第28話 今後の方針

―――ジューー


「……ぅん?」


 レイスは何かが焼ける音で目が覚める。目が覚めた場所はカミラの部屋のベッドの上。受付で騒動を起こした後、レイスはカミラによってここまで運ばれていたのだ。


 ただ、時間的にはすでに1日たって、事件の日から二日目の朝となっていた。


 レイスはベッドから降りていつものルーティンを行う。今日は体がだるいという感覚はなかった。おそらく、メイソンの回復魔法の効きが良かったのだろう。


 ルーティンを終えてレイスは部屋を出る。部屋を出ると、いつものようにカミラが鼻歌交じりで朝食を作っていた。


「~~♪」


 レイスはお世話になりっぱなしな彼女に、これから不義理なことを伝えなければいけないことに申し訳なさを感じて、挨拶をすることができず、扉の前で少しの間棒立ちになっていた。


「~♪あ。ああー-!レイ君起きてる!おはよう!どうしておはようって言ってくれなかったのよ!もうすぐ朝ごはんできるから席座って待っててね!」


 レイスが突っ立ていることに気づいたカミラはレイスに席に座るように促す。そしてその後彼女は素早く朝食を作るとレイスの前の机に並べていく。


「よし!いろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず食べよっか!」


「うん。いただきます。」


 レイスは元気なさそうにご飯を食べ始める。しかしご飯を食べ進めていくと次第に調子が戻ってきたのか、笑顔になりながら朝食を食べ進める。


「今日はねえ、トマトと鶏肉が余っていたからトマトで鶏肉を煮てみたよ!その顔を見る限りレイ君の口にあったみたいだね!」


 レイスは口を真っ赤にしながら黙々と食べ続け完食する。しかし食べ終えた瞬間に笑顔は引っ込み少し不安げな表情をする。


「あのね、カミラに大事な話があるんだけど……。」


「うん。なんとなく分かってたよ。レイ君は気を抜いてるとき顔に出やすいからね。」


「え、本当?気を付けなきゃまずいな。」


「まあ私相手にはそのくらいで大丈夫だけどね!それで大事な話って言ったけど、とりあえず、一昨日ギルド出ていってからのことを順序立てて話してくれる?」


 レイスはカミラに順序立てて説明を始める。高速で門に向かったこと。門に着いてすぐに火球をぶっ放したこと。強化されたモンスター2匹と戦ったこと。魔物が蘇ったけど2番隊隊長が雷で殲滅してくれたこと。次起きたらその隊長の家だったこと。そして、隊長とこれからのことを決めたということ。


「それで大事な話って言うのが、これからのことなんだけど……。」


「うんうん。その前に一つ聞いていいかな?」


「うん、いいよ。」


「私は戦力の把握だけをレイ君に頼んだのに、何で勝手に戦闘してるのかな?」


 カミラは少し圧を強めながらレイスに問いかける。


「え、えっと……その、ぼ、僕がいなかったらみんな危なかったから……?」


「だからってレイ君が命を懸ける必要はないの。彼ら兵士はレイ君のような街の中にいる人たちを守るために働いているの。だから彼らは命を懸ける義務がある。でもレイ君にはその義務はない。確かに冒険者も命を懸けなければならないけど、今回私が許可したのは戦力の把握だけ。だから命を懸ける義務はないの。レイ君の義務は冒険者ギルドに情報を持ち帰ることだったんだから。戦うなとは言わないけど、せめて自分の義務は果たしてから自由にしなさい。そうじゃないと周りの人に迷惑をかけるんだから。分かった?」


「うん。」


 レイスは淡々と説教されていたが真摯にその言葉を受け止めていた。悪いのは完全に自分だったと自覚しているからだ。


「……でもね。」


 カミラはいったん言葉を区切って、レイスの対面に座っていた席を立ち、レイスの傍に寄る。


「結果的に、レイ君の判断は正しかった。レイ君がいなければおそらく被害は拡大していたからね。それこそ4番隊は全滅していたかもしれない。怖くて辛かったかもしれないけど……よく頑張ったね。」


 そして、座っているレイスをぎゅっと抱きしめる。


 レイスの感情はぐちゃぐちゃだった。カミラに申し訳なさを感じていたのにカミラの優しさに触れてその温かさを知り、ついつい甘えたくなってしまう。それでも自分は自立しなければいけなくて、これからは一人で生きていかなくてはいけなくて、それで。


「ぅう……う、うわあああーん!カミラお姉ちゃああーん!!」


 どうしようもなく涙があふれてしまった。レイスは【スクリク】が2度発現したといってもまだ7歳。どれだけ子どもでは考えられない戦闘を行っていようと、どれだけ口が達者でも、気を抜いてしまえばただの7歳児。感情を完璧に制御するなど不可能なのだ。


「よしよし。気が済むまで泣いていいからね。」


 カミラはそんなレイスの頭をなでながら好きなだけ泣いていいと言う。レイスはカミラに抱き着きながらしばらくの間大粒の涙をたくさんこぼした。それこそ胸の間に水溜りができるのではないかというほどに。


 そうしてしばらくしてレイスが泣き止んだ。気分が落ち着いてきて本題に入らなければという思いが少しずつ強くなってきたからだ。


「カミラお姉ちゃんありがとう。……それから、大事な話、聞いてくれる?」


「もちろんよ。たとえレイ君がどのような選択をしようと、私はそれを応援するよ。」


「もしかして、今から僕が何言うか分かってるの?」


「ほんの少しだけね。まあ私はレイ君のお姉さんだからね!レイ君のことなら何でも分かるのよ!」


「ふふっ、なんだそれ。」


 少し胸を張りながら自慢げに話すカミラを見て苦笑するレイス。そして心が軽くなったところで本題を切り出す


「カミラお姉ちゃん。僕、王都に行って軍の大学校に入るよ。」




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