不思議なカレラ アタシとルミネと魔王と銀髪編

酸化酸素 @skryth

えっ?!アタシ異世界来ちゃったの?

第1話 始まりと戦闘とマナと研究者 前編

「ここは、どこかしら?」


 暗い世界で1人の少女が呟いていた。

 周囲に建物は一切見えず、見慣れない草木や花が暗い世界にも拘わらず見受けられる。しかしどれも色彩を放ちその形は異形だった。


 空に陽の光はなく、一面の暗闇だがっすらと良く分からない何かが光っていて、周囲の様子がこれまたっすら見える程度だ。


 そうまるで月と星だけの灯りしかない深夜の様だと言えば伝わりやすいかもしれない。


 然しながら記憶がある限りではそんな時間帯に出歩いてなどいない。



「武器はある。デバイスもある」

「デバイスがあるなら…」

「デバイスオン、暗視モード」


 少女は夜目に慣れていない事もあって手探りで自分の身体を触り装備を確認していった。そして自分の武装とデバイスがある事を確認すると、デバイスの機能を使ってこの暗い世界の全容を確認する事にした。



きーーーん


「えっ?!うそッ!」


 少女が出した命令に従って甲高い音を立てつつデバイスが起動していく。だがデバイスが暗視モードを起動させると、今度はそこに一瞬で明る過ぎる世界が広がっていった。


 当然の事ながら少女は困惑した。加えて言うならば慣れつつあった夜目も再び失った。



 周囲が暗い状態でも星1つの明かり程度で充分過ぎるくらい周囲を認識出来る暗視モードだ。だが何故か空も大地世界も植物でさえも自らが発光していて明る過ぎるくらいの光量がそこにはあった。

 要するにくらいに鮮明としている情景が、一瞬で広がったのだから当然困惑もする。



「何これ!?デバイスが壊れた?!」


 状況が掴めない。理解が追いつかない。思考回路はオーバーヒート気味。

 そんな中でやっと絞り出せた言葉であった。


 結果として少女は暗視モードを1回切ることにした。そして無情にも再び世界は暗闇に包まれていった。



 困惑が困惑を呼び様々な考えを錯綜さくそうさせながらも少女は、現状の置かれている状況を冷静に考えていく。


 然しながら結論には至らず状況を打破する事も叶わず、途方に暮れる直前で事態は急速に動いていった。



「殺気?!」


 少女は自分の後方から自分に向けられた殺気を感じ取っていた。


 当然の事ながら状況は決して良いとは言えない。否、むしろ悪い。

 悪過ぎるくらいだ。


 デバイスの暗視モードでは目も開けられないくらい明る過ぎて戦闘どころではない。

 暗視モードを切れば暗過ぎてそれはそれで戦闘どころではない。

 夜目に慣れれば多少変わるかもしれないがそれもさっき失われた。だが一方で少女は殺気を機敏に感じ取り、戦闘態勢に入ってからの行動は実に冷静だった。


 少女は自身のデバイスの機能を探索モードに切り替えると目として使う事暗視モードを諦めた。使い物にならない自身の目も周囲の状況把握に使う事を止めた。


 要はデバイスを探索モードにして、敵の位置情報を自身の目で追う事で自分と敵との距離感を取ろうとしたのだ。

 限りなく不安定な闘い方だがその両手には少女の愛剣とも言える大剣グレートソードディオルゲートがしっかりと握られていた。

 自分の直感と感性と感覚、更には愛剣を信じているが故の戦闘方法だと言える。



 殺気はゆっくりと近付いてくる。感じ取れる数は全部で5つ。等間隔で扇状に横に広がっている。

 自分の事を包囲するつもりなのかもしれない。


 自身の目で現況を把握するよりもデバイス上にある光点を追うのは煩わしかったが現状に於ける最善はそれしかなかった。



「先に仕掛けるべきか、それとも…」


 相手の姿形が分からない以上先制の有利を取るべきかどうかは一種の賭けだ。だがその矢先に殺気の内の1つが速度を上げ、真っ直ぐに自分目掛けて向かって来るのがデバイス上に示されていった。



「速いっ?!」


 驚きの声を漏らすのと同時にデバイスからアラームの音が鳴り響いていく。

 少女はその音に負けじとその手の中にある愛剣の柄を強く握り締めていった。



ひゅんっ


 空気を切り裂く音が響いていく。然しながら少女の愛剣にもその重さが伝わる腕にも手応えは全く無かった。



 少女は向かってくる殺気に対し正対し愛剣を低く構えると深呼吸した。

 少女の瞳が見詰めるデバイス上の光点が、自分と重なる段階で半歩左斜め後ろにステップ取る。

 これまでの戦闘に於ける経験や戦闘能力センスといったもので攻撃を躱し(たと思っ)てから愛剣を横にいだ。だが虚しくも愛剣は空を斬っただけだったようだ。



「くッ!」

「あのタイミングでこっちの剣撃は当たらないのに、向こうは当ててきた?!」

「ちゃんと視界がハッキリしていれば…」


 少女はうめき声を漏らした。何故ならば右の肩口に鋭い痛みが奔ったからである。そして少女は口をとがらせ納得がいかない感じといった表情だ。


 暗闇で相手の存在をロクに確認出来ず、タイミングを合わせても斬る事が出来ない相手。


 これが視認出来る状態であれば事態は収束に向かっていたかもしれない。だがこの危機的状況に於いてはタラレバの話をしても意味がない事は百も承知だった。



 現状で後方の4つの殺気は止まっている。

 それは先に攻撃してきた殺気のみが自分の前にという事を示していた。


 先のすれ違いざまの一撃の後で敵は追撃してこなかった。

 まぁよく見えない為に実際は全く分からないが



「追撃が来ないなら」

「えっ?これは一体どういう事なの?」

「傷が…ない?!」


 少女は自身に付けられた傷口に手を当て手探りで傷の度合いを確かめる事にした。今は戦闘中だが傷の度合いによって大剣グレートソードが振れなくなり武器の変更を余儀なくされるからである。


 だが結果として困惑する事になった。



 確かにさっき右の肩口に鋭い痛みを感じた。そして今も鈍い痛みを感じている。

 なのに傷は無い。



「これはどういうコト?」

「アタシは一体何と闘っているっていうの?」

「そもそも、ここは一体どこなんだろう?」


 傷口のない切り傷。そう形容する事しか出来ない痛みが右の肩口にある。

 もう意味が分からない。全く理解出来ない。


 少女の困惑は更に困惑を呼んでいった。そしていくら困惑しても今の危機的状況に変わりは無い。



 再びデバイスがアラームを鳴らす。それは自分に相対あいたいしている殺気が自分に近寄ってきている様子を示している。


 少女は咄嗟に考えを巡らせると愛剣での攻撃を止める事にした。それ故に愛剣を大地に突き刺すと自身の両の掌にマナを集めていった。



「えっ?!」


 何回目かの困惑。こんな短時間で困惑し過ぎと言える。だが決して情緒不安定になっている訳ではない。

 思考回路が理解出来ないコトだらけにである。



 少女は剣での攻撃を諦め魔術を使うべく掌にマナを集め始めたのだが普段と勝手がどうにも違う。

 マナが集まり過ぎている。いや、むしろ集まり過ぎて暴走を


 それは少女を中心にしてマナが暴風を巻き起こし、マナの竜巻が発生していたとも言える。だが自分が竜巻の中心にいると言う混沌こんとんとした状況の中でも少女は実に冷静であった。



「やっぱり、ここは地球じゃない。地球ならこんなにマナは濃くないし、こんな暴走するまで集める事は出来ない」

「それを前提にするなら、この場所は…敵の正体は…闘う方法は…」


 そして少女は現状の積み重ねから考え1つの可能性を見出すに至った。



 この状況に殺気の主は困惑していた。

 突然狙っていた獲物を核とする様にマナの竜巻が発生したからである。これでは不用意に近付く事も出来ない。


 近付けば竜巻に巻き込まれ本能が告げていた。従って今は機会をうかがうことしか出来無いのであった。



追尾するセミタ・ルクス・光の槍兵マイルズ・ハスタム・24ミリテス


征聖光槍サンクトゥス・ハスタ!」


 少女は魔術を詠唱した。いや、こんなのは本来ならば詠唱したうちに入らない事は理解している。だが、これだけマナが暴走しているのだから略式でも充分に構わなかった。



 少女の周囲にあった膨大なマナはその魔術力ある言葉に従い光の槍兵の姿を形造っていく。こうして形造られた光の槍兵達は、少女に殺気を向けていたに襲い掛かっていった。



 少女と相対していた殺気の主。そして少女と距離を取り様子を窺っていた4体全てが、魔術力ある言葉によって生み出された光の槍兵に抵抗する事なく槍で貫かれ霧散していった。


 役目を終えた光の槍兵は虚空こくうへと光の余韻を残し消えていく。こうして辺りは再び静寂の暗闇に包まれていった。



「ふぅ。なんとかなったわね」

「でも、これからホントにどうしよう?」

「ねぇ、誰か教えてよーーーッ!」


 少女はひとまず去った危機的状況からの解放に安堵し、その場にへたり込み座っていた。

 そして助けを求めていた。




「何か途轍とてつも無い力の波動を感じますわ」


 神殿の様な静謐せいひつな空間にたたずむ1人の少女は、遥か遠方で起きたマナの竜巻を機敏に感じ取っていた。


 赤と蒼のオッドアイの瞳。腰にまでかかる銀色の髪。透き通る程白くキメが細かい肌。たわわに膨らんだ双丘に今にも折れそうな腰の線。身に纏っているのは蒼味がかった銀色のドレス。ほっそりとした手には大きな宝石の付いた銀色の杖。


 スタイルが良く整った顔立ちの美少女とも言えるこの少女は、この場所で魔術に関する研究を行っていた。

 そんな時の出来事であった。



 彼女はこの国の貴族・ルネサージュ伯爵家の当主の娘。名前をルミナンテ・ウル・ルネサージュと言う。通称はルミネだ。



 貴族の娘として生まれた彼女は若い内から魔術に於ける才覚を示し、その才能はこの国の王に一目置かれる程であった。そして王から一目置かれた結果父親より、ルネサージュ城の中にある蔵書の閲覧並びに私室兼研究室が与えられた。


 要は恵まれまくった研究者…と言った感じである。



「お父様の領内は、この国の中でも確かにマナが濃いのですけど、先程の波動は自然発生したモノとは考え難いですわ。」


 ルミネは自身が感じ取った波動に対して「何故起きたのか?」の結論を出そうと自問自答していく。



「様子を見に行きたいですわね。でもこの城から出るにはお父様の許可が必要になりますし、どうしましょうかしら?」


 ルミネは自問自答した結果「今すぐに現地に行ってみたい」とそんな衝動に駆られていた。それは研究者故のさがみたいなモノとも言える。

 拠って見た目からは想像もつかない程にお転婆だった。


 だが彼女は研究者である以前に貴族の娘なのである。歳の若い貴族の娘がひょこひょこと城の外に出て良いハズがない。あるワケは当然ない。

 それは当たり前の事だ。


 だからこそ無断で外出した事が知られれば父親からの叱責しっせきまぬがれない。そればかりか下手をすれば私室兼研究室を取り上げられた上に自室に幽閉され監禁さえもあり得る。

 そんな事は断固反対願い下げだった。



「こうなったら、とっておきを使う事に致しましょう」


 ルミネは言の葉を紡ぐと手に持っていた杖で空中に陣形を描いていく。ルミネは詠唱の言葉を発する事もせずに自分が描いた陣形からルミネそっくりの人形を出現させていった。ルミネは自分そっくりの人形の眼を見て小さく言の葉を紡いでいく。


 するとその言の葉を受けた人形はルミネに対して頷くとドレスの両端を軽く持ち上げ足を軽く曲げ行儀よく礼をしていた。



「これから、わたくしはちょっと出掛けて参りますわ。わたくしが戻って来るまでの間に何かありましたら、わたくしの代わりに対応して下さるかしら?」


「かしこまりました。マイ・マスター」


 ルミネは人形に指示を出し人形は普段のルミネが仕草や行動をしていた。



 ルミネは魔術の才能に恵まれていた。

 攻撃や回復、補助だけに留まらずその他のありとあらゆるジャンルの魔術まで身に付けていった。それは基本属性に囚われず無属性でも同じだった。


 更に使う事の出来る基本属性はでありこの国、否、この世界で唯一全ての属性を使う事の出来る者と言えた。



 ルミネが作った人形は自分と全く同じ基本性能を持った魔力製素体ホムンクルスである。魔術レベル的にはオリジナルを超える事は出来ないがそれでもある程度までは行使する事が出来る。


 更にはその素体にルミネの精神を一部定着させている事からよっぽどの事がなければ偽物と見抜かれる事がないという逸品だ。



「さてと、わたくしの身代わりは人形に任せましたので、わたくしは早速、向かうと致しましょう」


 ルミネはウキウキした様子で言の葉を紡ぐとも楽しみと言いたげな表情で再び杖を掲げ空中に陣形を描いていく。描かれた陣形は姿を変えるとルミネが通れるサイズの扉へと変化しルミネはその扉をくぐり中へと入っていった。



 ルミネが扉に入るとそこにあった扉は何も無かったかの様に小さな光の粒子の余韻を残して消えた。

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