第3話 マナとオドと調査とアレ 前編

 人間界に於いて魔族デモニアは混沌と破壊をもたら


 だからこそ少女はこうして目の前にいる魔族ルミネと普通に会話している事に不思議に思えていた。

 モヤモヤ感はどうしても拭えなかったが会話が成立する相手であれば話しをするし、その前にこの世界は「魔界」なのだから自分の方が異質な存在ストレンジャーなのだと少女は自分に言い聞かせていた。


 そんな考え事をしながらルミネの話を聞いていたワケだが気付けばルミネは話しを終えて少女の方を見ていた。

 少女は考え事のあまりルミネと視線が交錯していた事に気付いていなかったと言える。


「あの…聞いていらっしゃいますか?」


「う、うん、聞いてた聞いてた。周囲のマナを練らないとアタシらは魔術を行使する事が出来ない」

「だけど体内のオドだけじゃ、簡単な魔術が精一杯だもの。逆に精霊種や魔族デモニアは話しが違う。体内のオドだけで充分過ぎる程に強力な魔術を行使出来る。それにマナも練らないから詠唱もしないで時間短縮!!そういう事でしょ?」


 ルミネの読み辛い表情から推察した「お怒りモード気味」を取り繕う様に少女は応じた。その為、というヤツだ。



「えぇ、精霊種はオドにマナをプラスする事で更に強力な魔術を使う事も出来ますが、魔族デモニアはマナが溢れている世界でさえ、マナを使わずオドだけで魔術を行使しようとするのです」


「えっ?!それじゃあ、魔族デモニアはマナを使えないって事?てっきり、魔族デモニアも精霊種と同じで自分のオドにマナを乗せてるものだと…」


「いいえ決して使えない訳ではありませんわ」

「ただその…マナを練るのが苦手というか…時間が掛かるというか、、効率が悪いというか…ま、まぁ時間をかけてマナを練るのであれば、自身のオドを使って魔術を行使する方が早い!というような感覚だと思って頂けると嬉しいですわ」


 ルミネの言葉にしては今までと異なりか歯切れが非常に悪い。それに凄く分かりにくい表現だったがその点について少女は察する事にした。


 要は「マナの練り方を忘れてしまったんだ」と。

 心を読まれたら察した内容がバレるので多少ドキマギしながら。



「なるほど、だから、マナを早く練る方法が知りたい。研究したいという事かしら?」


「それもあります。ただ、わたくしは凄く気になっているのです。何故、、更にマナを練るのか?という事です」


「えっ?それって、どういう事?アタシのオドが魔族デモニアと同じかそれ以上??そんな訳無いじゃない!今までだって、マナを練らなきゃロクに魔術も使えなかったし。そんなオドがあるなら…」


 少女は唐突に紡がれたルミネの言の葉の意味に対して正直なところ全く理解が追い付いていない。だが一方で過去にあった奇妙な出来事を思い出していた。


 少女の記憶の中には確かに心当たりが全く無いワケではない。


 でもそれは特殊な状況になった時に起きた事だ。それ以外に於いては今までと同じでオドのみで魔術を行使した事は無かった。



 ヒト種であれば体内のオドのみで魔術を使う事は基本的にはしない。

 「出来る筈がない」そう教えられているからだ。



 それに戦闘中に微小なオドのみで魔術を使おうものならオド枯渇で意識を失う可能性もありそれは危険な行為と言える。たとえ行使出来ても魔力不足で火力の弱い魔術よりは武器の1つでも振った方がよっぽど効率的にダメージを与えられる。


 それ以前にデバイスを使えばマナを効率よく集められるからオドのみを使う状況には陥らないと言える。


 「オドのみで魔術は使えない」という事を信じきっていた。だからこそ、それに従い今まで試したことすらなかった。



「先程、貴女様のマテリアル体とアストラル体の関係性を少し変えさせて頂きましたと申しましたよね?その時にわたくしは気付いたのですわ。貴女様の中にある膨大なオドに」

「でも、その様子ですと、その事には気が付いてはおられなかったのですわね?」


「えぇ、ルミネに言われるまで知らなかったわ」


「簡単に申し上げますと、貴女様のアストラル体とマテリアル体の関係性を今はフィフティーフィフティーに調整してありますの。だから、容易にご自身でアストラル体の中にあるオドを感じ取れるハズですわよ?」


 ルミネは優しく言の葉を紡ぎ動揺を顔に出しまくっている少女を諭すように話していた。


 少女は今までの価値観が崩れそうで信じられないながらも


 すると確かに何かを感じる事が出来たのである。


 それは過去に感じた事のある自分の中にある何か。


 それが自分の中にあるオドだと感じ取った時、少女は意識を失いその場に倒れ込んでいった。




「さて、ルミナンテ、申し開きはあるか?」


 低く威厳のある言葉が響き渡っていく。


 声の主はこの城の主である。即ち、ルミナンテの父親。ルネサージュ伯爵家、現当主。

 アスモデウス・ネロ・ヴァン・ルネサージュ伯爵その人である。



 黒く長い光沢のある髪を後ろで結びその瞳は赤色に輝いている。

 座っている為に身長は分からないが細身のスラッとした身体に黒い魔獣の革のロングコートを羽織っている。左右の腰にはそれぞれ細剣が差してあるが革のロングコート以外に防具を身に着けている装いではない。


 長い髪や服に装飾品の類を一切身に着けてはいないが左手の五指全てに嵌めている指輪が怪しげに輝いていた。



 そんなアスモデウスはルネサージュ城の玉座にて不機嫌そうな表情をしながら座っている。そして玉座の下で屈み込む様に礼を尽しているルミネには父親の表情が容易に想像出来ていた。



「申開きは無いのだな?」


 威厳のある声は圧を増して再びルミネに対して投げられていく。



-・-・-・-・-・-・-



 少女が自身のオドに触れた瞬間の事。

 少女は自分のオドの暴走に意図せず巻き込まれていった。


 その結果として少女は意識を失った。だが話しはそれだけでは終わらない。

 意識を失った事でその暴走は止める事が不可能となり暴走した膨大な量のオドは逃げ場を求める動物の様に巨大な槍へと変化を遂げた。


 その結果ルミネの私室兼研究室の天井を突き破りになった槍は空へと昇って消滅した。



 アスモデウスは自分の城の中で突如として起こった強大な魔力の波動を敏感に感じ取っていた。そして空へと登る光の槍をその眼で見たのである。


「何かの異常が城の中で発生した」


 そう判断したアスモデウスは光の槍が飛び出した場所即ちルミネの私室兼研究室に原因があると考えそこまで即座に転移した。そしてそこルミネの私室兼研究室でルミネの他に倒れている少女を見つけたのである。


 アスモデウスは倒れている少女の対応を城に勤める執事バトラーに任せるとルミネを玉座の間に招集したのであった。




「では、質問を変える。あの者は何者だ?」

「ルミナンテよ、あの者の事をどれだけ知っているのだ?」


 ルミネは何も解答しない。それはまるで黙秘権を使っているかのようだ。


 アスモデウスは頑として終始無言黙秘権の行使を貫くルミネを見ている内に自分の質問に意味がない事を悟った。


 「ルミナンテは何も知らない」その解答を終始無言黙秘権の行使のルミネから察したのである。

 要はあの少女を庇い無言でいるのではなく(多少はそれもあるのだろうが)のだと考えるに至った。



「お父様、あの者を如何いかがなさるおつもりで御座いますか?」


「あの者が何者か分からない以上、今ここで結論を出す事は出来ない。ヒト種であるならば、偶然「魔界」と繋がった穴に落ちてきたのであろう」

「だが、その方法でやってきた者を。それはお前も分かっておるだろう?」


「はい。それは承知しております。ただ…」


「ただ…何だ?気になる事があるのならば、はっきりと申すが良い」


「あの者はヒト種でありながら、その体内に膨大なオドを抱えており、また、マナを制御する力も持ち得ています。そして、あの者は…」


 先程までの不機嫌な状態ではアスモデウスお父様は何を言ってもダメだろうと考えたルミネは策を打っていた。

 少なくとも話しを聞いて貰えると判断するまでは黙秘したのである。


 そしてその後は撒き餌をした。

 もし撒き餌に喰い付くようならルミネに勝機があると考えていたからだ。

 結果として撒き餌は成功しルミネの口から紡がれ齎された言葉はアスモデウスから言葉を奪った。更にはその自我と冷静さを一時的に喪失させるに至ったと言える。



「こ、根拠はあるのか?根拠も無しにその様な妄言を言えば、例えルミナンテ、貴様でもただでは済むまいぞ!あの者が、などと!」


 アスモデウスの語気は荒くなっていた。

 何故ならばそれはルミネから…。


「あの者は陛下の実子の可能性が御座います」


 …と、言う事を聞いたからである。



 少女に扉をくぐらせて城内の私室兼研究室に招いた際に少女のアストラル体の調整をルミネは行った。

 その時少女のその身の内に秘めた膨大なオドを知りそのオドがこの国の王である魔王ディグラスに極めて近いモノである事を感じ取っていた。



 だが一方で懸念はある。

 何故ならば魔王ディグラスは正妃及び側室を娶っていない。

 従って子供はいないハズである。


 然しながらあのヒト種の少女のオドに魔王ディグラスに近い波動を感じたのもまた事実である。


 更には純粋な魔族デモニアである魔王ディグラスの娘が純粋なヒト種と言うのも抵抗があった。



「お父様、お願いが御座います」


 拠って少女を拾ったルミネの「お願い」にアスモデウスは頭を悩ませる事になった。




「ここは、どこかしら?」


 頭がふわふわしていて何も考えられない。

 自分の身体は感じられるのに自由に動かせない。


「ここは、一体どこかしら?」


 そう言えば自分の名前すら思い出せない。

 何か大事な事をさっきまで覚えてたハズなのにそれはもう思い出せない。




 目覚めるとベッドの上だった。

 天井は白く小さめのシャンデリアのような照明が付いている。周囲には装飾品はおろか家具すら見えない。

 部屋の中心にベッドが1つ。それ以外は扉も窓も何もない殺風景な部屋だった。


 それはの様相と言えた。



 少女は自分の身体を触る。

 身体の隅々に至るまでように入念に触った。

 装備は何も身に着けていない。武器も防具もデバイスも全てだ。そして、それらは


 一方で服は着ている全裸マッパというワケではない。

 股や胸元はスースーするから下着は身に着けていないと思う。いや、ように触ったから知っている。

 下着は着ていない。一方でそれはそれで恥ずかしいし着替えさせてくれた誰とも知らない人に全裸マッパを見られたと思うと更に恥ずかしさがこみ上げていた。


「恥ずい///恥ずかしくてしんじゃいそぉ」



 ところで着させられている服は寝間着だろうか?肌触りがとても良い。

 蒼い銀色のこんな材質は知らない見た事ない。一見するとシルクの様にも見えるが「魔界」にあるのだろうか?一体なんの素材から出来ているのだろう?

 そうやって考える事でこみ上げた恥ずかしさを抑える事に必死だった。



 そんな事を考えていると段々と恥ずかしさは徐々に薄れていった。少女はベッドに縛り付けられているわけではないので起き上がってみることにした。

 それは好奇心が大いに優勢だった。



 寝間着と思っていたのはドレスだった。

 サラサラとなびくような美しい蒼銀のロングドレスだ。多少、胸元が余っているが気にしない。

 気にしたら負けだ。

 多少じゃないが多少と言いたいお年頃であって


 話しを戻すと首周りには白いレース、裾の部分にはフリルがあしらわれていてとても可愛らしい。

 一見すれば子供向けの絵本の中にあるどこかの大きな国のお姫様のようにも見える。だがこんな姿を口の悪い知り合いに見られでもしたら「馬子にも衣装」とか「似ても似つかない」とか「着させられている服が可哀想」などとバカにされるかもしれない。

 そんな事を考えるとイライラしてくるがこう見えてアタシもオシャレしたい女の子に変わりはないと悟らされた。

 まぁ、普段は絶対にしないし自分の屋敷にこんな服は一着もないが。


 ところでこのドレスはどこかで見たような気もするけど…などと考えていると少女の前に見覚えのある扉が現れていった。

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