4. Jewelry Pupiy

CASE 四郎


ガチャッ。


「あー、シャワー浴びてー。」


「さっさと済ませてリビングに行こう。」


玄関が開き、リビングに入って来たのは一郎と二郎の2人だった。


「お帰りー。ボスは30分後に来るからシャワー浴びて来ても大丈夫だよ」


七海が2人に向かって声をかける。


「分かった。」


「了解ーさっさと血を流してくるねー」


パタパタパタ…。


2人がリビング出た後、七海が俺に話しがけて来た。


「四郎も浴びて来たら?ベトベトして気持ち悪いでしょ」


確かに、俺の体は汗や返り血でベト付いていた。


俺は吸い終わった煙草を灰皿に押し当て、腰を上げる。


「あぁ、すぐ戻る」


「ごゆっくりー」


カタカタカタカタ…。


七海はそう言って、再びキーボードを打ち始めた。


リビングから出た俺は、自分の名前がローマ字で書かれているプレートの部屋に入る。


ガチャッ。


7.5畳の部屋には、少し大きめのベットとテーブルに服が入れられているクローゼットしかない。


クローゼットの隣にある扉を開けると、普通のシャワールームより少し狭いシャワールームが現れた。


服を入れる籠(かご)に返り血が付着した服を入れ、シャワールームに入る。


シャァァァ…。


汗と鉄の匂いを落とした後、適当に頭と体をタオルで拭く。


黒いスウェットのズボン、大きめの黒いTシャツに着替えた。


着替えを終え部屋から出て、再びリビングに向かう。


「テメェ、三郎!!俺のアイス食っただろ!?」


リビングから、五郎の怒りに満ちた声が聞こえてき

た。


また、三郎が五郎に悪戯したんだろうな。


アイツ性格悪いからな。


そう思いながら、リビングの扉を開けた。


五郎が三郎の胸ぐらを掴んでいる姿が目に入った。


「あはははー。名前書いてなかったから仕方なくない?」


「名前書いてあるのに、その上から塗り潰してあるんだよ!?お前がやったんだろ!?」


「えー、そうだっけ?」


「とぼけんじゃねーぞ!!!」


やっぱり、三郎の仕業だったか…。


「おいおい、アイスなら俺が買ってやるから、機嫌直せ?」


半袖のTシャツを着ている二郎が五郎を宥め始めた。


二郎の左腕には、蛇と蓮の花の入れ墨が見えている。


「三郎、アンタも五郎の事イジるのはやめなよ」


白い右足の太ももに雪の結晶のタトゥーを見せている六郎が、呆れた顔をして三郎に声をかけた。


「六郎の言う通りだ。三郎、五郎の反応を見て面白がってるんだろ?」


六郎に便乗して、一郎も煙草を吸いながら三郎に話し掛けた。


「すぐ怒る所が面白いんだから、仕方ないよねー」


半袖のTシャツから見える三郎の両腕には、沢山のワンポイントのタトゥーが彫られていた。


ここにいるメンバーよりも、タトゥーの数が多いのは三郎だ。


「あ、四郎!!お疲れー。ここ、座りなよ」


俺に気が付いた三郎は、笑顔でポンポンッと自分の隣を叩いた。


「あぁ」


俺は短い返事をしてから、三郎の隣に腰を下ろす。


「今回の任務も1人で行ったんでしょ?俺も連れてって欲しかったなー」


「お前は五郎と一緒の任務があったんだろ。」


「そうなんだけどさー。いつも俺と一緒になるじゃん?」


「たまたまだろ」


「何だよ。俺と一緒だったのが嫌だって、言い方すんなぁ、三郎」


俺と三郎の会話に五郎が入って来た。


確かに、今の三郎の言い方は五郎が入って来てもおかしくねーな。


「五郎、今のはコイツの悪い癖が出ただけだ」


「ッチ」


俺の言葉を聞いた五郎は、苛々しながら煙草を咥え

る。


カタカタ…カタ。


キーボードを叩いていた七海の手が止まった。


「ボスが着いたって」


七海の言葉と同時に、ガチャッと玄関の扉が開いた。


パァッと表情が明るくなった六郎が足早にリビングから出て行った。


「お帰りなさいボス!!」


「おう、六郎。変わりはなさそうだな?」


「変わりは特に…。それよりも、もっと帰って来て下さいよボスー。」


六郎はボスに好意を抱いている。


だからボスが帰って来ると、真っ先に玄関に向かって行く。


「おい、六郎。あんまり我が儘を言うんじゃねーぞ。頭だって暇じゃねーんだぞ。」


「伊織(いおり)に話してないし。」


「お前なー。」


ガチャッ。


廊下の話し声と共にリビングの扉が開いた。


俺達はソファーから立ち上がり、ボスに頭を下げる。


「「「お疲れ様です。ボス」」」


そう言ってから、俺達は顔を上げた。


俺達の目の前に現れたのは、艶やかな短い髪は後ろに全て流されていてる。


右頬には大きな切り傷があり、右目は黒い眼帯で閉ざされていた。


「おう、お疲れさん。楽にしてくれ」


ボスに言われた通りに、俺達はソファーに腰を下ろす。


兵頭会(ひょうどうかい)組長、兵頭雪哉(ゆきや)52歳。


俺達、Hero Of Justiceを作り上げた人物だ。


そして兵頭雪哉の隣に居るのは、岡崎伊織47歳。


髭を丁寧に整え、パーマのかかった黒髪の前髪からは鋭い目付きの男。


ボスの右腕であり、四郎達を殺し屋に育て上げた人だ。


「悪いな、集まって貰って」


「全然!!あたし達はボスの為に動いてるんだから!!」


ボスの隣に座っている六郎が、ニコニコしながら話した。


そんな六郎の髪をボスは優しく撫でる。


「ボス、今回の任務はかなり大きいんですか?」


そう言葉を放ったのは、一郎だった。


「あぁ、5月に行われる闇市場オークションの事は七海から聞いてるか?」


七海から毎月、オークションや闇市場の情報。


それからターゲット情報に、ターゲットが関係しているニュースなどがメンバーのタブレットに送られる。


「はい。もしかして、そのオークションが今回の?」


察しの良い二郎がボスに尋ねた。


「あぁ、二郎の言う通りだ。今回の任務はオークション会場に潜入し1人の少女の奪還だ」


「…奪還ですか?」


俺は思わず声が出てしまった。


今までなら救出が主な任務だったのに、ボスの口から奪還と言う言葉が出て来るとは思わなかった。


「あぁ、何が何でもこの子を奪還して欲しいんだ。七海、データをタブレットに送ってくれ」


「了解」


カタカタカタカタ…。


ブー、ブー。


持っていたタブレットが振動した。


メンバーはタブレットに一斉に視線を向ける。


添付されていた画像を見て、目を奪われた。


白金の長い髪、真っ白な肌に真っ白な睫毛、宝石のように美しい水色の瞳の少女が映っていた。


プロフィールに目を通すと、アルビノと言う種族で名前は"モモ"としか書かれていなかった。


アルビノは闇市場でもかなり人気で、アルビノの血を飲むと不老不死になるとか。


アルビノの手足を持っていると願いが叶うと言われている。


今まで、多くのアルビノの人間が被害にあっている。


「アルビノって…、七海と同じなんですねー」


三郎はそう言って、七海に視線を向けた。


七海はアルビノと言う種族で、ボスが市場から拾って来た。


「そうだね。ただのアルビノでも価値はかなりあるのに、この子の瞳、Jewelry Pupil(ジュエリーピューピル)でしょ?」


「えっ!Jewelry Pupil!?」


七海の言葉を聞いた二郎は、大きな声で叫けんだ。


俺も七海の言葉を聞いて、改めてプロフィールに目を通した。


Jewelry Pupil。


その名の通り本物の宝石のように美しい瞳で、世界に数人しかいないと呼ばれている希少種。


その瞳を持つと、莫大な富と名声を得ると言われている。


Jewelry Pupilを持った人間は瞳をくり抜かれた状態で発見されるなどと言う事件もあるくらいだ。


本物の宝石よりも輝かしいJewelry Pupilをコレクションにしたい者も多いと言われている。


このモモと言う少女は水色の宝石、アパタイトと言われる宝石のJewelry Pupilらしい。


「あぁ。この子はアルビノでありJewelry Pupilを持っている。お前達には何が何でもこの子を奪還して欲しい。傷1つ付けずに」


ボスはそう言って、俺達に視線を向けた。


傷一つ付けずに…?


そんな事、今まで言われた事がなかった。


親に虐待を受けている子供や、売られそうになっている子供を保護した事はある。


だがボスが少女の名前を呼び、俺達に1人の少女を奪えと言う。


このモモと言う少女に、どれだけの価値があるんだ?


ボスがどうしても欲しいのは、Jewelry Pupilだけなのか。


それとも別の理由があるのか。


そんな事は俺には分からない。


それでも、俺達はどんな理由だろうとボスの命令には従う。


ずっとそうして来たからだ。


「分かりました。必ずこの少女を奪還してみせます」


一郎はそう言ってから、ボスに視線を向けた。


「五郎にはスナイパーの仕事に徹して貰う。モモを連れ戻そうとする人間は殺せ」


「それは、闇市場以外の人間でも?」


「あぁ」


「了解」


「五郎以外のメンバーはオークション会場に潜入し、モモのオークションが始まる前に回収したい所だが、最悪オークションが始まってからでも構わない」


五郎との会話を終わらせたボスは、俺達に指示をして来た。


「殺す人間は、五郎と同様の理由の人間だけで良かったですかボス」


「それで構わない。オークションの日程とスケジュールは後日、七海に送る。伊織の指示にしたがって

行動するようにしてくれ」


そう言って、ボスはソファーから腰を上げた。


「もう、行っちゃうの?ボス」


「悪いな六郎。この仕事が終わったらゆっくり飯でも行こう」


「本当!?」


「あぁ。俺は嘘は嫌いだ」


「うん!!分かった!!この任務、頑張る!!玄関まで送るらせてボス」


「今日はもう休んで良い。また連絡する」


一瞬だけ俺達の方を見たボスは六郎と共にリビング

を出て行った。


「明日また来るから、夜は帰って来とけよ。」


伊織が俺達に向かって声をかけてくる。


「えー。俺、夜中まで帰って来れないんだけど」


「さっさと片付けて帰って来い」


「出た、伊織の無茶振りー」


「分かったか三郎」


伊織は低い声を出して、三郎の言葉を遮った。


「分かりましたよー」


三郎も観念した様子で返事をした。


伊織は足早にボスの後を追い掛けるように、リビングを出て行く。


「一郎、ボスが呼んでるー」


そう言って、リビングの扉からヒョイッと顔を覗か

せたのは六郎だった。


「分かった」


一郎と六郎が入れ替わるよう、にリビングを出て行った。


「本当にJewelry Pupilっていたんだね。見た事がなかったから迷信だって思ってたけど」


「スタート価格を見ろよ二郎。1億だぞ!?1億!!今までこんな価格を見た事ねーよ」


「うわぁー、こんなのいくらで落札出来るんだろうね」


二郎と五郎は、呑気に価格の話で盛り上がっていた。


ボスが家を出て行った事を確認した俺は、ソファーから腰を上げる。


隣にいた三郎が顔を上げ、あるの顔を見つめた。


「あれ?もう寝るの?」


「あぁ、ボスの話も終わったしな」


「そっかー、おやすみー」


「おやすみ」


俺は三郎にそう言ってから、リビングを出て行った。




「お呼びですかボス」


兵頭雪哉に呼び出された一郎は玄関に向かい、兵頭雪哉に声を掛けてた。


「一郎、今回の任務で大きく変わる。この先、何があってもメンバーを大切にしろ」


「はい。でも、変わるのは貴方もですよね?ボス」


一郎の言葉を聞いた兵頭雪哉は、ポケットから煙草を取り出す。


兵頭雪哉は慣れた手付きで煙草を咥えると、岡崎伊織がライターを取り出し火を付けた。


「一郎、ちょっと外に出ろ」


「分かりました」


一郎と兵頭雪哉、岡崎伊織は玄関を出た。


長い廊下を歩きながら、兵頭雪哉が口を開き言葉を放つ。


「モモを必ず奪還しろ。何年も探し続けてやっと見つけたんだ。一郎達を拾い殺し屋に育て上げた理由は、分かってるだろ」


兵頭雪哉の言葉を聞いた一郎は、少し黙ってから口を開けた。


「はい。俺達はこの為とこの先の為にボスに拾って貰いました。任務は必ず成し遂げます。たとえ、そ

れで命を落としても」


「伊織、行くぞ。


「はい、頭」


歩き出した兵頭雪哉の背中に向かって、一郎は深く頭を下げる。


チーン。


エレベーターに乗り込んだ兵頭雪哉は、深く溜め息を吐いた。


「頭、大丈夫ですか?かなりお疲れのようですが」


「疲れてるのはいつもだ。それよりも、オークション会場のマップと参加者達のリストはどうなった」


「こちらでございます」


岡崎伊織はそう言って、ファイルを兵頭雪哉に渡した。


チーン。

立体駐車場に着いた兵頭雪哉と岡崎伊織は、止めて

ある黒のメルセデスに乗り込んだ。


後部座席に座ってからファイルを開けた兵頭雪哉は、紙をじっくり見つめて行く。


運転席に乗り込んだ岡崎伊織は、静かに車を走らせた。


「やはり、"アイツ"も参加するか…」


「狙いはやはりあの少女でしょうか」


「あぁ。アルビノの売買とJewelry Pupilをコレクションにしたいんだろう。昔のようにな」


グシャッ。


そう言った兵頭雪哉は、紙を握り潰した。


「アイツを殺すのは俺だ。もう、あの日の惨劇を繰り返したくねぇ…。そうだろ?拓坊(たくぼう)」


「頭…」


窓の外から月を眺める兵頭雪哉を岡崎伊織は、フロントガラス越しで見る事しか出来なかった。



オークション開催まで、3日

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