃ。

 しかし、孫がしおらしくなって嬉しいタイツさんは、


「……べ、別に、良いけど! なんなら、ご神体も見せるけど!」


 と、急にデレて、簡単にOKしたのだ。

 隣でうるうるした目を続行するソックスは「チョロイぜ、じいちゃん」と顔面と全く合わない台詞せりふを吐いたのだった。



 (TωT)&(ΦωΦ)♪&(ΦωιΦ‥)



 キャットタワーの裏側には、南京錠なんきんじょうがかかった扉が一つある。


 タワー自体が古くて、アイビーのつたが絡まっているため、扉がある事も知らない猫も多い。

 その南京錠の鍵を持っているのは、もちろん、タイツさんだけ。


 その扉の鍵を開けると、絡まった蔦を少し引きちぎり、外開きの扉を開けた。

 ソックスはすでに、ごちゃごちゃと細かい部品が詰まった扉の断面だんめん興味きょうみを示していたが、タイツさんが居る手前、我慢がまんしてスルーしていた。


 中に入ってず感じたのはにおい。

 かび臭い匂いが充満じゅうまんしていた。空気がにごっている。

 それから視覚しかく。斜め上にある小さな丸窓から差す薄日うすびだけが、僕たちを弱々しく照らす。昼間でこの暗さならば、夜は真っ暗だろう。


 タイツさんは、キャットタワーをお空から来た船だと言った。

 天井には、確かに座席らしい物が五つあった。この船は横だったものが縦に突き刺さっている。座席の背中しか見えないけれど。

 そして、その座席の向こうに、何やら扉の断面だんめんと同じような部品のレバーやハンドルなどが見える。


 そして、僕らが入った入口の目の前には小部屋があり、タイツさんは神妙しんみょうな顔つきで言う。


「この小部屋の中に、ご神体しんたいがある」


 扉にはタイツさんが作ったしめ縄と、紙垂しでが付いていた。


 タイツさんは深々とお辞儀じぎをして自己流じこりゅうの神様を敬う作法「二礼、二拍手、三回転、一礼」を五回繰り返している最中さなか、ソックスはバァン! と容赦ようしゃなくご神体の扉を開けた。


 中には長四角の個体が、一つあった。

 

 固そうな部品でデコボコしている。

 固いくだもたくさん繋がっている。

 ソックスはその四角の個体を上から、下から、左右から眺め、四角の箱が周囲とどう繋がっているのか、五分くらい観察かんさつした。


 それから「ふーむ」と腕を組んで、驚きの声を上げた。


「すごいぞ! これは、この船の心臓しんぞうだ!」

「心臓?」


 僕の脳裏のうりにドックンドックンと動く、真っ赤なハートが浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る