第5話 マリーゴールドの後継者
JUSTICE:正位置
次の日、俺は彩花の家、もとい辰夫さんに会いに来た。言うまでもなく、犯人が森島凛だということを伝えるためだ。
「おはよう、陸斗くん!って、また怪我増えてるじゃん!!ちゃんとばんそうこうはしないとだよ!」
「いや、いい。それより、辰夫さんはいるか?事件についてもう一度話がしたいんだ。」
「そんなことって...うん、お父さんならいるよ。せっかくだし、お茶でも飲みながら話したら?」
彩花の優しい気づかいにより、家に上がって辰夫さんと話すことになった。
「おはよう、陸斗くん。」
「おはようございます。昨日はありがとうございました。」
お茶を飲みながら一通り世間話をし終わったところで、自分から話を切り出した。
「ところで、事件についてなのですが...」
「ああ、何か手掛かりを見つけたか?」
はい、といって、自分の考察をすべて話した。
********
「なるほど、陸斗くんが言いたいことは分かった。だが、私から質問がある。」
「なんですか?」
そういって、辰夫さんが不十分だと感じたところを質問しだした。
「まずは神託の紙についてだ。茂みに埋まっていたというが、隠されていた感じだったのか?」
「はい。だいぶ深く埋まっていたので、間違いないと思います。」
俺は例の紙切れをもう一度机の上に出しながら説明していった。
「誰かが隠したいと思って茂みに置いたとは思いますが、だれが置いたのかもわからないし、だれが書いたものかもわかりません。」
「ああ、見た感じ一人で書いた字でもなさそうだ。筆跡ではわからないだろう。」
筆跡鑑定をすることによって、だれが書いた字なのかをあてることができる。一応お願いしているらしいが、期待はできなさそうとのことだ。
『それもそうでしょう。私も一度見た字は何となく誰の字か分かるけど、まったくもって見当もつかないもの。』
(...神様、大切な話をしているんだ。あまり口を挟んでくるなといっただろう。)
今回、神様にはおとなしくしてるように言っておいた。どう考えたって、別のことに気を取られながら辰夫さんとしっかり話せるとは思わなかったからだ。
「まあ、わからないならとりあえず保留だな。次だ。この数字、"1098"という数字の意味は何だと思ってるか?」
「個人的には、1098自体に大切な意味があるというわけではないと思います。」
宗教的な考え方には、特別な数字が存在する。有名どころで、仏教の21やキリスト教の7などがあがるだろう。
「宗教上の特別な数字とかではなく、単純に1098回目の神託という意味でとらえていいと思っています。」
(大切な時の神託だった、とかならまた話が変わってくるかもだけどな...)
「...わかった。最後はマリーゴールドについてだ。花言葉が関係していると考えているようだが.....」
「オレンジ色のマリーゴールドには"予言"という意味があります。森島凛、岩川修司を"予言の後継者"として扱っているということを示したいのだと思いましたが...」
俺がそう伝えると、あごに手を当てながら辰夫さんはつぶやいた。
「予言、すなわち占いや信託についての後継者になるのが森島凛、岩川修司の両名だということか。」
「はい。そうなると、岩川修司を占いの世界に引き込みたかったということですよね。そうして、勧誘の中継として同じ病院に森島凛を送った。」
「すると、全てこの事件は森島凛の父親、または父親を洗脳した占い師が真の犯人ということになるな。」
実際に殺人事件を起こしたのは森島凛でほぼ確定だろう。だが、それをすべて裏で操っているのかはまだはっきりしない。占い師がすべて操っているのかもしれないし、父親が暴走して勝手に采配した可能性だってある。
「あとは、証拠だな。今陸斗くんが言ってくれたのは単なる憶測に過ぎない。もっと強固な証拠が必要だ。」
(その通りだ。だが.....)
あいにくと、証拠と呼べるものは見つからなかった。
神託の紙は、簡単な指紋検査を行ったが何も出てこなかった。犯行時に手袋か何かをしていたのだろう。
「.....証拠は、しっかりとしたものは見つかりませんでした。指紋もだめ、防犯カメラは路地裏に設置されていませんでした。」
俺がそう言うと、辰夫さんは「それなら...」と話を続けた。
「まだいくらでもやりようがある。例えば...犯人の携帯電話の位置情報などだ。」
『人間が使う携帯にはGPS機能が含まれているのよね!通信会社のサイトとかで調べれば一発でわかるって。』
神様がとても褒めてほしそうな声色で言っているのはわかったため、心のなかではいはいすごいですねと言ってやった。
(なるほど、犯行の痕跡がほとんど残っていないからプロの犯行だと思いこんでいたが、携帯は持ち運びができるというところは盲点だったな。)
「よし、今のところ確認できるところは確認し終えた。善は急げだ。容疑者は集めたほうがいいだろう。もちろん、陸斗くんも来るだろう?」
辰夫さんは、少しいたずらっ子のような顔で俺に言った。
「はい、もちろん行きます。警察署に集めましょう。」
********
水沢警察署の会議室に、天野めぐみ,木原雄斗,森島凛の三人を呼んだ。
天野めぐみは、前と変わらず穏やかな表情だったが、少し不安そうな顔をしていた。木原雄斗は、どこか狼を感じさせる鋭い目でやってきた。今日で大切な先輩を殺した犯人が分かると思っているからだろう。森島凛は、少しこわばった顔をしてはいってきた。...今までの考察を考えると無理もないが。
「みなさん、こんにちは。お集まりいただきありがとうございます。実は、事件のことで進展がありまして、もう一度お伺いしたいことがあってお呼びしました。」
辰夫さんがそう話を切り出すと、少し空気がピリつき始めた。
「単刀直入に言いましょう。森島凛さん、あなたは岩川修司さんを4月20日23:00〜24:00の間に殺害した。違いますか?」
「ち、違いますよ!!」
他二人が驚きの表情を浮かべる中、はっきり殺人犯かを追及された森島凛は、わかりやすいほどに動揺して話を続けた。
「私は、ずっと家にいました。ご飯を食べたあと、父にホラー映画を見ようと言われて、夜遅くまで見ていて、とても楽しかっただけです!だから、私は...私は殺人なんて犯していません!!」
『急に焦りだしたわよ。こっちが聞いていない細かいこともすぐ言ってるし。』
人間は、嘘をついているときは必要以上に物事の説明をする。たくさん補足をつけることで、嘘をもっともらしく言うことができるからだ。今の森島凛が一番わかりやすい例だろう。
「まあ、落ち着いてください。こちら側の考察を順に話していきます。」
「あなたは、事件当日、一人で家を出た。そして、路地裏で被害者に出会った。ちなみに被害者は仕事終わりか何かだったのでしょう。」
「は、はい。修司さんはいつもその時間に帰宅していました。普段遅くまで仕事をしている分、週休が3日でしたので...」
辰夫さんは証拠が不十分なため、周りの人にさりげなく確認を取りながら進めていた。この場合は、天野めぐみに視線を送ることで有益な情報を期待していた。
「なるほど、いつも通りに帰宅していたところを殺害されたということですね。」
「それにしたって飛躍しすぎでしょう!証拠がないじゃないですか!!」
『初めて会った時よりも感情的になっているわね。』
そんなものだろう。自分が殺人犯だということをいきなり言われ、なんとかして無実を証明しようとするだろう。だが.....
(それなら、もっと自分が犯人でない証拠をいうはずだ。)
今森島凛が言っているのは、辰夫さんが言ったことに対する少しばかり感情的に反論しているだけだ。自分のことについてはっきり「白だ!」と思えることは何も言っていない。
「はい、今のままでは証拠不足です。なので、今から証拠を確認しましょう。」
辰夫さんがそういうと、三人は頭の上に?マークを浮かべている顔をした。
「では、森島さん。少し携帯をお借りできないでしょうか。」
「わ、わかりました。」
普通に考えて警察に携帯を見せるように言われたら驚くのは当たり前だが、森島凛は急に言われてどういうことだろうと思いつつ携帯を渡した。
「私が携帯を借りた理由は、これを使って事件当時の位置情報を調べるためです。」
そういって辰夫さんは、自分の携帯を使って調べ始めた。すると、わずかで数分で結果が出た。
「4月20日、23:34分から犯行現場の路地裏にいることが分かりました。つまり、これが犯行現場にいたという証拠になります。」
その瞬間、森島凛が、いろいろとあきらめたような表情になった。
「.....最初はどんな証拠が来ても"証拠になってない"の一点張りで終わらせようと思ったいたのですが...」
――そういった顔は、すべてを物語っているような顔だった。
「はい、私が犯人です。事件の日、帰宅途中の岩川修司さんを刃物で刺し殺しました。最初は背後から刺して、そのあとに怖くなって滅多刺しにしました。凶器となった包丁は私が持っています。」
森島凛は、自分が犯人であることを認めた後、自分が持っている情報を洗いざらい話した。
「岩川先生を殺すように命令したのは、私の父です。私は、岩川先生のことを尊敬していましたが、恋愛的に好きになったことはありませんでした。しかし、同じ病院で働いて、結婚までこじつけろと言われていました。そのためには、邪魔になるであろう天野さんも殺、すように、と、...」
自分でも、話していてとても恐ろしいことを言っていると思ったのだろう。どんどん声が震えてきていた。言われた天野めぐみも、信じられないような表情で固まっていた。
「もう一つ、いいですか?」
「なんですか?」
「あなたは、あなたのお父様に命令されての犯行だと思っているのですが、違いますか?」
それまで何も言っていなかったため少し驚いた表情をされたが、そのまま話し続けた。
「.....父については、私もよくわかっていません。物心がついた時から占い師の方と親しげに話しているのを見ていました。」
「...現場の茂みの中に、この紙が埋まってあったのですが、なにか心当たりはありますか?」
そういって俺は、例の紙切れを見せた。
「これは、、よく知っています。小さいころから、”あなたは予言の後継者になるんだよ”といわれて育ってきたので...」
(やはり、予言の後継者であっていたな。)
よく言われて育っていたということは、少なくとも20年以上は父親が占いを信じているということになる。
「どうしてだよ...!どうして先輩が殺されなきゃならないんだ!!」
森島凛が一通り話し終えた時、我慢できなかったような声で木原雄斗の声が聞こえてきた。
「森島さんは、自分で先輩を殺そうと思ったのでは無いんだろ!?」
「は、はい。父に殺せと言われたので...」
「ならなんでその父親を止めなかったんだ!!親が悪いってわかってるならなんで反抗しなかったんだ!!そうすれば.....先輩は死なずに済んだのに...」
怒りと悲しみを多く含んだ声で話す木原雄斗のところに、天野めぐみが声を出さずに近寄って行った。
(親が悪いっていくらわかっていたとしても、逆らうことはできないんだ。なぜなら、俺らが子供だからだ。)
俺は、物事の細かい原因を知りたいと思う。なぜなら、俺が常に理不尽な理由でいじめられてきたからだ。物事には必ず理由がある。俺は、それがどんな理由だったとしても、人を傷つけていい理由にはならないことを知っている。だからこそ、俺が原因を調べることで、おかしな理由で苦しむ人を少しでも減らしたいと思っている。
(...なんて、ただの夢物語に過ぎないけどな。)
『.........』
「...では、森島凛さん。岩川修司さんの殺人犯として、逮捕します。」
そうして、森島凛は辰夫さんに手錠をかけられた。
「天野めぐみさん、木原雄斗さん、ご協力ありがとうございました。ショックなことも多かったと思いますので、気分が落ち着くまではここにいてもらっても大丈夫ですよ。」
辰夫さんは、これから森島凛の父親のところに行くのだという。俺は、この事件の真相が知りたかっただけだし、今わかったことも含めて改めて整理したかったためついて行かなかった。
――マリーゴールドは、結局枯れてしまった。しかし、カモミールはどんなことがあっても見守ってくれるだろう。これからも、その先も。
#1 Marigold successor 了
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【パンジー,ビオラの天使 二人の悪魔を打ち落とせ
われらの神に栄光あれ 大1106回目の神託】
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