第24話 1番隊―襲撃ー

(*街の中央付近)


「あれは何だったんだ。」


 そうつぶやくのは1番隊隊長ディラン。わずか16歳にして【スクリク】なしの戦闘なら最強とまで言われる鬼才の持ち主にして、海属性しか使えない“ユニーク”。


 そんな彼がぼやいたのはつい先ほど起きた出来事について。




***

 ラトビアン公が突然王都からここドミナスに来られ、ダンジョンに潜りたいと言われたので、護衛の申し出をしてダンジョンまで案内している最中のこと。


 ディランは突然上から何かの気配を感じた。が、そこには何もなく、他に護衛についていた王都からの護衛の人も何も反応を示さなかった。


 しかし、だからといって警戒を解いていい理由にはならない。ディランは自分がこの中で最も強いことを知っている。それゆえ、彼らが気付かなくても自身だけが気付いている可能性があることも考慮に入れていた。


 そしてその考えは正解だった。


 異変はますます大きくなる。しかし上空には何も見えない。だが、確実に何かある。ならば自分がすることはその危険を取り除くこと。


 それゆえ彼は腰に携えていた自身の武器を取り出す。それは持ち手と鞘だけが存在し、中身である刀身が存在しない武器とは言えない武器。その武器を取り出し、自分で編み出した魔法名を唱える。


「自由剣 斬波」


 そう唱えた直後、持ち手の先から青い液体でできた超巨大な斬撃が上空へ飛んでいく。そして、超巨大な斬撃、横幅6mもの斬撃が宙を薙いだ時、空間が揺れるようにして見えていなかったものがあらわになる。


「「「「何だ!?」」」」


 上空に斬撃を飛ばしたことで王都から護衛してきていた人も上空に注意を向ける。


 そして彼らが見たのは、斬波の衝撃によって二つに分断された大量の白い液体。


 その液体は時速100キロを超えていそうなほどのスピードで街中に降り注ごうとしている。


 ディランはそれを見て必死に頭を回す。


(真ん中に斬波を打ち込んだから直接ラトビアン公があの液体を被ることはない。しかし、あの量の液体がぶちまけられれば余波に巻き込まれかねない。だが、ここから閣下だけ避難させるのは時間的に不可能。なら、俺が盾になるしかないか。)


 海属性の使い手の中には自在に液体を操作することができるものもいる。しかし彼はそれを十二分にはできない。彼ができるのは自身が触れるものの変形のみ。それゆえ、自身の体を変形させラトビアン公を包み込むような球形になる。


「しばしご辛抱を。」


 そう言った瞬間、隕石が落ちたのかと見紛うほどの衝撃が町を襲った。


 ラトビアン公の両側の家々は跡形もなく潰されたのち、白い液体の濁流に呑み込まれる。


 そして、謎の白い液体は辺り一帯を圧し潰し終わった瞬間に、その莫大な容積で街中を蹂躙して回る。



 ……そのはずだった。



 しかし実際は、ディランに触れられた瞬間に、2つの濁流は動きを強制的に止められる。


 そして何故か、謎の白い液体は12階程の高さの塔の形に作り替えられ、突如町中に二つの白い塔が形成された。



 一仕事を終えたディランはラトビアン公に再度話しかける。


「申し訳ありません閣下。お怪我はありませんでしょうか。」


「ない。ないが、お主なら体を伸ばして被害が出る前にあれを操作できたのではないか?」


「……確かにそうですね。閣下をお守りすることを優先しすぎて失念しておりました。」


「……はあ。お主はもう少しその頭を柔軟に使うよう努力したほうがよい。せっかくの能力が無駄になっておるではないか。」


「そうはおっしゃいましても。閣下もその無駄にスペックの高い脳みそをダンジョンの研究以外に使われては?」


「ほっとけ。儂は興味のあることにしか頭を使いたくないのだ。」


「人のこと言えないではないですか。」


 死者数が約50人出た場所で呑気に会話を続ける二人。その言葉遣いは主と護衛のそれではなかった。彼らは同級生で幼いころからお互いのことを知っていたからだ。


「では、ダンジョンへ行こう!」


「何を考えているんですか。帰るに決まっているでしょう?命を狙われているのにダンジョンに潜るとかあほのすることですよ?」


「少なくともお主よりはマシだと思うがな。」


「お戯れを。」


「何がお戯れをだ。事実だろ。それより下手人は探さなくてよいのか?」


「すでに私の分体を行かせていますし、有能な部下も動かしております。すぐに見つかるでしょう。」


「だといいがな。」


 彼らが多数の死者を出したことを気にも留めないのには理由がある。

 

 実はこの都市、形式的には王国だが、実質的には王国ではない。詳細は省くが、王国はダンジョンを利用したくて、ドミナスは他の国から襲われるのを守ってほしかった。それゆえ、ドミナスは対外的には自領を王国の領地としてもらい、形式上外交問題から守ってもらう代わりに、ダンジョンの利用を許可したのだ。


 しかし、王国はダンジョンの利用ができればドミナスがどうなろうと関係ない。王国が約束したのは形式上外交的に彼らを守ることだ。武力から守るとは明言していない。


 それゆえ、王国から派遣されている彼らにとってどれだけこの都市で被害が出ようと関係ないのだ。むしろ、被害が出て経営が立ちいかなくなった方がいいくらいだ。


「お、どうやら見つかったようです。」


「早いな。」


「部下たちが優秀ですからね。今ツインタワーに誘導してもらってます。」


「待て。二つ質問がある。」


「どうされました?」


「ここに誘導したら儂が危なくないか?」


「ですから早めに護衛の方と避難してください。」


「……お主、考えていなかっただけだろう?」


「……そうとも言いますね。」


「……はあ。それじゃあ二つ目の質問。ツインタワーってあの白い塔のことか?」


「そうですが、どうされました?」


「……案外いいネーミングセンスしているではないか。」


「お褒めに預かり光栄でございます。」




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