第18話 討伐隊編成

 リコたちがローサンの目的を調べている間に、魔物が減ったとみられていたハイノバで魔物が急激に増えていることが判明して急遽、討伐隊が編成されることになった。

『どうして急に増えたの?』

リコの質問にハミルトンやネヴィル皇子も答えられない。何か事情があるようだ。

リコは不安になる。

何も起きないといいと。

 王宮内はいつにもまして騒々しく、人々が忙しく走り回っている。

 魔導士団でも討伐隊に参加するメンバーが決まってその準備を進められる中、討伐に参加しない者達でポーション作りや魔法石の準備に大忙しだった。

 クロードも今回初めて後方支援のメンバーで参加することが決まりその準備に追われている。

「リコ。ポーション作りは他の者に任せてもいいのでは?」


 討伐に参加する魔導士以外がポーション作りをしている。リコもその中に入ってポーション作りをしていた。

どれだけの量が、必要なのか分からないので作り続けた。

「ハミルトン様。今は討伐隊を送り出す方を優先してもいいと思います」


 鍋を火からおろし伝えるとハミルトンも渋々手伝ってくれた。今回の討伐隊はいつもの倍の人数を連れていくことが決まっている。その為、ポーションもいつもより多く必要になってくるのだ。

 完成したポーションをハミルトンと運ぶ途中、ネヴィル皇子とアランの言い争う声が聞こえた。

 レイモンから二人を見かけたらすぐ逃げろと言われていたが、今度は何を争っているのか気になってわざとゆっくり歩きながら聞き耳をたてた。ハミルトンも気になっていたのかリコと同じようにゆっくり歩きながら横目で様子を見ていた。


「遊びじゃないんだ。魔法も使えない、騎士としての実力もない者が行っても邪魔になるとは考えないのか!」

「どうして実力がないと言える。それに邪魔をするつもりはない。自分も協力したいと思って何が悪い」

アランが叫んでいる。

ネヴィル皇子が言いたい事は理解出来る。

足手まといになる事がわかっているのなら初めから連れて行かない方がいい。それでも着いていこうとするアランは何か魂胆があるようだ。

嫌なことを思い出す。

召還される前、会社勤めをしていた時に同じようにアピールする同僚がいた。その人は他人と比べて自分が出来るとアピールするタイプだった。勝手にやる事を私に押し付け自分は出来ていると周囲にアピールしていた。リコは本能でアランが好きになれないのはこういう事だと気付いた。こういうタイプには関わらないのが一番だ。

リコは冷めた目でアランを見ていた。

 今度は討伐で功績をあげる魂胆か。魔法が使えないと聞いているから騎士の能力如何でネヴィル皇子の言うように負担にしかならないだろう。これ以上聞くこともないのでその場を離れてポーションを倉庫に運ぶ。

『アラン殿も困った方ですね』

苛立ちを隠す様子もなく、ハミルトンが呟く。

リコも同じ気持ちだった。側室のダニエルもその子供二人も正式に認められていないのに、王の子としてネヴィル皇子やレイモン皇子と同等の扱いを要求してくる。王もはっきりしてくれればいいのに、今は体調が悪くて出来ないでも今まででも充分時間はあったはずだ。それが原因で今の状況が起きているのに。

リコはため息をつきながらポーションを倉庫に運んだ。ハミルトンは納得出来ない様子でアランを見ていた。

倉庫の棚にポーションを並べて数を確認する。

予定よりは進んでいるがまだ足りない。

 ハミルトンと倉庫から出るとネヴィル皇子が待ち伏せていた。


「ポーションか……」

「討伐の日程が決まったと聞きましたので準備していました」

「何かあるな」


 ネヴィル皇子がリコの胸元を指さしながら言う。話していいのか迷ったがそれ以上は聞いてこなかった。


「丁度良かった。頼みたいことがある」


 ネヴィル皇子の頼みとは先日の漆黒の森で封印した黒い物体の様子を見てきてほしいというものだった。


「本当はエルドと行くつもりだったのだが、討伐にいかなければいけない。すまないが見てきてほしい」

「いいですけど、何かあったのですか?」

「エルドが結界を張っていたが、どうやら誰かがそれを壊そうとしたらしい」

「それでは!」


 ネヴィル皇子の表情は険しい。

 最後にエルドが何か呪文を唱えていたのは結界を作っていたのか。それが壊されると危険だ。

急いで状況の確認をしないといけない。リコは頭の中で、必要なポーションの数を計算した。

急いで作れば今日中に出来るわ。夜帰ってから準備すれば明日の昼には出かける事が出来る。

リコが予定を組み立てているとネヴィル皇子からも言われた。

「あとでエルドを向かわせる。何をするのか聞いてほしい」

「分かりました。あと、何かすることはありますか?」

「出来ればポーションを多めに作ってほしい」


 悩んでいる様子で伝えてきた。今回の討伐はそんなに大変なのか。倉庫にはいつもより多くのポーションが運び込まれているがそれでも足りないようだ。

 少しでも安心材料になればと快く返事をするとネヴィル皇子は安心したのか、表情が緩んだ。リコはすぐにポーション作りをするため戻った。

 一通りポーションを作り終え部屋に戻る。途中、エルドが漆黒の森でやることを詳細に書き記したものをもって訪ねてきた。

 かなり、急を要する内容でハミルトンと共に準備が出来次第出発することになった。

 部屋のドアを開けるとオリビアが出迎えてくれたので手に持っていた袋を渡す。


「しまっておいて」

「お、お嬢様。これは?」


 エルドが持ってきたものだ。

 ネヴィル皇子からだと渡されたがそれは先日リコが手にした魔導士の給料の数倍もの金貨が入っている袋だ。

 先日の漆黒の森でのことと、今回のことの報酬だと言われた。

 今、リコが動いていることは魔導士団の給料から特別手当としてもらっているので、ネヴィル皇子からもらうのも気が引けてエルドに返そうとしたが断られた。あの袋の中の金貨だけでそれなりの屋敷が一つ買えるとハミルトンは言っていた。


(お屋敷、買えちゃうんだ)


 オリビアが金貨の入った袋を棚にしまっているのをソファーに座ってぼんやり眺める。

 王の病も治せていないのにこんなに貰ってもいいのか心がざわつく。もしかしたらお金でつられたのか。どうして受け取ってしまったのか後悔してきた。

 それに漆黒の森のことも気になる。

 本で見た記憶があったので部屋に置いてある本を持ってきて読み始めた。エルドが言っていた内容と一致する項目があった。

 元になる核みたいなのを破壊しないといけないと書いてあった。

 私もハミルトンはあの時、逃げるのに精一杯でその核というものは分からなかった。そしてエルドとネヴィル皇子も同じだったようで、封印という手を使ったと言っていた。

 核は別のところにあるかもしれないと言うことで、今回の依頼は封印の強化と言われた。


(核か……)


 とりあえず、急いで不足分のポーションを作って、王の病の状況を確認して漆黒の森へ向かうことにした。


 翌日は朝から集中的にポーションを作っていたおかげで二日後には不足分は確保できた。

 王の容態も安定していることからリコとハミルトンはネヴィル皇子の討伐隊を見送る。

 急に増えた魔物。いつもより多い討伐隊のメンバー。いつもは見送りに出ない大臣たちも今回は一番前でネヴィル皇子を見送っていた。

 その光景が物々しさを表している。リコは建物の陰からネヴィル皇子たちを見送ってから前回同様、ハミルトンと騎士たちを連れて漆黒の森へと向かった。

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