ツツジ月十五日 月齢24.3

第4章 キャットタワーの謎

4-1



 コマリとハヤテがとかい島へやって来てから、一週間が経とうとしている。


 最初の数日間は、ハラハラしていた。


 アズキばあちゃんの家の兵隊さんがこっそり抜け出して、コマリ達の所に来るんじゃないかって心配だったから。

 でも兵隊さん達は、アズキばあちゃんにきびしく監視かんしされながら真面目に働いている様で、今のところコマリ達と出会ってはいない。

 

 しかし! コマリはとかい島のお姫様。

 いつ、新たな追手が来てもおかしくないのにゃ!!



「――それは大丈夫だって。満月の日の干潮時間かんちょうじかんしか、来れないらしいから」


 僕は早朝からソックス家へとおとずれて心配事をぽろっと吐けば、そんな返事が帰って来た。


 ちなみにここへ来た理由は「鶏返して」だけど。


 ソックスは、すでにハヤテに聞いていたらしい。ハヤテはもう片言でゆっくりなら会話も出来る様にもなっていた。


「満月の日?」


「そう。とかい島側の壁を少し進むと、海流が流れている広くて深いかわがあるんだって。橋が一本も無い大河は、猫を喰うためにジャンプ能力に特化した〈ニャートビウオサメ〉がうじゃうじゃと出る恐ろしい場所らしいんだ。そんな危ない場所に、危険をおかしてまで橋を作ったり、船で戦いながら渡ったりまでして、はてな島に来ようとする猫は居ないんだってさ」


「へえー」


「それにな、とかい島の猫もはてな島の猫が凶暴で恐ろしい猫だと思っているんだって。お互い知らないで怖がっているなんて、面白いよなー」


「にゃはは。僕らが怖いって? こんなに陽気な猫ばっかりなのに!……あれ?? じゃあさ、コマリとハヤテと兵隊さん達はどうやって来たのさ?」


「だから、さっき言った、満月の日の干潮の時間に来たのさ。……マメ、お前さ、海水浴で「日焼けしてソックスみたいな素敵な黒猫になるにゃー♪」なんて思って、昼寝をしていたら、いつの間にか波が目の前に迫っていた、なんて経験ない?」


「にゃっ! ないにゃ!  あるにゃ! ソックスになりたいなんて思った事は一度もないけれど、砂浜すなはまでお昼寝していたら、急に波に飲まれて、おぼれそうになった事あるにゃ!」


「そうそう。海ってさ、一日の間にも満ちたり引いたりしているんだけどさ、コマリ達が来た日は年に数回しか無い、最も満潮まんちょう干潮かんちょうに差が出る日であり、干潮時にはかなり潮が引く日なんだ。すると、いつもは河だった場所に陸地が出来るらしいんだ」


「河だった場所が、陸地に!?」


「そうそう。トンボロ現象って言うんだけどね。その陸地を渡って、壁を登って来たんだってさ」


「あの高い高ーい壁を、どうやって??」


 すると、ソックスは先日のころころマーケットで手に入れた、戦利品せんりひんを持ち上げた。

 赤いトンガリの帽子? を僕に手渡してきた。


「これを見れば分かるだろ?」

「……分かんにゃい」

「だからぁ、とかい島ははてな島よりも技術や科学がずっとずっと進歩しているんだって!」

「この赤いトンガリ帽子がぁ?」


 僕はその帽子を被ってみる。すっごくズシッとして重たい帽子にゃ。

 頭が揺れる揺れる。


「これ、プラスチックで出来た【カラーコーン】って言うんだって」

「ぷら……カラーコー……コーン……トウモロコシ?」

「道路の交通整理に使うんだと」


 道路の交通整理?

 僕は想像する……。


 ……例えば、牛さんが側溝そっこうはまったとする。

 

 その時に、この赤い帽子を使うのかにゃ?

 この赤いトウモロコシで、おびき寄せるって事?

 牛だから、赤色に興奮こうふんするのかにゃ?……でもヤギだったら??


「とかい島は、地下から取れる燃料ねんりょうを使って、自動に動く乗り物や、夜に月の様にずーっと輝き続ける蝋燭ろうそくがあったりするらしい」

「す、凄い島にゃあ!」

「ハヤテの話だとあの北の壁を作ったのは、とかい島の猫なんだって。その証拠しょうこに建設工事に使われたエレベーターで壁を登って来たらしい」

「エレベタ?」

「高いところへ一瞬で行ける乗り物だって」

「凄いにゃあ! 暮らすには便利そうな島にゃ」

「でもその反面、とかい島は汚染おせんすさまじいらしい。ハヤテはこの島の美しさをめていた」


「ああ、そっか。だからここに来た時に、二匹はすごく楽しそうだったんだね」


「そして、そんな文明の進んだとかい島でも、まだ空を飛ぶ乗り物はまだ無いんだって。俺はその話に心がおどったね。俺が、空を飛んだ猫一号になってやるんだぁ!!」


 興奮こうふんするソックスは、ガッツポーズを決める。


「――で、難しい話が続いたけれどさ、コマリ達は大丈夫って事でOK?」


「……お前、こんなに分かりやすく説明しても分かんなかったのか? 追っ手が来れるのは満月で、年に数回の最も満潮時と干潮時の差が出る日だ。追っ手はしばらく来ないだろう。なぜならば、次にトンボロ現象が起きるのは、マンサク月だからだ」


 マンサク月!?

 にゃんと、半年以上も先?!


 もお、小難こむずかしい話ばっかりしないで、その情報だけで良かったのに!


 僕は、その言葉を聞いてすっごくホッとした。

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