8. 3匹目の〝ペット〟
無事に冒険者へとなれた私は意気揚々とメルカトリオ錬金術師店に帰ってきました。
お昼になっちゃったけど……。
「あら、シズクちゃん、お帰りなさい。そのネックレス、無事に冒険者登録できたみたいね」
「はい! ありがとうございます、メイナさん!」
「よかったわ。1年間の成果が報われて。ところでその色、ランクEのはずだけれど?」
「貯めていた魔石を全部買い取ってもらったらEランクまで上がりました! あと、お金もたくさん!」
「よかったわね。お金は大切にしなくちゃだめよ?」
「もちろんです! 新しい装備を調えるために使います!」
「それがいいわね。ところで、お腹は空いていない? スープとパンだけなら残っているけれど……」
「……残しておいてくれたんですね」
「もし帰ってきたらと思ってね。食べていってくれる?」
「じゃあ、食べていきます。そのあと、朝に頼まれていたお話を聞きますね」
「そうしてもらえる? パンとスープはキッチンにあるから食べられる分だけ食べていいわよ」
そう言ってメイナさんは奥へと通してくれたんだけど、パンもスープもたっぷり用意してあって……。
これ、夕食用のものじゃないのかなぁ?
せっかくのご厚意だし、少しだけパンとスープをいただき、メイナさんのところに戻った。
居候の身であまり食べ過ぎてもよくないからね。
「あら? もう戻ってきたの? もっとたくさん食べてもよかったのに」
「ええと、あとで露店でもなにか買って食べるから大丈夫です。それで、私に頼みたいことってなんでしょうか?」
「ああ、それね。お店を一度閉めてから案内するからついてきてもらえる?」
「はい」
メイナさんはお店を一度休店にすると、私を街外れの広場へと案内してくれた。
そこはまだ土地が整理されてなくって、岩とかも転がっている場所なんだけど、なにがあるんだろう?
「あのね、シズクちゃん。あそこの岩の奥に小さな猫が棲み着いちゃっているのよ。どこかの飼い猫だったわけではなさそうだし、どうしたものかと思って」
「岩の奥……あんな狭い中にですか?」
「そうなの。時々、餌として肉の端切れを与えているんだけれど……あなたならなんとかできない?」
「わかりました、試してみます」
メイナさんが指し示した岩の方へ近づいてみると、かすかに動物の気配がする。
でも、ちょっと弱っているような……。
「(ミネル、この奥にいる猫とコンタクトを取れない)」
『無理じゃな。殺気立っていてこちらの話をまるで聞いてくれない』
「(そっか……どうしたらいいと思う?)」
『とりあえず岩の奥から出てきてもらわねばな……』
『僕が行ってみる?』
「(だめだよ。キントキも危ないよ)」
『そっか……』
でもどうしようか……。
ペット用ご飯作りも姿が見えないと使えないし……。
ちょっと危ないけれど手を突っ込んでみよう!
「えい!」
「シズクちゃん!?」
『シズク!?』
『危ないよ!?』
私の突っ込んだグローブにガブッとなにかがかじりついてきた!
よし、うまく引っかかった!
でも、痛い!?
「えいっ!?」
「ふにゃ!?」
私が勢いよく手を引き抜いたことで中にいた猫も一緒に引き抜くことができた!
うー、でも指から血がにじんでる……。
革のグローブ越しでも肉までかみつけるだなんて、この子、相当顎の力が強いよ……。
『これは驚いた。スナネコがこのようなところにいるとは』
「スナネコ?」
『うむ。砂漠地帯を生息域とする猫じゃ。なぜ、人の街にいるのかわからぬが……相当気が立っているな。これではまともに話もできまい。仕方がないので餌で釣れ』
「ペット用ご飯作りだね。わかったよ」
メイナさんにも見られちゃうけど仕方がないよね。
私は背負い袋からウルフ肉を取り出し、〝ペット用ご飯作り〟スキルを使用してみた。
できたのは……ちょっと大きめな肉の塊。
これ、食べられるのかなあ?
「おいで、これを食べてもいいよ?」
「ウニャァァ……」
『警戒されている。下がって様子を見るぞ』
「わかった。なにもしないからこれを食べてね」
私たちが後ずさっていくと、スナネコはどんどんご飯の方へと近づいて行き、勢いよく食べ始めてくれた。
お腹、空いてたんだね。
そして、そのまま肉の塊を全部食べ終わると眠たくなってきたのか、その場で眠っちゃった。
この子、どうしよう?
「シズクちゃん、手は大丈夫?」
「あ、はい。まだ痛いですけれど、なんとか……」
「今日の狩りは無理をしないでお休みにしなさい。ミノス精肉店とウェイド毛皮店には私から伝えておくから」
「え、でも……」
「タウルさんもドネスさんも、シズクちゃんが無理をしたら悲しむわよ? 私がこれから事情を説明してくるから。それからこれ、傷薬。少ししみるだろうけれど噛まれたところに塗っておきなさい。痛み止めと化膿止めの効果もあるから」
「すみません、心配をかけてしまって……」
「私の方こそ無理なお願いをしてごめんね。それじゃあ、あの子が起きたらよろしく」
メイナさんは私に傷薬を渡すと街の方へ戻って行っちゃった。
傷薬を塗ろうとして恐る恐るグローブを外してみたんだけど、歯が思いっきり食い込んでいたのがわかるよ……。
これ、グローブの中も血だらけだろうし、メルカトリオ錬金術師店に戻ったら洗わせてもらわないといけないなぁ。
********************
そのまま、スナネコが起き出すのを待っていたんだけど全然起きてくれない。
ずっとミネルとキントキも含めて待っていたんだけど、目を覚ましたのは日が暮れて夕方になってからだったよ。
お腹も空いていたし、満足に寝ることもできていなかったのかな?
「うにゃう? (わち、どうしたの?)」
「目が覚めた?」
「ふにゃ!? (人!?)」
「大丈夫だよ、傷つけたりしないから。それよりもお腹空いてない? まだご飯食べたいならもっとご飯作ってあげるよ?」
「うにゃ? (あれ? 言葉が通じてる?)」
「私、ペットテイマーなの。だから、小動物の言葉がわかるんだよ」
「にゃう。にゃにゃ(そうなの。お腹空いてるからもっとご飯ほしい)」
「待ってね、いま用意するから」
私はもう一度、ウルフ肉を取り出してスキルを発動。
今度はさっきよりも小さめなお肉になったけれど、これってどれだけお腹が減っているかでも変わるのかな?
「にゃ? (食べていい?)」
「食べていいよ」
「にゃにゃう! (いただくにゃ!)」
スナネコはまた勢いよく肉の塊に飛びついて食べ始め、私たちのことなんて脇目も振らずに食べ終えちゃった。
よっぽどお腹が空いていたのかな?
「にゃふ(お腹いっぱい。幸せ。久しぶり)」
「喜んでもらえて嬉しいよ。ところで、なんでスナネコはこんなところにいるの? ミネル……こっちのシロフクロウから聞く限りだと普通は砂漠に棲んでるらしいけど」
「にゃ(お家の近くでいい日陰があったの。そこで休んで昼寝をしていて目が覚めたら知らない場所にいた)」
『ふむ。人の馬車に迷い込んで昼寝をしていたら、知らない間に遠くまで運ばれていたと言うところかのう』
「にゃう(それで怖くてじっとしてたらここまで着いて、人がやってきて追い払われたの)」
「それは人が怖くなっちゃうよね」
「うにゃ(それで、いろいろなところで追いかけ回されるから、ここまで逃げてきて棲み着いたの)」
「そっか。大変だったね」
「うにゃう(わち、大変だった)」
この子、思いのほか大冒険をしてここまで来ていたんだ……。
でもどうしよう、この子を故郷まで戻してあげる方法がない……。
「うにゃ? (お姉さん、どうしたの?)」
「ああ、ごめんね。あなたを故郷に帰してあげる方法が見つからなくって……」
「にゃう……(やっぱり難しいの……)」
『ねえ、スナネコ。君も僕たちみたいにシズクのペットになりなよ』
「にゃ?(ペット?)」
『わかりやすくいえば、シズクに力を貸す代わりに養ってもらうっていうこと。美味しいご飯が食べられるよ?』
「にゃああ(ご飯……美味しかった……)」
「キントキ、そんなことでいいの?」
『だって、故郷に帰してあげる方法が見つからないんでしょう? だったらしばらく一緒に暮らしてあげようよ。それで、故郷を見つけられたら帰してあげればいいんだからさ』
なるほど、そういう考えもあるのか。
確かにそれなら問題ないかも。
スナネコも居場所に困らないし、食べ物にも困らなくなるわけだしいい案だよね。
「にゃう(お姉さん、うちもお姉さんのペットになりたい)」
「いいの?」
「にゃ(故郷に帰るのは諦めるの。でも、寝る場所とご飯はほしい)」
「わかった。ほしいお名前はある?」
「にゃううう……(お名前……考えたことがないから、うち、わからない)」
「そっか。キントキと同じように私の好きなお菓子の名前でもいい?」
「にゃ(いいの)」
「じゃあ、モナカ!」
「にゃう! (うん! うちはモナカ!)」
スナネコが同意してくれた瞬間、ピカって光り、首に銀色のネックレスが現れた!
やった〝モナカ〟もペットになってくれた!
『お姉さん、シズクって言うんだね。よろしくね、シズクお姉さん』
「よろしくね、モナカ」
『うん。うち、眠い……』
モナカは私に飛びついてくると抱きしめた腕の中で眠り始めちゃった。
マイペースな子だけど、仲良くやっていけるといいな。
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