第12話 召喚者

「どう?落ち着いた」

「はい」


 今、王妃様の部屋でお茶を飲んでいる。

 どうしてかというと図書館から戻りながらネヴィル皇子の言葉を考えていたら重要なことに気づいた。

 自分は後継者争いに巻き込まれているのだ。

 ネヴィル皇子が疑っているのはリコがレイモン側の人間だということだ。

 王妃様やレイモンの話から二人の間には特に争いはないと思われたが、ネヴィル皇子はレイモンの行動を疑っているそしてリコのことも。


「王妃様。ネヴィル皇子は私を疑っています。どうすればいいでしょうか」


 ネヴィル皇子が何を疑っているのかまでは分からないが、王に危害を加えると思われていないか心配だ。下手をすると自分の命が危ない。


「ネヴィルには私から言っておくわ」

「大丈夫ですか??」


 心配しなくてもいいと言われてもまだ死になくない。それに、王妃様は後継者問題をどうとらえているのだろうか。


「どうしたの?」


 優しく微笑む王妃様は自分の息子と前王妃様が産んだネヴィル皇子を育てていた。二人のうちどちらかしか王になれないのならどちらを選ぶのか。


「王妃様は皇太子に誰を望みますか?」

「ネヴィルよ。あの子はこの国のことを一番に考えているわ」


 迷うことなく即答にびっくりした。偽りを言っているようにも見えない。


「レイモンではないのですか?」

「レイモンはいずれ、エリアス侯爵を継いでもらうつもりなの」


 王妃様からここだけの話にしてほしいと言われた。

 以前、跡継ぎはいると言っていたのはレイモンのことだったのだ。前王妃に何か恩でもあるのだろうかと疑ってしまう。


「リコは誰が王に相応しいと思う?」

「私はネヴィル皇子もレイモンのことも詳しく知りませんが、二人ともこの国のことを考えていることは分かります」

「そうね。あの二人はとてもしっかりしているわ」


 王妃様はため息をつきながら遠くを眺めている。

 同じ王の子と言われているアランはネヴィル皇子に飛ばされた後、ネヴィル皇子の騎士団に襲撃を仕掛けたらしいと噂が出ていた。

 子供かと思った。あの男では国は任せられない。王もそのことを知っていて後継者にはネヴィル皇子とレイモンの二人を候補者にしたのだろう。

 資質の問題なのだ。それすらもあの兄妹は分かっていないのか。考えることが多すぎて混乱してきた。

 出されたお茶は冷めていたが飲み干した。


(こんなんでやっていけるだろうか)


 王妃様の部屋を出て自分の部屋に戻る途中、レイモンと会った。


「召喚した者達の話を聞くことが出来た」

「なんだったの?」


 どんな理由で呼ばれたのか、前ほどの気持ちはもうなく、どうでもよくなっていた。


「王の病を見つける」

「見つける?」

「召喚には三人の魔導士が関わっていたが、その三人の考え方が微妙に違っていたので三人の話を纏めると見つけるになった」

「そう」


 なんとなく想像していたことだった。


「その三人は私にどうしてほしいの?」

「三人を呼んでいる。王宮にある私の執務室だ。会うか?」


 会うかと聞かれて会わない理由もない。召喚したのがリコだと知ってどんな顔をするのか見たかった。

 レイモンが前を歩き、その後ろをついて行く。レイモンの口ぶりから重苦しさが感じられた。

 執務室に着くとそこにはウォルターとハミルトン、エルドと名乗る魔導士がいて、三人三様に驚いていた。


「リコは初めて会うな。エルドは魔導士団の副団長を務めていていつもは兄上のネヴィル皇子と一緒に討伐に行っている」


 クロードがすごい魔導士だと言っていた人だ。

 銀色の髪に肌の色が透き通るくらい白い男性だった。


「私を呼んでどうするつもりですか?」


 三人は顔を見合わせている。誰が話すのか決めかねているようだ。


「もともと、ローサンとゾフィー様が教会で王の病に効く薬を出そうとしたことが始まりでした」


 団長のウォルターが話し始めた。

 ウォルターとハミルトン、エルドは教会に誰かが入ったことを察知して教会に急いだ。そこには倒れたローサンと泣き崩れたゾフィーがいたらしい。

 三人はローサンたちを運び出そうとして床に落ちていた魔法書を見つけた。

 その魔法書は王宮の図書館で厳重に管理されているはずの本で皇族しか見ることが許されない。


 開かれていたページからローサンたちが何をしようとしていたのか気づいたウォルターたちはローサンが失敗した理由は魔力が少ないためだと理解した。それなら三人で行えば王を救えるかもしれないと考えた三人は王の病の原因を見つける方法を呼び出すことにした。

 だが、呼びだしたものが現れる前にレイモンが来て三人は教会を後にしたと言った。


「三人で魔法を使えば召喚出来るのね」


 それなら戻すことも出来るかもしれない。


「あの教会と魔法石、そして私たち三人です」


 今度はエルドが言う。


「戻せないかな。私を」

「それは難しいです」

「どうして? 私を呼ぶことは出来たのにその反対は出来ないの?」

「やったことがないのと、帰す場所の特定が出来ません」

「そっか。貴方たちには私がいた世界のことは知らないわね」


 今更戻れるとは思っていなかったのでそれほどショックはなかった。

 それに戻れたとしても、私がいなくなっていた間どうなっていたのか考えると怖い。


「お願いがあります」


 エルドが一歩前に出た。


「なに?王の病なら今、本を調べているわ」

「そのことではなく。出来ればもう暫く、ネヴィル皇子にはこのことを内緒にしていただけないでしょうか」

「どうしてネヴィル皇子に秘密にするの?伝えたほうが協力してもらえていいはずよね」


 事情を話せばネヴィル皇子の誤解も解けるし、ネヴィル皇子の討伐に同行するくらいの人だ、その人が召喚したと言えば問題ないと思ったが違うらしい。


「ネヴィル皇子は貴方のことを疑っています。ですから説得するまで待っていただきたいのです」

「ネヴィル皇子にバレたら私の命はない?」

「そこまではないと思いますが、ネヴィル皇子は今、色々なことを抱えていて大変な時期です。ですからそれが落ち着いたら私から話します」

「分かったわ」


 ネヴィル皇子の大変はきっとすぐ近くの領地で魔物が出たことだろ。

 第二騎士団が帰ってきてすぐに討伐に向かったと言っていたが、殲滅まではいかなかったらしい。


「リコ。王の病の件は……」

「やるわよ。私しか出来ないでしょう。その代わり、王の病が治ったら王宮を出たいの。協力してくれる?」

「リコ。本当に王宮を出るつもりか?」


 それまで魔導士たちとの会話を聞いていたレイモンが驚く。


「だって、私がエリアス侯爵を継ぐわけにはいかないでしょう。どこかの街で家を借りて暮らせるようになりたいの」

「ですが、あまりお勧めしません。このまま王宮で暮らすのはどうですか?」


 エルドが必死に訴えるが、げんなりしてきた。


「いつまでも私が王宮で暮らすわけにはいかないでしょう。いずれネヴィル皇子かレイモンが王になったとき、そのお妃さまも不審がるわ。それなら王宮を出たほうがお互いのためでもあると思うのよ」

「やはり、この世界の考え方とは違いますね。それなら王の病が治ってから改めて話しましょう。本当に王宮を出るとなったらそれなりの準備も必要になってきますから」

「リコ。王の病を治すことの重要性を忘れているな。今まで誰も治せなかったものを治すんだ。それだけでも栄誉あることだろ」


 そうか、忘れていた。

 今後のことを考えると私が王の病を治すことを秘密にしなければいけないのか。


「名誉なんていらない」

「望めば爵位も領地だって貰える。それでもいらないのか?」


 ウォルターが驚いている。無理もないかもしれない。だが……。


「爵位も領地も邪魔なだけじゃない。それで命を狙われるのなら、そんなのいらない」

「そ、そんなのって……」

「私が王の病を調べていることを秘密にすればいいだけの話よね。それで、王の病が治れば貴方たちは満足で、私は王宮を出て暮らす。これでいいでしょう」

「分かった。リコの好きにすればいい」


 レイモンが降参というように両手を上げた。

 後は王の病を治す方法を見つければいいだけだ。


「リコ。王の事は私も手伝うよ」


 今度はハミルトンが言う。

 エルドは討伐があるしウォルターは魔導士団の団長なので王の病にかかりっきりにはなれない。その点、ハミルトンは比較的自由に動けるようだ。


「図書館から本を借りてきたから、何か分かったら連絡します」

「リコ。誤解しないでほしいのだけど、ネヴィル皇子は悪い人ではない」


 部屋を出ていくときにエルドから言われた。図書館でのことを聞いているのかもしれない。そうだ、まだこの問題が残っていた。王妃様が話をしてくれると言っていたので忘れていた。


「気にしていないわ」


 理由も分かって、戻れないことも判明した。

 思っていたほど悲しさや寂しさは湧いてこなかった。

今はやらなければいけないことが出来た。リコは早速本を読み漁る。

どれだけ読み込んでいるが中々見つけられなかった。

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