第17話 気になる書物

 今日は朝から、雨が降っている。

 元の世界では、嫌でしかなかった雨だ。

 こんな日は、心がざわざわする。

 このざわざわは何処から来るのか考える。


 昨夜 妙な本を見つけた時から、このざわざわは始まっていたのかも知れない。


 書庫の本を、片っ端から読みあさる毎日。龍と人との それは、悲しいものが 思いのほか 多いのだ。

 その中に、ひときわ古い本を見つけた。見逃しそうな薄い本だ。ぼろぼろの表紙には、古いだけではない 何度も開かれた跡がくみ取れた。タイトルが読めないけれど、龍の紋様が施されていたのだ。

 なにか言いしれぬ期待を感じ、いざ と表紙を見開く・・・

 全く 読めない・・・

 見たこともない文字のうえ、中は更にぼろぼろときている。


 これは、なにか違う・・・


 文体 段落 余白 どれを とっても、書物と云うより日記を感じさせた。華奢で流れるようなフォントは、どことなく女性の白い手を連想させる。

 なにが書いて有るのだろうか。

 もしも、日記であるならば わたしが読んでいいものなのか。以前 自分の好奇心を満たすために、陛下様を傷つけている。同じ事をまた、繰り返そうとしているのではないのか。なんでもない物かも知れない。だけれど もしも、日記であるならば このまま誰にも閲覧されないままに朽ちていくべきなのではないか。

 もしも、日記であるならば ・・・




 どっぷりと沈む心が今日の雨を呼んでしまったのかも知れない。


 心の赴くままに、雨の庭園を散策する。

 更に雨足は強くなり、心のざわざわを打ち付ける。

 宛もなく進んで行くと雨は城の外れにある湖をも打ち付け、湖面を泡立たせていた。

 わたしは立ち止まり、その光景をぼんやりと見つめていた。

 どれぐらい経ったのだろうか、背後に気配を感じ振り返ると、陛下様がそこに居た。


「凛、大事ないか?」


 わたしは、こくりと頷いた。

 陛下様はわたしの傍らに立ち、黙って泡立つ湖面を見つめている。

 そして、わたしも泡立つ湖面に再び目を向けた。

 心のざわざわが何であるのかは分からないけれど、陛下様と一緒に居ると、不思議に消えていったのだった。

 わたしは陛下様に何を求めているんだろう。

 陛下様はわたしに何を求めているんだろうか。

 分からない事がまた、増えてしまった…


「凛。そんなに、困った顔をするでない。

 これ程、頼りになる男がそばにいると云うに、一人で悩むでない。」



「あぁ… 国王陛下様。

 あの時、泣いてましたよね。」


「凛…

 そこを蒸し返すか…」


 わたしは、なんだか急に意地悪したくなってしまったのだった。

 身の置き場のない心が、陛下様に甘えてしまったのだ。


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