ツツジ月二十日 月齢0.6

第6章 コマリのヲイモカ

6-1



 …………んにゃ?




 ……朝?


 僕は、カーテン越しに感じる明るい日差しで目が覚めた。



 ……ダルい。


 なんだか今日はすごくダルいにゃ。



 ……今日はお祭りでお仕事も忙しいのに、なんだか起きたくないにゃあ……。



 ――なんて思いつつ、ベッドでゴロンゴロンとしていた時だった。


 家の扉をガンガンガンガン! とけたたましくノックする音で僕は飛び起きた。


 急いで扉を開けに行くと、突然白い物体が僕に突進とっしんしてきた。


「マメ……!」

「?!」


 それはコマリで、そのまま僕にぎゅっと抱きつく。

 驚く僕を見上げるコマリの目は赤くなっていた。泣いていて赤くなった色だ。


「……コマリ、どうしたの? 泣いていたの? 昨日はどこに行っていたの? 心配したんだよ??」

「ヨカタ、マメ、ヨカタ……」


 何が良かったのだろうか?

 そして、なんで泣いているのだろうか?


 いくら尋ねても泣いて僕を離さないコマリに困っていると、ものすごいいきおいでシロネギも部屋に飛び込んできた。


「マメー!! 大変でありマス! 大変でありマース!! 北の壁が……!」


 シロネギの話が急に止まり、くっつく僕とコマリを見て固まった。


「あにゃっ! ち、ち、違うにゃ! 違うからね!!」


 あわててコマリを引き離す。

 しかしシロネギは僕たちよりも顔を赤らめて、カクカクと回れ右をして部屋から出て行ってしまった。



 (ΦωΦ;)&(*ΦωΦ;)



 ネギの話は思った以上に深刻しんこくだった。


「昨日の夜、北の壁が何者かによって、こわされたのデス! それで、ソックスの家の近くに、大穴が空きマシタ」


「……!!……ソ、ソックスは!?」


「……家は瓦礫がれきになりました。家の近くをさっきまでみんなで探しましたが…………ソックスは居ませんデシタ」


 その言葉を聞いて、僕の頭の血がさーっと引くのが分かった。

 

 ふらついた僕を支えてくれるシロネギ。


「……大丈夫でありマスカ!?」

「げ、原因は?! とかい島の兵隊さんがやったの??」

「それが……行けば、分かるとは思うのデスが……」


 ネギが言葉をにごす。僕はどうして言葉をにごしたのか。

 現場を見て、すぐ理解した。


 大穴はソックスの家だった場所から数メートル横に空いていた。

 穴の大きさは直径五メートルはありそうだ。

 その穴から遥か向こうに大きなとかい島と、手前には二つの島をへだてる海が見えた。だけど、僕が一番驚いたのは……。


 海水がけずれて水の無い部分があったのだ。


 それは、壁に穴を空けた「何か」が通り抜けたくびみで、そのせいで海水がき止められて、とかい島とはてな島を繋ぐ道を作っていた。


 そして「何か」は「はてな島からとかい島へと発射された物」だった。

 心当たりは一つしか無い。


「キャットタワー……」


「……おや、アレは何ですかネ?」


 壁の向こうのはるか遠くから、モゾモゾと動く芋虫いもむしの様な物が見えた。


「!?」


 コマリがふるえた。

 そして、僕に言った。


「✕✕✕! ✕✕✕!! とかい✕✕✕!!」


 目をらして芋虫いもむしを見ると、それは赤い制服を着た、兵隊の大軍だった。


「た、た、大変にゃあ! とかい島の兵隊さんが来たぁ!! 逃げなきゃ!!」


「で、でもドコへ?」


「ネギはコマリを連れて逃げて! それからハヤテと一緒に、はてな新聞堂に避難ひなんしていて!」


「マメは!?」


「ソックスが壁の向こうに居るかもしれない。探してから行く!」


「そんな、危険きけんデス!」

「大丈夫! 彼らの目的はきっとコマリにゃ! それに僕は島中を走り回っているから、足だけは速いにゃ!」


 シロネギは最優先事項さいゆうせんじこうが、コマリを逃がす事だと理解してくれた。


 ネギが紳士的しんしてきにコマリの手を引っ張ると、コマリは動かない僕を心配して「マメ、イコ!」と腕をすった。


「僕は、後から行くね」

「……マメ? イコ!!」


 僕はすがるコマリの手を振り切って、壊れた壁の向こうへと走りだした。


「マメ!! ✕✕✕ーー!!」


 コマリの叫び声がだんだんと小さくなっていく。



 

 ――本当は、凄く凄く怖いにゃ。

 

 でも、ソックスを、僕の大事な親友のソックスを、こんな形で失いたくないにゃ……!!

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