第39話 バン

 バンは魔族を倒し、一時的に学園にと帰還していた。ウィルやアルフレッドが生徒たちから誉められており、それを尻目に空を眺める。


 そんなバンの元にサクラが歩いてくる。




「あ、バン、君だっけ?」

「え、はい」

「……きみはさ、特別な家系の生まれじゃないよね?」

「庶民です」

「あ、そう……」



 サクラは先ほどの彼の一撃をみた。圧倒的な強さと目にも映らぬ速さを兼ね備えた究極的な一撃。これをできるのは一人しかいない。


 歴代最強の勇者と言われる、勇者ダン。



(勇者君、ほどの覇気は無いけど……でも、演技くらいは平気でできるだろうし。別人の可能性あるけど、ここまでの実力者が未だに無名ってありえないよね)



 見れば見るほどに普通。人混みに紛れこめば見つけることなどできないと思われるほどに普通の青年。


 今も呑気に欠伸しながら、空を見ている。



「そろそろ帰るかな」

「え?」

「今日、冒険者交流会があるんですよ」

「……それって、男女が話して仲良くなるあれだよね」

「うす」

「……僕も行こうかな」

「元勇者パーティーが来たら、ざわざわしますよ」

「あ、うん。いつものことだし」



 サクラはバンのことを調べようと思い、冒険者交流会について行くことに決めた。



「アルフレッド、俺帰ることにするよ。またな」

「そうか。せっかく来てもらったのに、騒ぎですまないな」

「お前のせいじゃないだろ。ウィルもまたな」

「はい!」



 アルフレッドとウィルに挨拶をして、バンは学園をさる。



 その後、適当に着替えて彼等は冒険者交流会へと向かう。覇剣士と言われているサクラが会場に入ると周囲はざわついていた。



「え!? サクラ様!?」

「か、かっこいい」

「話しかけよっかな」



 サクラを男と勘違いしている周りの女冒険者は騒ぎ始める。


 バンはいつも見ている風景だなと嫉妬顔をしながらちょっと離れた。



「バン。こっち」




 そんな彼を呼ぶのはリンだ。彼女もまた居ることで騒がれていたのだが、最近は仮面をかぶって参加しているので正体はバレていない。



「仮面被ってるんですね」

「まぁ、バレたら面倒でしょ」

「なるほど」



 以前旅をしていた時とは真逆のパターンのような二人だが、特に問題がないように話を進める。


「バンは良い感じの人見つけた?」

「今日は覇剣士サクラが来てるみたいだから無理そうですね」

「え!? サクラいるの!?」

「あそこいますよ」



 バンが指を刺すと女の子たちにサクラは囲まれていた。彼女は苦笑いしながら底を抜けて、二人の元に寄ってくる。


「もう、置いてかないでよ。ここ初めてだからさ」

「別に問題ないのでは」

「そうだけどさ。そちらの仮面の方は?」

「……アタシよ」

「え!? リンちゃん!? なんでいるの!?」

「まぁ、暇つぶしっていうか」



 サクラもリンも互いにまさか、ここにくるとは思っても見ない。そして、ダンは二人が恋仲だと勘違いしているので、邪魔しないようにそっとベランダへと逃げた。



「ちょ、いなくならないでよ」

「そうだよ」



 リンとサクラがダンを追いかけてきた。



(邪魔したら悪いと思って離れたんだけど……何故だ? オレにリア充姿を見せつけようとしているのか)



 ダンはサクラを男と勘違いし、更にリンとサクラが恋仲であると勘違いしている。


 ベランダに出るとリンは仮面を外した。



「リンちゃん、なんでここいるの?」

「まぁ、色々あってね」

「へぇ、リンちゃんが積極的に結婚したいって思ってるの僕知らなかったよ。言ってくれればよかったのに」

「まぁ、色々あるのよ。アタシにも。で、サクラはなんでここきたの?」

「そう! 聞いてよ。この人、めっちゃ強いの! あり得ないとは思うけど、勇者君くらい強いかもしれないの! だから何者なのか探ってる!」



 その言葉にリンの脳内に電撃が走る。

 この時、僅か0.2秒。



(サクラはバンのことをダンだと怪しんでいるのね。でもまだ確信を得ていないのであればここは敢えて、『否定』をしておくべきでしょう。サクラはダンのことを好いているから、正体が分かったら面倒。アタシだけが正体を知っているアドバンテージを捨てるのは勿体無い)



 高速に脳内を廻る思考。その瞬間、一瞬にて答えを出した。そして、またダンも焦っていた。



(あ、まじか。俺の強さがサクラに勘づかれている。うん、適当に誤魔化しておこう。仮面の下だけはバレたくねぇ)



「サクラ、アンタ、ダンと何年一緒にいたのよ。強さの理不尽さも分かってるでしょ。本当にダンくらいの強さをバンに感じてるの?」

「う、うーん。そう言われるとなぁ」

「魔王を解体して刺身にしてやるとか言っちゃうやつよ。それをバンから感じるの?」

「う、うーん。そう言われるとなぁ。あ、でも、バンとダンって、名前似てない? 一文字違いだし」

「……もっと隠す努力をしなさいよ。バカ」

「え? リンちゃん、なんか言った?」

「言ってないわ。それより、名前が似てるだけじゃ、根拠として薄いわ。どう考えてもバンはダンじゃないわね。うん、そうね。絶対そうね」

「そうかなぁ。あ、一応カグヤちゃんにも聞いてみる?」

「それはやめて。絶対ダメ」



(カグヤはヒント与えたら、気づきそう。普段眠たげな表情してるけど、スイッチ入ると勘が結構働くし)



「うーん、バン君ねぇ。バン君は勇者君の関係者とかじゃないの?」

「違います。俺、ずっと田舎で引きこもりしてたので」

「え? 引きこもりだったんだ」

「はい。最近外に出てきて、色々知りました。引きこもりだったので友達とかいないです」

「そっか……じゃあ、違うのかな?」



(……誤魔化し方はすごい雑だけど、まぁ、誤魔化せてるしこれでいいか。でも、ダンの雰囲気の切り替えは流石にすごいわね。これがダンって言われても信じられないし。そういう意味では演技派と言えるかも。だけど、偶にピリつくような鋭い一瞬の間みたいなのがあるから、注意深く見れば分かっちゃうのかしら)



「うーん。だとしても強いのは間違いないから、住んでる場所教えてよ。騎士団入ってるから、君みたいな人って把握してないと色々まずいっていうか」

「それは大丈夫よ。アタシが把握しておくから」

「あ、そう?」

「うん。サクラは心配しなくて良いわ」

「うーん、そっか。でも、多分リンちゃんより強いよ。この人、なんかあったら危なくない?」

「大丈夫よ。バンとはそれなりの関係だし」

「前に一緒にトーナメントも見てたし、そっか、大丈夫か」



 サクラはとりあえずは一旦引き下がったようだ。ほっと一息をついたリン。隣にいるダンを見ると、呑気な顔で他の女冒険者を眺めていた。


「もう! アタシがすごく必死にしてるのに!」

「え、あ、はい」


 リンはちょっと怒った。



「あの……覇剣士サクラ様と大賢者リンリン様ですよね」

「そうですけど」

「なによ!」

「あ、なんかごめんなさい。私B級冒険者のレッポと申します」



 サクラは普通に、リンは少し怒り気味に返事をした。話しかけてきたのはごく普通の男性冒険者。


「少し相談がございまして……お二人は最近、ここより、かなり遠い場所にある、都市ラムダに出没する『亡霊人斬り』をご存知ですか?」

「……僕は知らないかな」

「アタシも知らないわ」

「アンデッドらしいのですが、それは嘗て五代目勇者の剣術指南をしていた男の成れの果てと言われています」

「へぇ、そうなんだ」

「それを討伐して欲しいのです。都市ラムダにいたA級冒険者の男性、女性、二人がやられており、並の人物では相手にならないとかで。特に勇者の剣術指南をしていた男の亡霊だとS級冒険者でも厳しいのではないかと」

「それで僕達にか」

「本当はギルドを通して依頼をするべきと思ったのですが、時間も少しかかるかなと。すぐに討伐をして欲しくて、そこで最近ここに賢者様が現れると聞いて、この交流会に私は参加をしたのです」

「ふーん、直談判したってわけね。まぁ、良いけど」

「ありがとうございます」



 冒険者の男は頭を下げた。



「なぁ、それって強いの?」

「え? あ、そうですね。あなたは?」



 その男に冒険者バンとして彼は話しかける。嘗ての勇者の指南役の剣士の肩書きが少し気になったようだった。



「バン、普通の冒険者です。五代目の指南役ってのが気になって」

「あー、なるほど。失礼ですがあなたでは危ないかなと。辞めたほうがいいです」

「忠告どうも……気になったし、行ってみようかな」

「話聞いてました?」



 現代最強対嘗ての勇者の指南役の戦いが始まる。








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書籍一巻が11月1日に発売します!

それでなのですが、WEB版との変更点をお伝えします


先ずなのですが、勇者パーティーのメンバーが一人増えてます。

ダン、リンリン、サクラ、カグヤ→追加『エリザベス』。一巻では出番ないですが精霊の女の子ですね、



弟子は三人でます。

ウィル、キャンディス、タミカ。タミカって誰って思うと思うのですが、アルフレッド君の妹です。アルフレッド君自体は作品から消えていないのですが、弟子が変更となってます。


タミカも男勝りな感じのキャラで面白いので是非、気になったら読んでみてくださいね! それではまた!

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