7歳

 1



「お兄ちゃん、見てー」


 詩音は小学校に入学した。


 赤いランドセルを背負い、黄色い帽子をかぶった詩音。小さな背中を隠すようなランドセルのサイズ感がたまらない。


 なんて可愛いんだ。


 今日が入学式のようで、父と母もスーツ姿だった。


 あんなに小さかった詩音がもう小学生になるのだと思うと、感慨深いものがある。


「いっちねんせー、楽しみ!」



 2



「むぅ」


 難しい顔をして宿題に取り組む詩音。


「んー、分かんない」


 漢字ドリルと計算ドリルを一ページずつ、さらには本読みと、一年生の宿題にしてはなかなかハードな物量だ。


 詩音は算数が苦手なようだが、じっくり時間をかけて自分一人の力で終わらせていた。


「ふー、次は本読み」


 本読みまたは音読とも呼ぶこの宿題は、文章を声に出して読み、それを保護者に聞いてもらうものである。


 国語の教科書を開き、該当の物語を僕に読み聞かせる。


 詩音の愛らしい声が静かな部屋に溶けていく。


 途中でつっかえたりするのがまた可愛い。


「終わったー」


 しかし、詩音はここで重大なことに気づく。


 本読みはしっかりできました、という証拠として、本読みカードに保護者のサインを貰わなくてはいけないのだ。


 これは僕ではできないことだ。


 そのことに気づいた詩音は、親相手にもう一度やらなくてはいけない事実に悶える。


「うわぁー、ああーん」




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